紳士のたしなみ レッスン一
"ダンスの基本はステップから"
NotxxxPersist-ence
第三話
「よくって?ハルヒくん」
ス、と春日崎はハルヒの手を取った。
そして、手取り足取り教えるように微笑む。
「右・左・右(クイック・クイック・スロー) "スロー"で足を揃えるの」
そう告げながら、リードして教えていく春日崎。
ハルヒは言葉と動きを目で追う事に必死になっていた。
「必ず殿方からリードを パートナーをよく見て?」
「は、はい……」
春日崎の言葉に頷き相槌を打ちながらも、ハルヒは必死だった。
右、左、み……
心の中でそう繰り返し呟き、リズムを取っていたハルヒ。
しかし、そのハルヒの足が春日崎の足を軽く踏みつけてしまった。
「わっ」
「きゃっ」
どたたたた
そのまま春日崎を押し倒す形で倒れてしまったハルヒ。
「あーあ 初っ端からやっちゃったよ、ハルヒの奴」
ははは、と遠巻きに見ていたがそう呟いた。
肩を竦め、楽しげに。
「す、すみません、春日崎さん……!!」
「いいのよ、ハルヒくん……」
慌てて謝るハルヒに、笑顔で抱き付くように首に腕を回した。
「ハルヒって意外に抜けてるなー というか、ドジ?」
「あ、もそー思う?」
ドジを連発するハルヒを眺め、うんうんと頷きながら呟く。
その言葉に、光が視線を向け首をかしげた。
「なんだ、光もか?同意見かよー……」
嫌そうに返事を返す。
しかし、その表情は言葉とは裏腹に少しだけ嬉しそうに微笑んでいた。
「光も、って事は僕も同じ意見になるわけだよ?」
クスクスと笑いながら、馨も同意見だと頷き返した。
……って、もしかして……?
呟きながらも馨はの表情を見て、何となく勘付くものがあった。
それは、の心の奥底に眠る感情。
「あー……ほんと、あんた等って双子だよなー」
同意見だという馨に、肩を竦めて苦笑した。
予想はしていたけれど、やっぱりそうだと分かると笑ってしまう。
「んで、あそこで環先輩は何をしてんだかな?」
盛大に溜め息を吐いた。
憐れむような冷たいような、そんな視線を環に向け意見を光と馨に乞う。
けれど、視線は一向に向けない。
「あー……黄昏てんなー、殿 しかもモデルポーズでっ!!」
ははは、と笑いながら指摘するのは光。
「自分が練習相手になりたかったんだってさ」
「は?身長的に無理じゃね?むしろ、そうしたらハルヒが女役になっちまうじゃねーか」
「ほんとだよね アホじゃん」
馨の言葉には馬鹿にするような色を瞳に浮かばせた。
一度馨に視線を向けてから、またも環に視線を向け馬鹿にするように呟いた。
その言葉に、光も盛大に頷き同意していた。
「えー?僕らへーきだよぉ?」
「「ハニー先輩とモリ先輩はいいの 常識外キャラだからね」」
ぐるぐると崇とダンスの練習(?)をする光邦の言葉に、光と馨は息ピッタリに反した。
その言葉に苦笑しながらも、も納得の意見だった。
「別に!?好きじゃないわよ!?食器なんて!!」
「お?何だ何だ?」
聞こえた春日崎の声に、達の意識はまたもハルヒの方へと向けられた。
顔を真っ赤にさせた春日崎が、必死にハルヒの言葉を否定していた。
「やあね、何言っ……あつっ!」
ガチャガチャッ
音をたててカップを置いた所為か、春日崎の手に紅茶の湯が跳ねた。
「お、おい!大丈夫かよ?」
その様子を見ていたが近づき、声を掛けた。
その声に、潤んだ瞳で春日崎は見上げ。
「ほ、保健室行きましょう!」
ハルヒの慌てた言葉に、小さくゆっくりと頷くのだった。
「先生ー」
ガチャ……
第三保健室と表札の建てられた扉をハルヒはガラリと開けた。
その後を入ってくるのは春日崎、そして一番後ろにの姿があった。
「先生なら留守だけど……何?火傷……?」
扉が閉まり、一歩も前に歩みださない春日崎にハルヒは少しだけ不思議そうな表情を浮かべた。
しかし、は普通のものを見るような視線だった。
「ちょ、ちょっと見せ────」
「結構よ」
パンッ
慌てて駆け寄り、春日崎の火傷を心配する少年に春日崎は冷たく手を叩きあしらった。
そしてくるりと踵を返すと、ハルヒの方へとすり寄っていく。
あーあ……どうしてこーなんだかね
呆れてものもいえない。
事の次第をただ見守っていた。
「ハルヒ君に診て頂くから ね?」
「え……でも……」
春日崎の言葉に少しだけ戸惑うハルヒ。
もしかして何か気付いたか?と思っただが、その後紡がれるハルヒの言葉に肩を落とすのだった。
「助手の方がいるならその方に……」
そうハルヒは少年を指し示した。
まったくの勘違いに、少年は唖然とした。
「僕は一般の生徒だけど……制服、着てるしね」
「あっははふふ……ハルヒ君ったら」
少年の言葉に、春日崎は面白おかしそうに笑い声をあげた。
どんどんすれ違って行く二人の姿に、はもう無関心だった。
明後日の方向を見つめたり、保健室の薬品を見つめたり。
「でも無理ないわ とても一流企業の御曹司には見えないものね?」
「……」
春日崎の言葉に少年は悲しげに笑い、ハルヒは少し困惑した視線を送った。
そして、もあちこちを見て回る手足を止めて春日崎を見つめた。
いくらなんでも……それは言い過ぎ、だと思うんだがな……
思っても口にはしない。
肩を竦め、あーあと思うだけ。
「大体なぜここに?まさか、私たちが来るのを見て先回りなんてしたん────」
「いや……先生方に挨拶回り中で……今学期中に済ませなきゃならないからね」
春日崎の言葉に少年は首を左右に振った。
違う、そうじゃない、と。
両手を降参と言うときのように掲げ、微苦笑を浮かべていた。
「留守みたいだから出直すよ じゃあ……」
そう告げると、少年はパタンと扉を閉めた。
直後、春日崎の表情に浮かんだ哀愁漂うものをは見逃さなかった。
馬鹿だな、あの二人
ったく……いろいろと手を焼きそうだな
大きく溜め息が出た瞬間、ハルヒが「お知り合いですか?」と問い掛けていた。
「知らない人よ!?やあね、ハルヒ君 何言ってるの!?」
ガタガタと同様しながらも、やはり大きな声で否定する。
その様子を見て、ハルヒは内心笑いながら『知り合いか……』と思っていた。
「火傷も大したことないし、今日は失礼するわっ
ごっ、ごご、御機嫌ようっ」
扉を開けようと、手を伸ばした。
その時。
バンッ!!!
「────ッ!!!」
「あちゃー」
「ケ……怪我……」
いきなり開いた扉に顔を強打した春日崎と、それを見て額に手を当て溜め息をつく。
そして、扉の向こうには光邦を背負った崇の姿があった。
「モリ先輩……」
「い……ったたた」
「だ、大丈夫かっ!?」
溜め息混じりに呟くハルヒの声に交じって聞こえた春日崎の痛がる声。
ハッとしては春日崎に駆け寄った。
「だ、大丈夫……よ 大丈夫……ええ、大丈夫よ」
そう言いながら、春日崎はヨロヨロと保健室を後にした。
少しだけ心配そうには見送っていた。
本当に大丈夫なのか……?
まぁ……駄目なら戻ってくるだろうし……引き留めても無駄そうだしな
そう結論づけ、追いたい気持ちを押しとどめた。
どうしても、怪我を見ると胸がざわざわとざわめく。
to be continued..................
春日崎と少年くん(次回名前が明らかに!w)にハラハラするヒロイン。
とりあえず、ハルヒと違って中等部も桜蘭だったヒロインはホスト部同様二人の事を知っています。(^V^)
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