「はい?」


「何だ?手伝って欲しいってのは」


ひょっこりと顔を出し、そこに居るであろうれんげに声を掛けた。
案の定角を曲がるとそこにはれんげが居て。


「この方々に出演交渉をしたいと思って」


「なんか用か、特待生とお坊っちゃん」


ニッコリ笑うれんげの後ろには、悪役顔負けの顔つきをしているD組の生徒が二人居た。
ガンを効かせるようにハルヒとを見つめていた。










NotxxxPersist-ence 第十三話










「……出演交渉?」


首を傾げるに、れんげは大きく頷いた。
まるで、よく聞いてくれた!と喜ぶように。


「クライマックスには悪役がつきものですものね!
 バラバラだった部員たちが仲間を真の悪者キャラに傷つけられた事によって一つになる!
 まさにうってつけなのですわ!彼らは!」


「ちょっ……れんげちゃん!!」



うわー……あいつら目の前に、それ言っちゃまずいだろ……



興奮するれんげは、D組の連中が真後ろに居ても言い放つ。
その様子に驚くハルヒ。
は内心大きく溜め息を吐いていた。
あんなことを言われて怒らないほど善良なものには見えなかったから。


「最後は鏡夜様の感動的なお言葉で学校一の不良共も改心する、という素晴らしいエンディングなのですわ!!」


「れんげちゃん……」


最早止まる様子を見せないれんげに、ハルヒもどうすることも出来ずむなしく名前を呼ぶばかり。
その声はれんげには届かず、空気に溶け消えていく。


「れんげちゃん!」


けれど、このままにしておくことも出来ずにハルヒは大きく名前を一度呼んだ。
すると喋りっぱなしだったれんげはピタリと止まり、ハルヒを見つめた。


「そういうのって便利なのかもしれないけど、『枠』で人を計ってたら見えないものもたくさんあるんじゃない?」


「……?言っている意味がよく分かりませんわ?」


ハルヒの言葉にれんげは首を傾げた。
その言葉の意味さえも理解できず、キョトンとした表情を浮かべるものの。
すぐに撮影途中だったことを思い出したのか、後ろに立っていた二人の腕を掴んだ。


「さ!とにかく、こちらでスタンバイを!」


パイプなどの頑丈なもので出来た撮影器具のそばを通ろうとするれんげ。
しかし、D組の生徒二人がそう易々とれんげのいう事を聞くはずもない。
しかも『不良』呼ばわりされたのだから、当然といえば当然だ。


「うわっ、こら、テメェ!さっきから好き勝手言いやがって!!」


いきなり引っ張られて数歩進んでしまうが、慌てて踏みとどまる。
そうしてれんげを睨みつけた。



やばい雰囲気だな……



こうなった雰囲気をすぐに崩すことなんて出来るはずもない。
なってしまった雰囲気に、は一つ溜め息を零す。


「A組だからって図にのってんじゃねぇぞ!」


「きゃっ」


「危なっ……」


怒りに任せてれんげを突き飛ばす男子生徒。
バランスを崩したれんげは背後にズンッと立っていたパイプなどの頑丈なもので出来た照明の方へ倒れていった。
それに気付き駆け出すハルヒ。
けれど、ソレよりも早くれんげを助けていたのは──

ガンッ!!


「──っ」


「うっ」


声にならないれんげの悲鳴と、勢いとれんげの重心を受けて背中をぶつけたの呻き声が漏れた。


くん!く……」


「大丈夫……なんともねぇよ」


慌てるれんげに笑顔を向ける
けれど、一瞬背中をズキンとした重い痛みが走り顔を顰めてしまう。


「どこが大丈夫な……」


「いいから!大丈夫だ……少し強く打っただけだから、休めば平気だ」


おろおろと今にも泣きそうな顔をするれんげに、強く言い切る。


「「ハルヒ!?!今の何……」」


「げ!」


凄い音に驚き駆けつけてきたのは、光と馨だった。
珍しい顔ぶれにハルヒとは驚くも、驚いたのは男子生徒二人も同じだったようだ。


「手を出したのはどっちだ?」


ジロリと二人を見つめ、声を上げたのは馨だった。
じりじりとにじり寄るように男子生徒に近づけば、向こうもその迫力に恐怖を感じ始めた。


「別に俺らはそんな……」


「二人そろって退学にしてやろうか?」


少し離れた場所に、環が立っていた。
地べたに座り込む男子生徒二人に睨みを効かせ、問いかける。
須王という立場、きっと簡単にやってしまうだろう。


「待て!先に絡んできたのはそっ……ヒッ!!」


言い返すも、背後にいつの間にか立っていた崇に悲鳴を上げる。


「に、逃げろっ!!」


A組という金持ちクラスの連中に適うはずもないと思ったのか、慌てて二人で逃げ出した。
けれど、そんな二人を誰も追おうとはしなかった。


、大丈夫?」


「……ああ とりあえずは、な」


地面に膝をついたまま、問いかける光に苦笑を浮かべた。
ズキズキと痛むけれど、こんな痛みは平気だった。


「カ……カメラ!押さえまして!?今の流れ!これよ!まさに理想的ですわ!
 あとはラストに鏡夜様の感動的な……」


そんなれんげの言葉と同時に、カメラのレンズがガシャンと壊される音が響いた。
そこに立っていたのは、大きめの石を手にした、無表情な鏡夜だった。


「きょ、鏡夜様!?」


「申し訳ないが、部員の暴力行為を記録に残すわけにはいかないんでね
 こういう迷惑の掛けられ方は非常に不愉快だ」


無表情なのにどこか怒りを見せる鏡夜に、れんげは瞳に涙を溜めた。
怖いからではない。
怒らないと思っていた最愛の鏡夜からの怒りを向けられたからだ。


「なんでえ?鏡夜様なら『気にしなくていいよ』って……優しく頭を撫でてくれて……鏡夜様なら……」


「や でも、そんなの鏡夜じゃないし」


れんげの言葉に環は微笑を浮かべた。
今の行動こそが、本当の鏡夜なのだと。
れんげの見ていた鏡夜は、れんげの妄想上の鏡夜に過ぎない。
あまりにもかけ離れすぎた──


「まーいいけどね、割と面白かったし」


「ま、確かにな それなりにみんなの演技は面白く見れたわな」


それは、自分が撮影に参加していなかったから言えたこと。
けれど、もし参加していたら?
それはそれで楽しかったのかもしれないとは思っていた。


「好きになる理由なんか、人それぞれだけどさ」


溜め息交じりに馨が呟き、れんげを見つめた。
座り込むれんげの前には、いつの間にかハルヒが座り込んでいた。


「ちゃんと『人』を見て、少しずつ知っていくのも楽しいと思うよ?」


優しく、涙を流すれんげを慰めるように。


「そうそう、それが人付き合いってもんだ 最初から相手のことをすべて知ってる人間なんか居ないって」


「……ご迷惑……おかけしました──……」


ハルヒとを交互に見つめ、シュンとなりながらもどこか嬉しさを噛み締めた表情でれんげは小さく呟いた。
そんなれんげを部員全員が穏やかな瞳で見つめ返す。


「っと……わりぃ ちょっくら着替えてくるわ」


先ほど機材か何かにぶつかった際に汚れてしまった制服。
はひらひらと手を振りながら、踵を返した。









to be continued.............




ああああ、またも双子との絡みが……
でも、大丈夫!次回は確実に絡みがあるので!
早くあのシーンを書きたかった!ずっと考えてたシーンが次こそは来る(はず)!






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