「ぬるいですわ……」


ポツリ

れんげが小さく呟いた。
その言葉に全員の視線が注がれた。


「鏡夜様以外、総じてキャラがぬるい!!」


ビシッ!!!

勢いよく言い張り、ホスト部全員(鏡夜以外)を指差した。









NotxxxPersist-ence 第十二話









「あまりに『影』が欠如していますわ 乙女は美男の『トラウマ』に弱いもの!
 そんなバカみたいなノリだけでは飽きられるのも時間の問題!」


「何だ、何を言うと思えば……別に飽きられるなら飽きられていいんじゃねーの?
 それまでだって事だろ?」


ドライにれんげの言葉には肩をすくめた。
終わりなら終わりでいい。
それならばハルヒも借金代わりにホストを続けなくていいし、自身もさっさとやめることが出来る。


「何を仰っていますの!?あなたは……あなた方は、鏡夜様のお店を潰す気ですの!?」


わなわなと震えるれんげに、は自分が火に油を注いでしまったのだと気付いた。
盛大に溜め息をつき、肩を竦めるとれんげの気が晴れるまで言わせておこうと諦めた。

こうなってしまっては、何を言っても効果はないのだから。


「今日からキャラを一新します!まずはあなた!」


言い切り、れんげがまず指差したのは光邦だった。
指差された光邦は、うさぎさんの人形をぎゅっと抱きしめ涙目でれんげを見つめた。


「外見も中身も可愛いだけなら幼児と同じ!
 よって……『可愛い顔して実は鬼畜』────!」


「にゃ゙ぁぁぁ────!?」


れんげの指摘に涙を流し、うさぎの人形を強く抱きしめ、悲鳴のような声を上げた。


「銛之塚先輩!埴之塚につき従いつつも、その身を案じている!たまに喋る一言に絶大な重みを!!
 双子はあまりの酷似ぶりに個別意識されない悩みがある!そして、バスケ部!
 ハルヒくんは超貧乏な優等生で、イジメにあっている!」


ビシバシと、それぞれに指示を出すれんげ。
馨にはバスケ部小道具であるバスケットボールを手渡した。


くんは、生きることに執着心を持っていない!怪我することさえも気に掛けない!」


れんげの指摘に「うーわー」と、困ったような表情を浮かべた
なんともズバリな的中具合に、何も言えないのだ。


「そして環さん!!」


唖然としていた環に向けて、れんげは人差し指を向けた。
その行動に、次は自分だという事が分かった環の表情は一気に固まった。
何を言われるのか分からないからこそ、構えてしまう。


「外見ばかりを評価され、実はコンプレックスを抱える学院のアイドル『孤独な王子』!!」


そんな指摘の何に魅力を感じたのか、環は顔を覆うように構えた手をふるふると震わせながらソロリソロリと下ろした。
そしてその下ろした手を口元にもってくると。


「……ぴ、ぴったりだ……」


どうやら気に入ったらしい。
キラキラと背景に星やら花やらを飛ばしながら、一人世界に没頭する。


「で、鏡夜は?どうキャラ設定を変えるんだ?」


「鏡夜様は完璧ですわ ですから、変える必要はありませんの
 いつまでも慈悲に満ちたあなたでいて……」


の問い掛けにれんげは首を左右に振った。
一番間違っているであろうれんげの想像に、その場に居た全員が呆気に取られていた。


「「鏡夜先輩さぁ……どうにかしてよ、あの子」」


「さて……?」


光と馨は方をすくめ、同時に鏡夜に助けを求める。
一番信頼していて、言葉を受け入れてくれるのが鏡夜だと分かったから。
しかし、双子の言葉に鏡夜は笑って言葉を返すだけ。


「世話はハルヒとに一任してあるしな」


「え、俺もやっぱりそうなのか!?」


ハルヒに押し付けてしまおうと思っていたのに名前を出され、後に引けなくなってしまった


「それに、ほら」


そう言い指差す方向へ視線を向けると、そこにはれんげに話しかける環の姿があった。
壁に身体を寄せ、周りに星を飛ばしながら。


「れんげくん、れんげくん!孤独のポーズとはこんなものだろうか……?」


「なかなかですわ、環さん!雨があると、より効果的ですわ、きっと!」


そんな二人を見つめ、鏡夜は眼鏡を中指の腹で押し上げた。
カチャリと、独特の音が鳴る。


「部長が乗り気だ」


その言葉に、誰も返す言葉もなかった。
見ての通り、そして鏡夜の言葉通り、そこに居る環はノリノリだったからだ。


「まあ、様子を見ようじゃないか 面白いことになるよ……たぶんね?」


ふ……と不敵な笑みを浮かべた鏡夜。
その笑みが、とてつもなく黒く見えたのは目の錯覚ではないだろう。









「つーか、なんなんだよ……俺のお家事情でも知ってんのか?あいつ」


現在、光と馨のシーンを撮影中だった。
そのためは、少し離れた場所で壁に寄りかかり溜め息を吐いていた。



確かに、そこまで執着はしてないけど……



ずばり的中なれんげの言葉を思い出し、笑ってしまう。
他の部員の設定も、何気にズバリ的中な感じになっていて侮れない転校生だった。


「どうせ……俺の存在価値なんか……」


「カァ──ット!!そこ!!台本通りやれェ!!」


溜め息を吐いていたの耳に、れんげの激しい声が聞こえてきた。
今はまだ撮影中にも関わらず、だ。
カットと言っていたことからして、たぶん誰かがミスでもしたのだろう。


「何度言えば分かるんですの!?第一棒読みもいいとこですわ!
 カメラ!一旦止めて!雨!もっと切なげに!!」


「イエス、ボス!」


れんげの指示に、撮影スタッフは親指をグッと突き出し返事をした。
怒られているハルヒの隣では涙ぐむ光邦の姿があった。


「この撮影チームはいったい……」


そんなハルヒは、大掛かりな撮影に驚いていた。
こんな世界、ドラマ撮影などでしか見られないと思っていたからだ。
まさか自分が体験することになるなんて、きっと誰も考えはしない。



俺も考えなかったからなぁ……ははっ



「ミスったかー?」


そんな風に笑いながら、はハルヒ達の元へ合流した。
撮影するために降らした雨でびしょ濡れのハルヒ達に、はタオルを差し出す。


「この撮影チームな、ハリウッドから急きょ呼んだらしいぜ?全く、とんでもないこと考え出す奴だな」


くいっと顎で撮影チームを指し示しながら、は答えようとしていた鏡夜に変わって答えていた。


「というか、そもそもキャラ改革の話からいつの間に短編映画撮影会に……」


「確か、オープニング映像とかなんとか……」


ハルヒの言葉に続けて発したのは馨だった。
微苦笑を浮かべ、なんとも表現しがたい表情だった。


「あーアホくせー」


「まだはいいじゃんか 撮影はまだだったんだろ?
 俺らなんかバスケだよ?なんでバスケなんかやんなきゃなんないワケ」


の言葉に光はまだいいじゃないか、と反撃をしてきた。
確かに光の言うとおり、はまだ撮影はしていなかった。
濡れることもなければ、ハルヒみたいに怒られることもない。


「だいたいさー、見ろよこの台本」


そういいパラパラと開いた台本。
そこにハルヒとと光邦と崇は視線を落とした。


「何?」


「そこ読んでみて」


の問いに、馨は溜め息交じりに言った。
読む?と疑問に思いながら視線を落とすと──


「一見光がリードしているが、実は精神的大人の馨の方が攻め」


読んだ瞬間、の目が点になった。
いったい何という設定になっているのだ、と驚くことしか出来ない。


「「そのままだから、却下!」」


「ええええ!?そうなのぉ!?」


光と馨の言葉に光邦は驚いた。
目を見開いて、その可愛らしい口調で壮絶に。
けれどはなんとなくそんな印象は受けていたから、そこまで驚きはしなかったものの。
あってそれほど経っていないれんげが、よく見抜いたものだと関心はした。


「ハルヒ!!どうだ、俺の演技力は!」


嬉しそうな表情を浮かべ、まるで飼い主を見つけたときの犬のように環は駆け寄ってきた。
その様子には大きく溜め息を吐く。
環は、今回の撮影会に大きく影響してしまった人だから。
というか、撮影会に至った原因が環であるといっても過言ではない。


「ある意味凄かったです」


「さすが、自分大好きーな環先輩だな」


ハルヒとは自分なりの褒め言葉を口にした。
それを環がどう取ろうなんて、どうも思わないし、知ったこっちゃないのだ。


「俺は新たな一面を発見したぞ!しばらくこの路線で行くのも悪くな……」



待て、それは困る!



環の言葉を聞き、ちょっと慌てた
これ以上、環のキャラが面倒になっても困るのだ。


「そうですか?」


が何か言葉を発する前に、ハルヒがそんな風に疑問系で言葉を発し首を傾げた。


「先輩は、今のままでいいと思いますよ?」


「…………」


上目遣いで、環を真っ直ぐに見つめるハルヒ。
これが女性だと分かっていれば、ときめかないはずがない。
環はハルヒをジッと見つめ、固まった。



よし、ハルヒ、よくやった!



内心ガッツポーズな


「そうか……うん……お前がそう言うなら──……」


照れながらも、ハルヒの言葉を受け入れようとした。
その照れる様子がなんとも可愛らしく見えてしまうのはなぜだろうか。


「ハルヒくーん!ちょっと手伝っていただけるー?
 あ、くんも一緒なら、一緒に来てもらえるかしら?」


「はい?」


「行ってみるか」


れんげの声を聞き、ハルヒとは顔を見合わせた。
いったい何をしようとしているのか、二人には全く予想もつかない。
けれど『いいこと』ではないような気がしてしまうのは、今までからの経験から察知できたのか。








to becontinued.............




もうそろそろ問題のシーンに参ります。
今回は双子との絡みが少なかった……じ、次回こそは!!(ぐっ)






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