「あ、かっ馨!!」
「お、来た来た 遅かったじゃん」
救いが来たと思ったとは裏腹に、ようやく来た片割れに純粋に喜びを示す光。
「……光、 いったい何があったの?」
その問い掛けに、は何ともいえない情けない表情を浮かべた。
まるで、聞かれたくないような。
恥ずかしいと顔に書いてあるような。
いつものからは想像さえ出来ない、そんな表情だった。
NotxxxPersist-ence
第十五話
「ちょっと光!に何をしたんだよ!?」
「は!?何もしてねーよ!」
の様子を見て、まるで何かいけないことでもしたんじゃないかと光を疑う馨。
そんな馨の言葉に目を見開き、光は慌てて否定した。
そう、本当に何もしてはいなかった。
ただ、あれは事故なだけ。
「か、馨……本当に何でもねぇから あれはただの事故なんだよ」
言い辛そうに、けれど言わなければあらぬ誤解をまた招く。
何かあったとすれば……それはたぶん、光が好きだって気付いたことだと思う
は言葉には出さなかった。
けれど、あの時感じた心の感覚を理解していた。
だから、ずっとハルヒにもやもやを感じていたのだと、理解した。
「事故?」
「あ、そう、事故!だから、それ以上は突っ込むな!」
馨の疑問そうな表情に、は慌ててストップを押した。
これ以上聞かれて答えるなど、には耐え切れないものがあった。
「ふーん じゃ、光、教えて?」
「ああ、あのな──」
「アホ──!!」
光に向き直る馨と、今さっき起きた出来事を平然と話そうとする光に、は大声を上げた。
「あ、!暴れると、また背中が痛むって!」
「──っ!」
その言葉イコール、あの事故へとつながるから。
ボッと顔を真っ赤に染め上げて、の動きはピタリと止まった。
「何があったのか、凄い気になるんだけど」
「気にしちゃ駄目だ 気にする必要はない」
馨の言葉に、馨は関係ないからと突き放す。
真っ赤な顔は地面を見つめ、二人を一向に見つめはしなかった。
「別に教えてくれてもいいじゃーん あ、もしかして、照れてんの?」
馨はニヤリと笑みを浮かべると、まじまじとを見つめた。
すると、ボンッと爆発でもしたかのようにの真っ赤な顔はよりいっそう真っ赤に染まりあがった。
今までに見たこともなかったの反応に、馨は眉を潜めた。
いつも、ハルヒとのやり取りを見ていて悲しげな表情を浮かべるのは見慣れていた。
けれど、今の様子は光を意識しているようで。
「い、いいだろ!!別に、んな事どうだって!ブレザー!ブレザーくれよ!」
真っ赤な顔で馨を睨み、グイッと手を差し出した。
馨の持っているブレザーを早く手にしたかった。
「……背中、大丈夫なの?」
ブレザーをに渡しながら、馨は首を傾げた。
「あ?別に平気だぜ?古傷が開いただけだしな」
ひょうひょうと言ってのけた。
けれど、そんなの答えに光と馨は顔を見合わせた。
「あ、今『古傷でも開けば痛いのに?』とか思っただろ!」
「「ふつー、そう思うって」」
の言葉に光も馨も同時に軽く笑った。
そう思うのは、当然の反応。
まるで、古傷が開いただけなら痛くもないと言っているようにも聞こえたから。
「あのな……いくら何でも、俺だって人間だぜ?痛いに決まってんだろ」
肩をすくめ、大きくみえみえな溜め息を吐いた。
けれど、その答えだって当然の答えだ。
「ただ、怪我とかに鈍感って言ったらいいのかな……この怪我をしたのがキッカケでさ、結構我慢出来ちゃうんだよな」
「「──え?」」
「見ただろ?背中の傷」
の問い掛けに、光も馨も少し間を空けてから頷いた。
思い出すだけでも痛そうな傷。
何をすれば、あんな傷が出来るのかと思うほどに……普段の生活からは想像し得ない傷だった。
「あの怪我が大丈夫だったんだから、他の怪我なんて何ともない」
はハッキリと言い切った。
いらない子、無駄な子と言われ続け、怪我さえもロクに治療してもらえなかった。
必要のない子に、必要以上のお金は掛けられないと冷たく言われ、いつも家族の蚊帳の外。
そんなことがあったからこそ、は大丈夫だと思うようになったのだ。
「、それは違うと思うんだけど」
「いんや、違わねぇよ 大丈夫なんだから、大丈夫なんだよ 我慢できるんだから、大丈夫なんだよ」
は、その考えを変えようとは思わなかった。
馨に言われても。
そして、それはきっと光に言われても同じことだっただろう。
「……いったいどんな家庭で育ったんだよ、」
唖然とし呟く光の言葉に、は言葉を詰まらせた。
どんな家庭といわれれば、一番に出てくる単語は『冷たい』家族だ。
「……どんなって、普通の一般家庭だぜ?どこにでもあるような……な」
そう、姉である稗にとってはきっと普通の一般家庭。
にとっては、憎しみの対象にもなる家族。
の名に泥を塗りたくなるほどに、憎い家族。
「一般家庭には思えないって」
「それは、馨や光にとっての一般家庭論だろ?」
馨にそう指摘されてヒヤッとした。
けれど、慌ててそう紡げたのは本当に考える一般家庭論はの今呟いた一般家庭論とはかけ離れていると理解していたから。
あんな家庭が、果たして普通の一般家庭と呼べるのか。
答えは即でる──……否だ。
「う……それは、そうだけど……」
「なら、この話はこれでしまいな」
言葉に詰まった様子を見て、はホッと胸を撫で下ろした。
これ以上追求されては、どこかでボロが出るかもしれないから。
「着替え終わったんだし、戻ろうぜ!」
明るく、パシンとは光と馨の肩を叩いた。
「「お、おー!」」
戸惑いながらも、明るく呟くを見ていれば気のせいかもしれないと思えてくる。
渋っていた掛け声を少しの間を空けて呟き、同時に拳を振り上げた。
それでも、背中の傷の事、の家族の事、光と馨は違和感を感じずには居られなかった。
to be continued.................
うーはー……悩みに悩んだ結果、こういう話に終了。
いつか主人公の設定も明るみに出せたらいいなって思う。
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