助けに来たのが……環先輩だと、すぐに分かった
光じゃねーのが、少し残念で
だけど少しだけ

安心した

だけど、水の動きで揺れて見える環先輩はなんだか……
少しだけ……ほんの、少しだけ

怖く見えた

助けてくれたのに
手を差し伸べてくれたのに
そう思うのは、失礼かもしれねーけど、思った、怖いと
静かに怒っているような、そんな感じで










NotxxxPersist-ence 第二十四話










「げほっ……げほげほっ」


ちゃん!!」


「「殿!!」」


!」


咳き込むと、そんなを抱きかかえる環。
慌てた部員メンバーが海岸に上がってきた環達に駆け寄ってきた。
凄く心配そうな、驚いたような表情。

そして、ハルヒは慌てて暴かれたの身体を隠すように毛布を被せた。
女生徒達にはバレてしまっていて今更かもしれないが、いくらなんでも女性の肌を男性に見せ続けるのはよくない。
ザワつく生徒をよそに、ハルヒは冷静に行動を移した。


「あいつらは?」


「身分証を預かって丁重にお帰り頂いたよ」


環の問い掛けに、鏡夜は眼鏡のフレームを持ち上げながら答えた。
その様子に環は無表情のまま「そうか」と返すばかり。
その静けさがやけに怖い。
そして、見える部員達の心配そうでいて、少し怒っているように見えるのも、少しだけ。


「鏡夜 光と馨も お客様をホテルにお送りする手配を
 ハニー先輩は猫澤先輩に医者呼んでもらって」


テキパキと指示を出していく環。
冷静な声色が、を不安にさせた。



……みんな?



悪いことをしたとは思っていなかった。
あれは、自分が一番適材だと思っていたからこそ、は行動に移した。
自分の身なんて厭わない。


「んな……大げさな」


こんな怪我も、こういう仕打ちも。


「俺にとっては慣れきったことだ 医者なんて必要ない どうせ、何ともねーよ」


にとっては、いつもの事なのだ。
けれど、環達にとってはそんな事は関係なかった。
は、どんなに口が悪くて男っぽく振舞っていても"女"であることに変わりない。
普段、どんなに女扱いしなくたって、こういう時は絶対に女扱いをする。





低い、冷たい環の声にはジッと視線を向けた。
崇へと受け渡されながら、こんな環を見るのは初めてのの肩が少しだけビクリと動いた。


「おまえはアレか?実はハニー先輩並の有段者だったり、飛び込みで入賞経験でもあるわけか?」


「は?んなわけねーだろ?」


ようやく、真正面から環の顔を見つめることが出来た。
その表情に、少しだけ驚いた。
本当に、怒っていると思えた。


「それじゃ何?俺達が近くにいたのに呼びもしないで、女の自分一人で男三人も何とかできるって……どうして思うわけ?」


「呼ぶ必要がなかったからだろ 別に、あいつらを何とかするつもりじゃなかったしな
 ハルヒや女の子達を守れればそれでいいだろ、俺なんて別に……」


「少しは自分の事も考えろ!少しは大事にしろ!馬鹿!」


環の問い掛けに、は?という表情を浮かべ淡々とは答えた。
その答えは、なら絶対に口にするような内容だった。
自分の身は厭わないが、男三人を倒すために立ちはだかった訳じゃないのは、なんとなくでも想像はつく。
けれど、実際にそんな言葉を聞くと悲しくて、悔しくて、環は叫んでしまった。



何、それ……



けれど、自分の事を考えることも、大事にすることも今までなかったにとって理解し難いことだった。
そういう事を教わらなかったから。


「迷惑かけたのは謝る!悪かったよ!でもな、そういう事を言われる筋合いはねぇだろ!?
 俺は別に、間違ったことはしちゃいねぇ!俺のことはどうでもいいんだよ!そう教わったんだ!」


実際は、教わったわけじゃない。
両親の、家族の行動がそうだと言っているようでそうだと"思い込んだ"のだ。


「そうかよ……」


の頑として譲らない言葉に、環はイラっとした。
女生徒達をホテルへ送り終わった光と馨が環達の方へ合流しようと駆け寄ってくる最中、環はびしっとを指差した。


「それなら勝手にしろ!間違いを認めるまで、お前とは口をきかん!」


「ああ、そうかよ!言っとくけど、俺はいった事間違ったとは思わねぇからな!」


崇に抱きかかえられたまま、背を向け去る環の背中にも叫んだ。



俺は心配されるような人間じゃない
なのに、どうしてそんな風に心配するんだよっ



ずっと思い込んできた考えが真っ向から否定された。
それが凄く悔しくて、信じてきたものが崩された気がして、嫌で嫌で。


「今のはが悪いんじゃん?」


「……馨までそんな事言うのかよ?」


「だって、自分の身はどうでもいいなんて言うからだろ?」


「実際その通りだ」


「違うね」


馨までも、の意見を否定する。
それがなんだかムカついて、目つきが鋭くなってしまう。


「お前まで、俺の存在価値を否定すんのかよ……っ」


「「「……え?」」」


ギリ、と奥歯を噛み押し殺すように呟いた
その言葉に双子とハルヒは目を見開いた。



家族に必要とされず、無駄な子だと、いらない子だと言われ続けた俺は……
この身体で、家族を守った……大嫌いな、あいつらを
だけど……分かったんだ、その時に

俺は、誰かをこの必要なく無駄に生まれてしまったこの身体で守ることが出来るって

なのに、そんな俺の存在価値さえ、存在理由さえ否定されたら……



「俺なんて、やっぱりいらない人間だったんだな……」


ポツリと、小さく呟かれた言葉。
悲しみに満ちているようで、けれど諦めるような分かっていたような、溜め息。


「下ろしてくれ、モリ先輩 も、平気だから」


そう呟き、崇の腕から逃れたは一人歩き始めた。


!?」


「どこもいかねーよ 猫澤先輩の別荘に行くだけだ……一人にさせろ」


そう呟き、無言のままは歩き続けた。
そんなに、誰も声を掛けられず追いかけることも出来なかった。













「……って、が言ってたんだ」


猫澤の別荘に到着した馨達は、即座にの言葉を環に伝えた。


「……だから、あんな風に頑として意見を譲らなかったわけか」


なんだか納得できてしまった。
詳しい事情は分からないが、それでも自分の身を省みず誰かを助ける事がの存在価値になっている事だけはよく分かった。
だからこそ、環や馨の言葉を認めることが出来なかった。
それこそ、自ら存在価値を否定することとなってしまう。


「だから、あの撮影機材にぶつかって怪我した時も平然としてたのか……」


「そう思ってみると、あれこれ思い返すと思い当たる節……結構あるな」


自分の身を省みないという事は、つまりは怪我さえも厭わないということだ。
平気で、自分の身を傷つけてしまう。
はそんな危うさを持っていた。


って……いったいどういう家で育ったんですか?」


ハルヒの素朴な疑問。
けれど、誰も答えられなかった。


「家族とは不仲だという事くらいしか知らないな」


厳しい家なのは、誰もが知ること。
そして、不仲なのはの言動からも理解は出来る。
けれど、それ以上じゃない。


「僕、に謝ってくる」


「俺も──」


「馨、環先輩のぶんも謝っておいてね」


「ああ」


くるりと踵を返した馨に環もついていこうとした。
けれどハルヒが環を制し、馨に頼んだ。

馨さえ気付いていない感情に、なんとなくだけれどハルヒは気付いていた。
自分には疎いのに、なんだか分かってしまった。











to be continued......................




物語は急激に展開を迎えまーす♪
とりあえず、主人公の非公開設定をそろそろ公開しようかと……長かった。(笑)






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