あいつらの喧嘩は見たくない
あいつらの傷つく顔は見たくない
二人には仲良くしていて欲しい

そんなの、俺の我侭だってことは重々承知だ
だけど、仕方ないんだ……惚れた弱み

俺は、あいつらの笑顔が好きなんだ
あいつらの笑顔が……見たいんだ
いつでも、どんなときでも……
あいつらの──……

      笑顔を
















NotxxxPersist-ence 第二十話
















「──で……?トラップはこれで全部なのかな?迷惑兄弟よ」


さまざまな罠をその身に受けても、環は追いかけるのをやめなかった。
腕を組み、呆れるような、呆れながらも怒っているような、そんな表情を浮かべていた。


「馨に聞けば?」


「光に聞けば?」


光と馨は声を合わせ、そう言った。
けれど、そうやって声が合ったことさえも喧嘩の対象になってしまう。
駆け出し、ようやく見つけた二人の姿。
けれど、はすぐに気付いた。



やばいっ



今の空気が、とことん歪んでいることに。


「冗談じゃない 迷惑してんのはこっちだよ 馨と顔も何も一緒でさ」


馨に背を向け、光は言った。



そんな事、言いたいんじゃないだろ?



そう思い言いたいのに、距離がまだ足りない。
絶対に届かない距離に、ヤキモキする。


「お前に間違われんのもうんざりだし、ほんとはお前なんて大嫌いなんだよ!!」


「──っ!そんなの、こっちの台詞だよ!」


光の言葉に馨が怒るばんだった。
ムッとした表情を怒りの表情に変えて、光の言葉に反撃をする。


「見ろ!猫澤先輩から入手した呪い人形だ!」


取り出した人形にその場にいた全員が唖然とした。
ようやく到着した、その後ろから追いかけるように走ってきた光邦や鏡夜達もあきれ返っていた。
喧嘩に何をそんなものを──と。


「後ろに光の名を刻んである 人形が受けたのと同じ苦しみを味わうんだっ」


そういい、馨は人形を振り上げた。
その行動にハッとするハルヒ。
駆け出そうとするハルヒには静止させた。


「お前なんか、こうしてやる!」


振り上げた腕を振り下ろし、人形を地面に叩き付けた。
けれど、効果なんてあるはずがないと誰もが思っているからか、その行動に驚きはしなかった。
当然、光にだって何の症状も見られない。


「くそっ」


「何が同じ苦しみだ!」


何も起きない事に馨は唇を噛み、光はギリ……と奥歯を噛み閉め馨をにらみつけた。
強く握り締めた拳を振り上げて、馨に駆け寄っていく。
それを見て、は大きく溜め息を吐いた。


「──っ」


「「!?」」


駆け出したに、ハルヒを初め環や鏡夜、光邦に崇も驚いていた。
そして、目の前に現れたに二人は驚き、してしまった行動に光は目を見開いた。


「……ってぇ」


唇が切れ、の口から血がかすかに流れる。
嫌な鉄の味がする。
殴りかかった光の前に飛び出し、馨をかばった。
けれど、それは同時に二人を助け、二人を傷つけたことになる。


「ったく……いつまで馬鹿みたいな喧嘩してんだよ」


ギロリとは二人を睨んだ。
口から流れる血を拭うことはせず、ただジッと。


「初めて喧嘩する?引き際が分からない?馬鹿言ってんじゃねぇよ
 ここまで悪化させてどうすんだ?思ってもいないこと口にして、自分傷つけて、相手傷つけて……満足か?」


楽しかったか?とは二人を真っ直ぐ見つめたまま問いかけた。
けれど、光も馨も答えられなかった。


「他人にまで迷惑かけて、客である女の子達だって心配してたんだぜ?
 お前ら、それ分かってたか?遠巻きに見てた俺達だって、お前らのこと心配してたんだからなっ!?」


怒りで、声が震える。



違う……
心無い言葉で傷ついたことのある、俺の心が一緒に叫んでるんだ
嫌だって……
でも、光と馨は違う……心無い一言じゃない、思ってもいない、流れで出てしまった言葉だ



まだ修復できる仲。
それが凄く羨ましかった。


「お前らは……凄い仲良くて、いつだって一緒で、二人で悪戯して意地悪して楽しんで……
 嘘の言葉で自分も相手も傷つけんな 一度負った心の傷は、そう簡単に消えないんだっ
 頼むから、こんな喧嘩でいらない傷増やすなよっ」


苦しくて苦しくて、悲しくて悲しくて。
説教するつもりが、どんどん気持ちが重くなっていく。


「お前らは、修復できんだっ さっさと仲直りしろっ」


「そうだよ!?ただの喧嘩であんな人形持ち込んだり……二人とも悪いし、周りに迷惑掛けるのはもっと悪いよっ!」


息の上がってきたに変わり、怒ったのはハルヒだった。
思い出し、苦しくなっているを支えながら二人を見下ろした。


「ちゃんとごめんなさいしな!今すぐ仲直りしないと、一生うちになんか来させないからね!」


こんな感情をあらわに怒るハルヒはなんだか珍しくも見える。


「「ふぅん……じゃあ、仲直りしたら行ってもいいわけ?」」


台本と人形の裏に書かれたハズレの文字を見せる二人。
その様子に、全員がピシリと固まった。


「ごめんよ、馨!台本通りとはいえ、あんな酷いこと言うなんて……」


「そんな……僕こそ光に怪我でもさせたらどうしようって……」


キラキラと光輝いて、仲の良さを見せ付ける二人。
いちゃいちゃしながら、の方に向き直った。


「でも……、ごめんな」


「悪かった あんなに親身になってくれるとは思わなかったんだ」


光と馨の謝罪の言葉には笑った。


「んな深刻な顔すんなよ!本当の嘘だったならいいんだ!」



そう、嘘だったなら、二人の絆が壊れることもない
傷つくことだって、傷つけることだって……
心に、傷を負うことだって……



必死に笑顔を浮かべ、バシバシと二人の肩を叩いた。
それでも、一度感応してしまった心はすぐには収まらない。
ザワザワと波立って、あの頃のいやな記憶を思い起こさせる。


「ほら!明日から、存分に接客してもらうことになるんだろうから、しっかりな!」


鏡夜を見てから笑っていった。
たぶん、きっと鏡夜から凄い数の接客とかを回されるかもしれない。
それでも、そんな事態を引き起こしたのは二人自身なのだから。










to be continued.......................





喧嘩して思ってもいないことを言って傷つけあう二人を見て、昔の自分と重ねあわせる主人公。
まるで昔の自分と家族のようだ……と。
ああいう心無い一言って、言った本人も、そして言われた人も傷つくんじゃないかなぁ。
だから、喧嘩って後味悪いね……そして、喧嘩ってあまり好きじゃない。
どっちも疲れるから、体力的にも精神的にも。(笑)






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