「ってぇ……」


第三音楽室の準備室へと足を運んだ
そこでようやくブレザーを脱いだ。


「「ー?大丈夫?」」


そんな中、聞こえた光と馨の声と同時に開いた準備室のドア。
別段慌てる必要もなかったは、そのまま首だけを振り返るようにドアの方を見つめた。


「んな大げさな ただぶつかっただけだろ?大丈夫だって」


ははっと笑いながら、または視線をブレザーの方へ向けた。
そして、汚れている裾の他にブレザーの背中部分に見えた赤い色にハッとした。


「で!それだけでここまで来たのか?」


慌てて二人の方へ身体を向ける
背中を見せないように、と慌てているのが丸見えだ。


、背中……」


「……っ」









NotxxxPersist-ence 第十四話









馨の言葉に、は息を呑んだ。
背中、と言われてしまったのだから見られてしまったという事。
ブレザーについているのだから、その中に来ていたワイシャツについていないはずがない。
背中からにじみ出た血がワイシャツにつかずブレザーにつくはずがないのだ。


「怪我してんじゃん!保健室行かないと!!」


「大丈夫だって!古傷が開いただけだから、すぐに血も止まるって!」


保健室にという二人に、大げさだとは言う。
別に女であることを隠しているわけでもないのだから、保健室に行っても問題はないのだが。


「うそつけ」


「え?」


溜め息交じりの馨の言葉に、は目を丸くした。
驚きの色がの瞳に映りこむ。
自分の怪我には鈍感で、何でもかんでも『大丈夫』の一点張りだったのに。
そんなの裏を馨は読んでいた。


「光、を押さえて」


「オッケー!」


「ちょっ……何すんっ」


「はいはい、ちょーっとごめんねー」


馨の指示の通りに光はを捕まえた。
そんなの元に馨は近づき、背中を向けさせた。
暴れるの言葉に耳を貸さず受け流しながら、馨はワシッとワイシャツに手をかけた。


「──へ?」


するっ……

ワイシャツの裾が捲り上げられていた。
小振りながらもハルヒよりかはふくよかなの胸を覆う下着が馨の視線に入る。
背後から息を呑む声が聞こえれば、一気にの恥ずかしさも積もる。


「いきなり何すんだ!?」


じわり……

声を上げ身体を動かした瞬間、傷口から血が滲み下着にも染みこんでいく。


「暴れると傷が広がるって」


「──っ」


馨の言葉と同時に傷口に触れる柔らかい感触。
清潔なハンカチで傷口から滲み出る血を拭き取っていたのだ。
けれど、それすらもピリリと痛みに感じてしまう。

びくっ

肩が揺れ、両目をギュッと閉じてしまう。
その様子が、いつもとは違って女の子らしく光にも馨にも見えた。



ああ……やっぱりは女の子なんだ



そんな風に二人は確認していた。


、そんなビクビクしなくても大丈夫だって」


くすくすと、馨は笑みを零した。
いつも強気なの見せる弱さが、どこかくすぐったい。


「そうそう 変なことするわけじゃないし」


「〜〜〜っ!!」


光の言葉に顔を真っ赤に染め上げた。



変なことって、変なことって……いったい今、何を考えてたんだ!?



今しがた思ったことを言ってやりたいと思う反面。
大声を上げられない現状に、内心溜め息が零れた。


変なことするわけじゃないし


思い返される光の言葉。
その言葉を思い出すたびに、ドキドキと胸が高鳴ってしまう
こんな感情は普通じゃないと、もうすうす感じ始めていた。
他の人には感じない、不思議な気持ち。


「はい、おしまい」


馨のリズミカルな口調と同時に下ろされるワイシャツの裾。


「とりあえず、薬塗って大きめの絆創膏を貼っておいたから」


「あ、ありがとう ってことは、開いてた傷口自体はあまり大きくなかった?」


「ん、まあね じゃなきゃ包帯なり巻かなきゃ駄目だったでしょ」


の問い掛けに馨はくすくすと笑い、の頭をぽんぽんと撫でる。


「何だよ、その手は!!」


「なんでもないよ
 んじゃ、ちょっと僕は保健室に新しいブレザー取りに行ってくるから、光あとはよろしく!」


そそくさと第三音楽室準備室を抜け出していく馨。


「ちょっ、馨!?」


驚く光は馨に手を伸ばすも、パタンと扉が閉まってしまえば行き場のなくなる手。
ゆっくりと下ろされた。


「……よろしくっていったい何すりゃ……」


「とりあえず、準備室に部員以外が来ないようにするとか?」


の言葉に光の瞳が見つめ返してくる。
そして幾度か瞳を瞬かせると。


「ワイシャツでも見た感じ男に見えるけど?」


確かに、身体のラインがぴったり見える服を着なければ誤魔化しのきく体系である
ハルヒよりかは危険度は高くなるけれど、それでもサラシをしないで誤魔化せるあたり小振りということだ。
ブレザーを着れば、完全に分からなくなるほどなのだから。


「光……それって凄い屈辱だぜ?」


「あっはは 悪い悪い」


ジト目を向けるに笑いながら謝るが、全く悪びれた様子が見られない。
そんな光には大きく肩を落とし、溜め息を吐いた。


「ったく、ホント完璧な男扱いだよな ハルヒとは大違いだぜ」


そういい準備室に置かれていた椅子に腰掛けようと身体の向きを変えながら一歩を踏み出した。
瞬間、背中に感じるピリリとした痛み。
血を止めて応急処置をしたとしても、傷はあるのだから痛みを感じるのは当たり前。


「ったぁ」


不意打ち的な痛みに足元がぐらついた。


「わわ!ちょ、!?危な……」


慌てて駆け寄る光は倒れそうになるに手を伸ばし──


「「うわっ」」


一緒にバランスを崩し、床に倒れこんでいた。


「いったたた……」


「ったく 応急処置しても傷はなくなってないんだから、少しは気をつけろよな」


いきなりの転落に、二人は目を閉じていた。
呟きながら、互いにゆっくりと瞳を開くと──


「「──っ!!」」


息を呑む二人。
顔は近く、息が顔にかかるほど。
光の顔の向こうに天井が見える位置にいるは床に倒れていて。
の顔の向こうに床が見える位置にいる光はの上に覆いかぶさっていて。


「っと、悪い悪い」


驚いた光だが、特に何の反応もすることなくの上から退いていく。
そうして倒れているに手を差し伸べた。


「い、いや……俺こそわりぃ」


その手を取り、立ち上がりながらは顔を真っ赤に染め上げていた。
それは確実にが光を意識したという証拠でもある。



どうしよう……凄いドキドキする……
こ、これって……もしかして……



ドキドキする胸は止まることなく高鳴り続ける。
真っ直ぐに光の顔が見れず、俯き気味になってしまう。


「光ー!ー!お待たせ、持ってきた……よ?」


そんなことがあったとはつゆ知らず、馨は準備室のドアを開いた。
普通にしている光と、光に手を借り真っ赤な顔で立ち上がるを見つけ、馨は首を傾げた。
二人の対照的な反応。
いったい何があったのか……と。







to be continued.............




急展開ー!!
そして、ヒロインがようやく自覚か!?
どうする光、どうする馨、ヒロインどうする!w
てか、十四話で片思いを自覚とか……遅すぎるというか、これから馨と恋愛を発展させなきゃなのに。(笑)






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