タスケテ

         必要ない

キヅイテ

         どうでもいい



私は……

       俺は……











NotxxxPersist-ence 第二十九話











誰が来たんだ……?



母親が風呂場を後にして、少し経った。
けれど、一向に戻ってくる様子もなかったから。
びしょ濡れのまま、風呂場の出入り口を見つめていた。


!!、どこにいんだよ!?」


突如聞こえた声に、の心臓が跳ねた。
だって、普通ここにあるはずのない声だったから。



……光?
どうして、うちに……?



疑問はそれだけじゃなかった。
なぜ、の母親の声がしないのだろうかと疑問だった。
絶対、止めるはずなのに、と。


「……ひか、る?」


「ここかっ!?」


小さく呟いた声。
けれど、丁度近くを歩いていたのか光の耳にの声が届き。

ガラッ

勢い良く風呂場の扉が開かれた。
目の前に広がる光景に、光は息を呑んだ。


「……なんで、ここに?」


びしょ濡れのまま、見上げる
髪は肌にぴったりと張り付き、服も身体のラインをハッキリさせるように張り付いていた。


「玄関で、馨や鏡夜先輩がおばさんを止めてくれてるんだよ」


そう言いながら、光は手近にあったバスタオルに手を伸ばしに掛けた。



なんで……こうやって助けてくれるんだ?
どうして……こんなに俺の心を揺すってくる……?



ドキドキと心臓が跳ね上がる。
期待してしまう。
違うと思っていても、もしかしたらと思ってしまう。


「何で話してくんなかったんだよ」


「……言っただろ?心配掛けたくないから言えないって」


「だけどっ!!!」


「ここまでなるまで一人で背負うなと?」


光の引かない言葉にが疑問を向けた。
掛けられたタオルで髪に染みこんだ水分を拭いながら。


「そうだよ!!僕らはの友達だ!!それに……は気付いていなかったのかよ
 そうやって隠して、僕らがどれだけ心配してたかって」


気付いていた。
気付かないほど、は鈍感じゃない。
分かっていて、話さなかった。


「知ってたよ」


「ならなんでだよ!」


光の叫びに、はタオルを投げつけた。
ぼさぼさの髪がの表情を隠してしまう。


?」


俯いたまま、フルフルと震えるに光は首を傾げた。


「……みんなが好きだからに決まってんだろっ!?
 光の事が大好きだから……心配掛けたくなかったんだよ!
 俺の心の闇を見て欲しくなかったんだよ!知られたくなかったっ!!」


言ってしまった心。
みんなは好きだけれど、は光が大好きだった。
好きだからこそ、知られたくないことだってあるのだ。


「……


息を呑んだ。
全く、想像していなかった。
が自分を好いてくれているなんて、光は全く。
みんなが好きだと思っているのは、なんとなく気付いていても、まさか光の事を、なんて。


「……ごめん 僕、の気持ちには……」


「……だと思った」


断る光の言葉を聞き、苦笑交じりのの声が遮った。


「期待させるような行動取るなよ そうだと思ってたから、本当は言うつもりなかったんだから」


言ってしまって、傷つくのは目に見えて分かっていた。
告白しただって、告白され断る光だって、傷つく。

全く違う傷。
けれど、同じくらい──比べられないくらいの、傷。


「……みんなは、玄関にいるんだな?」


「え?あ……うん」


立ち上がるを見上げ、一瞬戸惑った。
まるで、何もなかったような表情。
だから、一瞬だけ返事が遅れ──けれどすぐに、光は頷いた。











「あ、ちゃんだよぉ!」


「ああ、ようやく連れ出してきたようだな」


の登場に気付いた光邦が声を上げた。
その隣で眼鏡を押し上げ呟く鏡夜。


「なんだか……迷惑かけたみたいだな」


「本当だよ、 もっと早く相談してくれれば良かったのに」


「悪い悪い」


ハルヒの言葉に苦笑を浮かべ、肩をすくめた。
心はぐらつくけれど、無理に笑う。


「そうだ、!」


「あ?」


「もう、は解放されたんだぞ!」


声を上げる環の言葉に、は瞳を瞬かせた。
だって、そんな言葉を聞くことになるなんて全く想像だにしなかったから。



解放……?



だから、ピンとこなかった。


「そうですよね?おば様」


黒い笑みを浮かべ、鏡夜がの母親に問いかけた。
その声にビクリと肩を揺らし、けれどすぐに余所行きの笑顔を浮かべた。


「え、ええ……そうですわね 一人でこうして暮らせているのですもの……家は稗が継ぎますし」


その笑顔がピクピクと痙攣するように引きつっていた。
本当は解放なんてしたくないという母親の思いが、伝わってくるようだった。



そりゃそうだよな……
こんな、ストレス発散に持ってこいな存在なんて、なかなか現れるはずもねぇもんな



手放したくなんてないだろう。
けれど、須王や鳳、常陸院に埴之塚に銛之塚の家を敵に回したくないのも事実だろう。


「そ、それでは……わたくしは、この辺で失礼させて頂きますわ」


そそくさと、立ち去るようにの母親は荷物を纏めると家を出て行った。

いつまで手を引いているか、どこまで効果があるのか分からない。
けれど、確実にこの五家を敵に回すことが得策と考えるはずはないだろう。
どんなに家が大手だったとしても、この五家には敵いはしないのだから。


、大丈夫?」


「あ、ああ……」


解放された事が嬉しかった。
助けてもらえたことが嬉しかった。
心の荷が、枷が、全て外れたようで、凄く軽くなった。


「あ、ありがとう……」


苦しいことがずっと続いていた。
予想しなかった事だって起きた。
けれど、そんな事も気にならないほどに、嬉しかった。


「別に構わないさ の正体が広まるのを止められなかったこちらの落ち度でもあるからな」


「それじゃ、今日のところは僕らは帰るよぉ」


「そうですね も、少しゆっくり休んだほうがいいしね」


鏡夜の言葉も、光邦の心遣いも、ハルヒの優しさも、今は凄く涙が出そうになるほど嬉しかった。


「そうだな!いろいろと立て続けにあったわけだしな!」


その言葉で、ツキリと胸の痛みを思い出す。
光に視線を向け、すぐに環に視線を戻す。


「あ、ああ 気を使わせて悪いな ありがとう」


そう言うと、立ち去るハルヒ達に手を振り見送った。



そうだ……いろいろとあったんだ
波立つ心……早く収まるといいんだけどな……



溜め息を吐きながら、ドアを閉めようとした。
が、かすかに声が聞こえた。


「……?」


全員、一緒に帰ったはずだった。
けれど、人影が一つ玄関に向かって走ってくる。


!」


「か、馨!?」










to be continued..................






ホスト部取材のあの話みたいに、少しばかり主人公母を脅迫w
これからは、恋愛方面にズシッと向かうかと……
でも、ところどころ主人公のトラウマ(暗闇とか怪我への無頓着とか)出せたらいいなぁと思います。






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