「光……馨……お前ら、二日間接客は禁止だ!」


小一時間近くの説教の後、環は光と馨にそんな指示を出した。
二日間の接客禁止と、罰掃除だ。












NotxxxPersist-ence 第十七話












ぶすっと、不機嫌極まりない光と馨は制服のままモップ片手にソファーに座っていた。
目が据わり、今にも般若な表情になりそうなほどに機嫌は最悪だ。


「光くんと馨くん……?お、お身体の具合でも……?顔色が真っ黒ですわ」


環の接客を受けていた女生徒の一人が、光と馨の方に振り向きながら言った。
少しだけ心配そうに、けれどその迫力に少しだけたじろぎながら。


「ああ……自分たちの思い通りに行かないと、すぐコレでね
 出来損ないの鎮痛剤のようなものさ」


肩をすくめ環は女生徒に解説した。
そして、二人から視線を女生徒に向けなおすと微笑を浮かべた。
にゅ、と指先を女生徒い向ける。


「バフ○リンの半分は優しさで出来ているが、彼らの半分はワガママでできているのだから」


「まあ 博識でいらっしゃいますのね」


それを博識と言っていいのかは分からない。
けれども、女生徒が環の言葉に関心したのは言うまでもない。
キラキラと輝く環を見つめ、女生徒は瞳を輝かせていた。


「ねぇねぇ、ハルヒくん、くん」


「はい?」


「何だ?」


他の席で合同接客をしていたハルヒとは、女生徒のそんな声に視線を向け首をかしげた。


「右わけが光くんで、左わけが馨くんなのは分かるんだけどー」


「他に分かりやすいポイントってないのかしら?髪形変わると分からなくて……」


カップの紅茶を飲みながら、女生徒二人はこっそりと問いかけてきた。


「そうですね……しいていえば、光の言動の方が一割り増し性格悪そうですよ?」


「ああ、確かにな どっちかと言ったら、馨のが常識人って感じはあるかもな
 でも、馨は結構人のこと見てんじゃね?些細な反応に気付くっつーかさ」


「そうだった?」


「ああ」


ハルヒの言葉には頷き付け加えた。
そこで馨のことについて思い出したように呟いたが、ハルヒは馨が些細な反応に気付いていたかどうか分からず首をかしげた。


「……言っとくけど、僕は包み隠さないだけで底意地悪いのは馨の方だけどね」


やハルヒの発言を聞き、くすくす笑っていた馨に光は不機嫌な口調のまま言った。
それに頭にこないほど馨も出来た人間ではなかった。


「適当言わないでよ 光の我侭に付き合ってんのは僕だろ 言い出しっぺは僕でも掘り下げんのは馨じゃん
 嫌なら止めろよ、馬鹿かお前」


「あまりに光が阿呆で見てられないからだろ」


一向に視線を交えない光と馨。
静かな口調で言い合いを繰り返す二人の間に、炎が見えるような気がした。


「なぁ、やばくね?ハルヒ もしかして俺らの発言が原因か?」


「……キッカケはそうでも、喧嘩始めたのは二人だし……気にしなくていいんじゃない?」


二人を見ていてハラハラし始めた
問いかけるにハルヒはあっさりとした言葉を紡いだ。


「だいたいさ、おもちゃとかいいつつ……光、ホントはハルヒの事好きなんじゃないの〜?
 明らかによく触ってるし」


「はあ!?」


「──……っ」


馨の発言に光は驚きの声を上げ、視線をようやく馨に向けた。
その顔は少しだけ赤く染まっているようにも見えた。
そして、そんな発言を耳にしては息を呑んだ。
ぎゅ、と膝の上で拳を握ってしまう。


「なんでそーなんだよ やっぱ馬鹿だな 大体なんであんな豆ダヌキみたいなのを好きにならなきゃなんねーんだよ
 馨こそのこと気にしたり、ちょっかい出したりしてんじゃん お前こそ好きなんじゃないの?」


「はあ!?なんでそーなんだよ!?」


今度は仕返しとばかりに光が馨に言い放つ。
確かに、光の言うとおり馨はを必要以上に構ったり気にしたりしている。
そう言われても仕方がないのだが、やはり驚きの声を上げてしまう。


「いい加減にしろよ!僕よか数学弱いくせに このチビ!」


「光はもっと語学系勉強したほうがいいかもね このデブ!」


がるるるる、と獣の鳴き声でもしそうなくらいに光と馨はにらみ合っていた。
そんな二人を遠巻きに見つめながら環が遠巻きに「いや……外見は……同じ……」と届くはずのない言葉を発していた。


「人の布団にいっつも入ってきやがって!いーメーワク!」


「光が寂しそうだから仕方なく添い寝してやってるだけだろ!?」


言い合いは止まることなどなかった。
馨の歯軋りが、光のねぞうが、いちいち風呂覗いてこのヘンタイ、エロガッパなどなど、悪口は後を絶えない。


「「絶好だっ!!!」」


最終的にたどり着いたのは、そんな子供染みた捨て台詞だった。
暇を与えてしまった双子は、機嫌が最低となり、その結果絶交へと発展すると達は理解した。










「なぁ、光」


「ん?」


放課後、ほぼ学生の帰った教室にと光は席に座ったままだった。
背もたれに寄りかかり、近くの席に座っている光に声を掛ける。


「馨と仲直りすんだろ?」


「は?絶交したんだ、仲直りするわけないじゃん」


の心配げな問い掛けに光は馬鹿にするように笑いながら否定した。
腕を組み、まるで『今でも怒ってます』という態度を取り続けていた。


「……あんた等が本当に不和になるとも思えねぇんだけど?」


「そんなのの想像だろ?」


の言葉に、一向に絶交の色を隠さない光。
かたくなに『絶交してやる』という色を放出したままだった。


「……因業」


「悪かったな」


の言葉に、不機嫌極まりない光の返事。
肩をすくめ、微苦笑を浮かべるとは席を立った。
机わきにかけて置いた鞄を持ち、教室の出入り口へと歩んだ。


「深化し過ぎる前に仲直りしろよな?」


たとえ、二人の我侭から始まった喧嘩だったとしても。
あの仲の良かった二人が仲違いしたままなのは、には耐えられなかった。
今すぐに仲直りしろとも言えないは、だからこそそんな風に促すだけにした。


「へぇ 、僕の心配してくれんだ?」


光の、楽しげな問い掛けには教室を出る直前で立ち止まった。
けれど振り返りはしない。


「あ、当たり前だろ!」


振り返らないのは、強く認める言葉を発するの顔が真っ赤に染まりあがっていたから。



好きだから……だから、心配すんのは当たり前じゃんか!



そう思うのに、はその思いを口に出来ない。
今の関係が壊れるのが怖いから。
そして、光がハルヒを気に掛けていることが目に見えて分かるから。
玉砕すると分かっていて、自分の気持ちを口に出来るほどは強くもなかった。
けれど、だからといって諦められるほどは弱くもなかった。


「じゃ、じゃあな!」


バタンと教室の扉がしまった。
教室の中にいる光と、廊下に出たの間に隔たりが出来上がる。











to be continued.................




好きだと自覚する前も大変だったけど、好きだと自覚した後も苦労は耐えない主人公だった。
馨じゃなくて光にしたのは、まだ主人公が光を好きだから。
こういうとき、絶対好きな人の方へ行くと思うんですよね。






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