許婚……その言葉には、さすがの俺も驚いた
だけど────……まさか、オタクだったとは……しかも、鏡夜先輩との許婚話も妄想……



「ハァ……」


足を組み、テーブルに肘をついては大きく溜め息を吐いていた。


「まさか、マネージャーになるとは思わなかったな
 しかも、鏡夜先輩の家の取引先の……ああ、気が重い……」


そんなことを呟いた瞬間だった。
ちらりと目に映ったハルヒは、ちょうど環に肩を叩かれている瞬間だった。


「これもホスト修行だ!!おとーさんは心を鬼にするぞ!」


まるで言い逃げする子供のような環。
そして、同じように逃げる光と馨と光邦と崇。
無反応でたたずむ鏡夜に、ハルヒは助けを求めようと手を伸ばしていた。


「当然、ミスれば借金倍増だ ああ、もハルヒとともに参加だからな」


他人事を決め込もうとしていたに、グサッと刺さる鏡夜の一言。


「んなあああああああ!!」


ガタッ

立ち上がり、は大声を上げ鏡夜を見つめていた。











NotxxxPersist-ence 第十一話











「ハルヒ君、くん」


第一調理室には、エプロンに頭巾姿のれんげとハルヒとの姿があった。


「クリームにお砂糖はもう入れてよくて?」


「あ……はい チョコレートの方はどうなってますか?」


「なんか、凄いことになってるぜ?ぶすぶす言ってる」


ハルヒの問い掛けにはなべを指差した。
あまり料理をしたことがなくても、ある程度は知識のある
けれど、れんげはそうではないようだった。


「わあ!!直火は駄目!」


「やっぱりな だそうだぜ」


慌てるハルヒを見て、やっぱりと肩を竦めた
れんげに、そう告げる姿を見てハルヒは思った。



そう思ってたなら、がれんげちゃんに話してくれてもよかったんじゃ……



そうすれば、そんなぶすぶす言うほどのことにはならなかったかもしれない。


「なあ、俺居ても意味ないと思うんだけど?料理なんてほとんど用意してもらってるし……」


その辺の椅子を出し、そこへどかっと腰掛ける
誰かに料理の指示なんて出来ない。
だからといって、ハルヒの手を煩わせるのは面倒でもあった。
なんせ、ハルヒはれんげの相手で手一杯状態なのだから。


「悪いけど、俺みんなんところ戻ってるから」


ヒラヒラと手を振りながら、調理室の出口へと向かう
そんなに「あ、うん」と返事をするハルヒの声を聞きながら手をひらひらと振った。


「んで、何をしてるんだ?」


出口へ到着すると、ドアの片隅で中を見ていた環と鉢合わせ。


「あ、いや……美しい光景だと思わないか?」


キラキラと瞳を輝かせながら、環はまた調理室の中へと視線を戻した。
ハルヒ目当てだと分かると、苦笑のような呆れのような息を吐き出した。


「それで、ちなみに何の作業だ、アレは」


腕を組みながら問いかける鏡夜には苦笑をもらした。


「鏡夜先輩にお菓子を作ってるんだそうで」


「やっぱパン屋とかと勘違いしてる ハルヒもかわいそうに」


の答えに光は苦笑を浮かべた。
その後姿を痛々しそうに見つめていると、突如背後から上がった「馬鹿者!」という声に驚き振り返った。


「お前らの目は節穴か!?」


微妙な怒りをあらわにした環は、腰に手を当て説明を始めた。


「甘い香りの満ちた室内 焼きたての可愛らしいお菓子たち そして!!」


ズビシッ!!

人差し指を環は達に向けた。
まるで宣言するように。


「仲むつまじいクラスメイトの"女子"二人!」


「は?」


「すべて計算通り これはハルヒを乙女に目覚めさせる一大プロジェクトなのだ!」


勝手に一人の世界へ入り込む環に、ジト目を送る


「なんでハルちゃんだけぇ〜?ちゃんも女の子だよぉ?」


光邦の指摘に、環は盛大にダメージを受けた。
すっかり忘れていたのか、には必要ないと思ったからなのかは定かではないが。

とりあえず、忘れられていたことには変わりないかもしれない。


「別に俺は乙女に目覚めさせられなくていいから、構わないぜ、ハニー先輩」


「でもぉ〜」


「それとも、ハニー先輩は乙女な俺が見たいと?そうなのだと?」


じりじりと迫るに、光邦は一歩一歩下がっていった。


「煩いわよ 特に、ニセ王子!」


ガチャ、と調理室から姿を現したれんげ。
その登場に光邦との会話もストップし、あれから延々とハルヒの乙女計画についてツラツラと喋り続けていた環も言葉をとめていた。
というよりかは、ショックを受けて座り込みいじけ始めていた。


「鏡夜様 ハルヒ君に庶民クッキーを教わりましたの
 れんげ、お料理なんて初めてだからちょっと怖かったー」


語尾にハートを散らしながら、出来上がったクッキーを鏡夜に手渡していた。
頬を染め、本当に好き好きオーラが飛び出ているかのような雰囲気だ。


「そうだな……かなりいい色に焼けているね」


いつものように営業スマイルを忘れない鏡夜。


「そうなの、ヘタクソなの!でも……分かってますわ」


鏡夜がクッキーを受け取ったのを確認すると、両手を頬に当てた。
ポッと照れながら、背中を向けるれんげ。


「鏡夜様ならきっと、『君の作ったものならご馳走だよ』って……」


「まずい」


「何じゃコリャ 岩か」


「美味しくないねー」


呟くれんげの言葉をさえぎり、それぞれに感想を述べる光と馨と光邦。
唯一崇は無言のまま食べていたのだが。


「悪かったわねぇぇぇ────!」


メデューサのごとく、れんげは四人を追いかけた。
その怖さに、光邦は悲鳴を上げながら逃げ惑った。


「ハールヒ」


れんげの様子を苦笑して見つめていたハルヒ。
自分の作ったクッキーをちょうど口に含んだ瞬間、光が声を掛けてきた。


「口直し」


と言いながら、ハルヒが加えていたクッキーにかぶりついた。
唇と唇が重なりそうで重ならない。


「────ッ」


ツキン……

それを見ていたら、の心臓が鷲づかみにされたように痛んだ。
ズキズキと、まるで疾患があるかのように痛みだす。



イライラする……



分からない感情が、ふつふつと押し寄せてくる。
爆発しそうな感情を必死に押し込めて押し込めて、気分が悪くなる。


♪食べる?」


近寄ってきた馨に、視線を向けた。
そこには、クッキーを加えた馨が見えて。


「は?」


口を割って出てきたのは、凄く不機嫌な声だった。


「だから、クッキー 食べないの?」


「……持ってないだろ、他に」


口にくわえているクッキーしか見当たらない。
なのにどうやって食べろと言うのだ、とはジロリと馨を見やる。
その様子が、馨は楽しいらしく笑みがこぼれる。


「あるじゃん、ここに」


「……んな馬鹿なこと出来るか、阿呆!」


「元気出たっぽいね」


怒るは、いつものように鋭くキツく言葉を発する。
その様子にくすくす笑いながらも、まるでそうなるように計算していたと言わんばかりに呟いた。


「馨 にあげるならそう言ってくれれば、もう一つあげたのに
 光だって、欲しけりゃまだあるんだから……」


「とりあえず、クラスメイトの"男子"とはかなり仲良しだな」


溜め息を吐くハルヒを見つめ、鏡夜は環にそう淡々と告げた。
それが環のショックを拡大させると知っていながら。


「おおおおお前のリアクションは間違っています!!
 そこは拒絶すべきところであって、軽く流すところでは────」


「セクハラはやめて下さい、キス魔先輩」


ハルヒの頬を両手で覆いながら、必死に呟く環。
しかし、そんな環の言葉を遮ってハルヒは完全なる拒絶を示した。

それは、光と馨のテンションを上げる効果もあり、の毒舌にも磨きをかけることになるとも知らず。


「ぬるいですわ」


ポツリ……

小さく聞こえたれんげの呟き。
自然と騒いでいた声は途絶え、れんげに視線が集まった。











to be continued.....................




長くなった気がするけど、気にしない^^
とりあえず、やっぱりまた光と馨とハルヒとヒロインの関係でギシギシと。
何度こういうことが起きればいいんだ、こいつらは……と突っ込みをしたくなります。
が、そうしてるのは書いてる私なんですよね。(苦笑)






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