「騒がしいと思えば……あいつら、まだやってんのか 部の恥だな」


ズボンのポケットに手を突っ込み、呆れた様子の環。
溜め息を吐き、いまだに喧嘩を続ける双子に呆れ返っていた。


「なぁ、環先輩 あいつら何とかなんないのか?」


「無理だな」


の言葉にうんと頷く環。



やっぱり……無理なのかよ……
ハァァァァァ……



無理だと分かれば、余計に溜め息が零れる。
本当に何とかならないものかと思考を捻らせても、何も出てきはしなかった。











NotxxxPersist-ence 第十九話











「弁当、中身なに?」


「……昨日の煮物と玉子焼きとか」


光の問い掛けに答えたハルヒ。
ええと、と思い出しながら弁当の中身を答えた。


「僕のと替えてやるよ 食えないし、これ」


馨と別のものにしようとしたら、食べられないものになったらしい光。
盆ごとハルヒの方にズイと手渡した。


「んな、食事くらい自分の好きなの食えばいいじゃんか 意地張ってるからそーなるんだぜ?」


光の隣に腰掛けて、は大きく溜め息を吐いた。


「別にいいだろ?に迷惑掛けてるわけじゃないんだし」


そういいながら、ハルヒと交換する光。
ハルヒといえば、交換してもらった食事を口に運び頬を染めていた。



美味いのか、美味いんだなっ



その表情に、笑いを堪えた。
庶民生活のハルヒにとって、きっと学食なんて遠い存在だったのだろう。
そして、学食に使われる食材だって、ほぼ口にすることはないだろう。


「ハルヒ美味いの?こっちのもやろうか?」


馨はハルヒの隣に座り、微笑んだ。
馨、ハルヒ、光、の順に座り、は遠巻きに二人の喧嘩とそれに巻き込まれるハルヒを見るような感じになっていた。


「はい、あーん」


ハルヒの顎に手を沿え、スプーンを運ぶ馨。



うっわぁ……
目の前で初めてみたよ、この『あーん』をやる人っ



目を丸くしてしまう
テレビや物語の中でしか見られないと思っていたからこそ、なんだか新鮮だ。


「こりゃ、どーも」


ぱくっ
馨がハルヒに差し出したスプーンの中身を食べたのは、ハルヒではなく光だった。
その光景に、はつい「ぷっ」と笑い声をもらした。


「ば、馬鹿すぎる……」


ケタケタとお腹を抱えながら笑う
その隣で、ハルヒを間にはさみ物や食べ物を投げあう双子。


「……主犯はどなたかね?」


そんな、少し怒りの含んだ教頭の言葉での意識はようやく戻ってきた。



うわ……教頭コンソメスープまみれじゃん……



そんな感想を心の中で述べながらも、光と馨の指差しあう間に居た環にすべての責任が転化された事に、また笑いがこみ上げてきた。


「だははは!ほんと、環先輩って災難な傾向にあるなぁ」


お腹を抱え、ケタケタと笑う
けれど、その後部員全員で掃除をする事になり、はムスッとし始めた。













「つ、疲れた……なんで俺らが……しかも、あいつらいつの間にか逃げてるし」


部室の机にベターっとへばり付きながら、は溜め息を吐いた。
慣れないことはするものじゃない、という事をつくづく思った出来事だった。
しかも、原因である双子がやらなかったのだから、余計に嫌になる。


「この状況が続くようなら、兄弟愛設定も変えざるを得ないが……
 指名率ダウンは確実だな ペナルティはおいおい考えるとして……」


電卓で計算を始める鏡夜。
すべてはホスト部の経営へとつながる頭をしているらしく、その様子には唖然とした。
二人の喧嘩の仲裁や、仲直りを考えるよりも、何よりも優先するのが。



鏡夜先輩は……あいつらが心配じゃねぇのかよ……



少しだけ、イラだった。
心配しているのは自分だけなのかと、胸が苦しくなる。
そんな事ないとは分かってる。
鏡夜だってああ言いながらも、二人の自体が悪化しないように設定を変えようと言っているのかもしれない。
それでも、なんだか凄く嫌で嫌で。


「ヒカちゃんとカオちゃんが喧嘩なんて、初めてだよねえー」


「ああ」


「そうなんですかっ?」


光邦の言葉に崇はいつものように頷くばかり。
けれど、違う反応があるのは高校に入ってから付き合い始めたハルヒがいるから。



俺だって知ってる……
二人はいつも……一緒だった



一緒にいるから、仲がいいと思っていた。
そう思っていたからこそ、"喧嘩なんてしない"という先入観があった。



いや……先入観じゃないか
"喧嘩なんてしたことがない"なんて事がないと……思ってたんだ



絶対、きっと、たぶん。
そんな言葉で片付けられる曖昧なものだけど、あれだけ仲がいいのだから喧嘩の一回や二回しているんじゃないかと思っていた。
それが学校で見れないのなら、それこそ二人が毎日顔を合わせるであろう『家』で。


「喋ったことなかったけど、いつも二人で居たぜ いや、二人で遊んでたって言った方がいいかもしれないな」


当時を思い返しながら、が答えた。
あの頃の光と馨は、まるで他人を拒絶するかのように一線を引いていた。
いつも二人、何をするにも二人。
二人だけで居ればそれでいいような、二人だけの世界で居たような。

そんな風に人の目には見えていた。


「ああ……俺は中等部からしか知らないけど、かえって浮いてたよな
 自分たち以外は誰も寄せ付けないって感じで」


「今よりも、たぶん数倍性格歪んでたと思うぜ?」


環の言葉に、の付け加えるような言葉に、ハルヒは無言で耳を傾けていた。
何の感情も見えない。
ただ聞いているような、心の奥深くで何かを考えているような。

全く、その心のうちを見せないような、そんな表情だった。


「そう考えりゃ、喧嘩なんていい傾向なのかもしれないな」


ぽふ、と環はハルヒの頭に手を乗せた。
くしゃくしゃと撫で回すわけでもなく、女生徒にするように髪を梳く手つきで触れるわけでもない。
ただ、言い聞かせるような。


「少しは『世界』が広がってきてるってことじゃないの?」


ハルヒの顔を覗き込むように見つめ、「ね?」と笑った。


「この際、ほっとくのが一番──」


そういい、足を一歩踏み出した瞬間だった。
チラリと環の足元に何かが見える。


「あ……」


が声を漏らすも、遅かった。
ピン、と環の足が紐を引っ掛けた。
瞬間、飛んできたのは数多の矢だった。


「「ちっ」」


「やっぱ制裁!!」


舌打ちした二人に、環はピキと表情を固めた。
すぐさま二人の方に向き直ると、怒りの表情を浮かべ一気に駆け出した。
絶対に捕まえてやる、という心意気で。



本当に……本当に、喧嘩した事ないのか?
そんなにも仲がいいのか?
まるで……喧嘩でもして、二人の仲が壊れることを嫌がっているような
いつでも、二人セットでいないと駄目なような……そんな気がする



外で環に追われる二人を、音楽教室から見下ろした。
互いに罵声を浴びせながらも、環に捕まらないようにと必死に逃げる。



本当は仲直りしたいんじゃないのか?
ただ、方法が分からないだけ……
ただの子供と同じだ……初めて喧嘩した時に、どちらからも謝ることの出来ない子供と



そう思ったら、は自然と身体が動いていた。
一歩を踏み出し、外で逃げ回り走り回る二人の下へと足が向かう。


ちゃん?」


?」


歩き出すに、光邦とハルヒが首をかしげ声を掛けた。


「俺、行ってくる」


「え?」


呟くに、間の抜けた声を上げたのはハルヒだった。
庶民育ちのハルヒならよく分かると思っていた。
けれどハルヒは行動しない。



……俺が行動するの、待ってたんかな
それとも……行動するって、分かってたのかな



それは、もしかしたらの考えすぎかもしれない。
けれど、いつもなら真っ先に動くハルヒが動かないのが不思議だった。


?行くって……」


「光と馨んとこ 当たり前だろ?このまま喧嘩させっぱなしってワケにはいかないだろーが
 絶対、あいつら後悔してる 子供みたいに意地張って謝れなくて、誰かが手を差し出してあげなきゃなんねーんだよ」


そう呟くと、は背を向け教室を出た。



じゃなきゃ、きっと思ってもいない言葉が口をつくんだ
心無い言葉が口を割って出てきて、相手を傷つけて……どんどん傷口が開くんだ



そうなる前に、早く止めないととは急いだ。
歩く速度を速めて、いまだに喧嘩をやめる気配を見せない二人の下へ。



頼むから──……頼むから、あいつらには仲良くいて欲しいんだ
仲の悪い二人なんて嫌だ
今の二人は……あいつららしくないっ
そんなの、俺の我侭だってわかってるけど……どうしようもないんだっ













to be continued.....................






原作ではハルヒが助けに行ったから、ここは主人公に譲らせようと。(笑)
たぶん、ハルヒなら主人公が行くって勘付くと思うんですよね。
双子の喧嘩はいつも思います、絶対子供の喧嘩のようだって。
主人公が言ったように、謝ることの出来ない子供の喧嘩みたいだなって……(苦笑)






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