肩の荷が下りたように、凄く心がスッキリとしていた。
もちろん、深く残った心の傷が癒えることはまだないけれど。


「行ってきます」


そうやって、明るく家を出発出来ることがにはこの上ないほどに嬉しかった。









NotxxxPersist-ence 第三十一話









「おはよーっす」


教室に入れば、目立つ衣装の人がたくさん。



ああ、そういえば今日ってハロウィンだっけか



ふと、机に鞄を置きながらとあるイベントを思い出した。
学院中で仮装が許可されている為、見るところ見るところに様々な格好をしている人がいる。
もちろん、あの悪戯好きの双子は当然のごとく衣装換えをしていた。


「お前ら……何、ハルヒに集ってんだよ」


苦笑しながら、ハルヒにたくさんの飴玉を貰っている双子の下へと歩み寄った。
食べ終わっても食べ終わっても、留まることなくハルヒから飴を手渡される。


「何って、今日はハロウィンだろ?だから、ハルヒにいたず……っと」


「ハルヒに飴をたくさん貰おうとしてるんだよね、光」


「そうそう!!」


慌てて口ごもる光に代わり、馨がフォローを入れる。
その様子に、苦笑を浮かべ肩をすくめた。
今、光と馨が考えていることが手に取るように分かる。


「悪戯したくて集ってんだろ?でも、どーせ先手打たれてるって 阿呆だな」


気にするなと言いたくて、はそんな風に自らその話題へと入っていった。
馨は一瞬辛そうな表情を浮かべたけれど、それを見ないフリをした。



今の俺は、なんでもない俺
いつもの俺
ハルヒ達は知らないんだ……告白(あの)ことは



知っているのはと光。
そして、の異変にいち早く気付いた馨だけだった。


「ふふん……いいざまだな、悪魔兄弟よ」


「やっぱりな」


コツコツと靴音を鳴らし、格好をつけながら歩いてくる環に苦笑した。
予想通り、ハルヒに飴をたくさん渡していたのは環だったようだ。


「ハルヒを去年の俺のような目に合わせようなど専念早いわ!」


「いや、どうだろうな 二人の事だから、環先輩とは違う悪戯をするんじゃねーのか?
 むしろ、環先輩が『俺の娘に〜』とか言い出すような破廉恥な?」


「んなっ!?そそそそそ、そーいう事を考えていたのか、お前らは……!!」


ショックを受けた環は、目を見開き固まったまま声を上げた。
あわあわと、あられもない想像をし始めている事が第三者からでも分かるほど表情に現れていた。
青ざめたり赤らめたりと、忙しい。


「し、しかしだな!
 そんな事もあろうかと思って、ハルヒの周りは昨日俺が忍ばせたキャンディーでいっぱいだ!」


バラバラバラバラ

その言葉と同時に、ハルヒは学生服を軽く揺すった。
音を立てて、制服の中からたくさんの飴が落ちてくる。



そ、そこまでしてたのか……!!



予想以上にしように、は驚いた。
いくらかは忍ばせてはいると思っていたが、そこまでとは思っていなかった。
むしろ、よく隠しておけたなとは思った。


「今日一日、お前らはハルヒに手も足も出まい!」


キラキラと自信満々に言う環。


「……残念だったな、光、馨」


「くっそう 殿のくせに人の計画邪魔しやがって……生意気なっ」


の哀れみのこもった慰めが、余計に二人の悔しさを倍増させていた。
悪戯を寸止めさせられたことが、この上なく悔しいのだろう。


「あーあ、つっまんないの」


ふてくされる二人を見て、は苦笑した。



ほんっとに、こいつらは悪戯すんのが好きだよな



心からそう思った。
いつ何をするにも、悪戯がついて回るような二人。


「へぇ じゃあさ、面白くなるような話……してやろうか?」


にやりと不敵な笑みを浮かべが光と馨を交互に見つめた。


「「面白くなるような話ぃ?」」


胡散臭そうだと疑う視線を向ける二人に、は自信満々の笑みを浮かべ続ける。
たぶん、が知っているのだから同じく初等部中等部と桜蘭でやってきた二人も知っているはずだろう。
まぁ、知らないでくる人も居るのだから知らない可能性もあるのだろうが。


「知ってるかもしれないぜ?」


「「なになに、気になるじゃん」」


やけにノリノリに聞く二人に、ちょっとだけは眉を顰めた。
本当に知らないのかと。


「あのな、中等部の校舎の地下の一番右端の教室……あそこ、使われてないの知ってるか?」


「ああ」


「そういえば」


の問い掛けに、二人は顔を見合わせ思い出したように頷きあった。


「「で?それが??」」


「そこに、亡くなった学生の幽霊が出るんだとさ
 教室自体じゃなくて、教室にある机のどれか一つらしいんだ 分からないから教室自体を封鎖してるらしいんだけどさ」


「「……へぇ」」


の話に、二人は面白そうな話を聞いたとニヤリと笑った。


「じゃあさ、これから行ってみない?」


「……はぁ!?」


まさかの言葉に目を丸くした。
なんせ、まだ昼間なのだ。


「幽霊って言えば夜でしょ?普通、昼間に行くものじゃないんじゃない?」


「だよな」


ハルヒの言葉に、分かる人が居てよかったと頷く
しかし、二人はいまだに笑みをやめない。


「ちっちっち 分かってないなー」


「何がだよ」


「地下だろ?暗いじゃん」


の突っ込みに光がニッと歯を見せて笑った。
その言葉では気付いた。
廊下や教室の電気が消えてしまえば暗く、昼間だろうが夜だろうが関係ないだろう。


「あ、そっか でも他の教室があるんじゃ明るいんじゃない?」


「ハルヒは知らないもんな」


光が苦笑して、呟いた。
そう、ハルヒは知らない。
中等部の地下のことを。


「あそこは特別室がある場所なんだよ 授業とか部活動で使うような感じのね」


「だから、今は使われてないんだよ」


馨と光は交互に呟き、そう説明した。
その言葉にハルヒは「ああ」と納得したように頷き──固まった。


「……、大丈夫なの?」


「……ごめん、俺パスしたい」


視線を逸らし、ハルヒの言葉に首を振った。
大丈夫なわけがない。
暗所恐怖症のに、今は誰も使っていない地下の教室に行くなど。


「「大丈夫大丈夫 僕らがいるじゃん」」


「それが一番心配なんだよ」


悪戯好きの双子。
何もないとは言い切れない。
というか、言えないからこそ一番の心配所だ。


「海の時だって、怖い話と悪戯でハルヒのこと驚かせようとしてただろ?信用できねぇな」


「「そー言わないでさ〜、〜」」


「どんなにお願いしても無駄だ」


信用できないのだから、行かないほうがいいという結論に至った
頑なに頷こうとはしなかった。


「ちぇっ つまんねーの」


「つまらなくて結構」


「馨、ハルヒ 僕ら三人で行こうぜ」


そっぽを向くに聞こえるようにわざと大きな声で"三人で"というところを強調しながら呟いた。
その言葉に、ピクリとが反応を見せる。


「誰かさんは行きたくないみたいだしー?」


「ちょ、光?」


「……勝手にすればいいだろ!?三人で行きたきゃ好きにしろ!」


わざとらしさが伝わってくる。
その行動に、のイライラが募っていく。
それが分かっているからこそ、ハルヒは慌てて声を上げたのだが──遅かった。
数拍置いた後に、の怒りが爆発した。


くん、どうかしましたの?」


女だとバレてもなお、"くん"と呼ばれる呼称は慣れ親しんでいたようだ。
初めは"さん"とか"ちゃん"とかつけて呼んでくれる人は居た。
けれど、呼ばれるたびに微妙な表情のが振り向くから誰もが今までの呼称に戻っていたのだ。


「ああ、なんでもねぇよ ちょっと、双子のオイタが過ぎるだけだ」


肩をすくめて苦笑を浮かべる。
女だと分かっているのに、その表情に顔を赤らめる女生徒が数名いる。












「ほんと、嫌になる……誰が誰を好きになろうが、その人の勝手なのにな」


大きく肩を竦め、中庭の大きな樹に寄りかかった。
空を見上げ、溜め息を吐くと今度は俯いた。



嫌な嫉妬ばっかしちまう……



光に失恋したのだから、光が誰を見ようとには関係のないこと。
まして、光が見つめる先のハルヒに嫉妬をするなんて友達としてあっちゃいけない。
そう分かっているのに、心はいう事を聞いてくれない。


「大丈夫?」


「……馨」


掛けられた声に視線を向け、ポツリと呟いた。
いつも、こういう傷ついているときに馨はやってくる。
傷心しているの心を癒してくれる。


「……別に なんともねぇよ」


優しさを知っていながら、そんなつっけんどんな返事をしてしまう。


「正直じゃないね、は」










to be continued..................





嫉妬の心に戸惑う主人公w
失恋しても、きっとすぐには忘れられないんでしょうね。(’’)






NotxxxPersist-enceに戻る