知らない
好きだなんて
聞かない
そんな言葉
壊さない
この関係を
だから
俺は自分の耳に栓をする
NotxxxPersist-ence
第三十五話
今……なんて言った?
は自らの耳を疑った。
聞くはずもないと思っていた言葉が、馨の口から出てくるなんて思わなかったから。
言ってほしかったのは、違う人。
その言葉を望んでいたのは──
「 僕は、本当に……!!」
「悪い……聞きたくねぇ」
呟く馨の口を手で塞いだ。
伏目がちに、小さな声で。
どろどろの感情が湧き上がる。
なんで"馨なんだ"と、嫌なものがどろどろと心を埋め尽くしていく。
「でもっ」
「俺に、嫌な言葉を吐かせるつもりか!?」
「えっ?」
「俺は、馨に好かれたくなんかなかったんだよ!俺は……俺はっ」
高ぶっていた感情。
言ってしまった言葉は、戻せない。
ハッとして、口を両手で覆うがすでに遅い……遅すぎた。
「……俺なんて、好きになるんじゃねーよ、馬鹿馨
いい事なんて……なんもねぇんだ 光は……利口だよ」
ゆっくりと、口を覆っていた手を外し視線を逸らした。
好きになる必要なんてない。
好きになられる資格なんてない。
こんな、男みたいな女。
こんな、口の悪い女。
こんな──
「面倒な女なんて……好きになる奴が馬鹿だ」
背を向けて、教室に戻ろうとした。
涙を堪えて。
「それでも、僕はが好きなんだよ!!」
「っ!?」
いきなり後ろから馨はに抱きついた。
「だから僕は好きになったんだ」
胸が痛くて苦しくて、は早くこの場から立ち去りたい気持ちでいっぱいだった。
好かれることになれていないから。
だから、こんなにもは動揺を隠せなかった。
いつも、俺は嫌われてばかりだった……
どうすればいいか分からなかった。
嬉しくないわけじゃないのに、嫌な言葉しか出てこない。
知らないと、聞いていないと、記憶に蓋をしたかった。
この関係を崩したくなかったから。
「……馨」
「?」
「……ドサクサに紛れて、どこ触ってやがる」
「げ!!」
低く唸るように呟くの言葉に、馨は慌てて身体を離した。
真っ赤な顔をして、馨は両手を上げたまま固まってしまった。
ごめん、馨
本当は触れてなどいなかった。
けれど、そうやってはぐらかす方法しか分からなかった。
「じゃあな」
「ちょ、!?」
「もうすぐ授業だろ さっさと戻るぞ」
うやむやのまま、教室に戻ろうとした。
全てに蓋をして──開けない。
知らないんだ、俺は
聞いていないんだ、俺は
卑怯かもしれないけど、今を壊したくねぇから……
馨を置いて、は教室への道のりを急いだ。
早く、安心できる場所へ。
早く、忘れられる場所へ。
早く──はぐらかしたまま過ごせる場所へ……
「遅かったね」
「馨の奴が延々と語るもんだからよ、光は僕のものだって」
苦笑しながら席に着いた。
普通の。
普段の。
なんら変わりない、いつもの。
「そりゃ、僕らは二人で一人だからね」
「いっそのこと、ほんとに一つになっちまえ」
笑えているか不安だった。
それでも、は笑わなければいけなかった。
だって、変に気遣われても。
勘付かれても。
この関係は、変わってしまうから。
崩れてしまうから。
「、それは少し無茶だと思うよ」
「分かってて言ってんだよ、ハルヒ」
手首から先をパタパタと揺らしながら、また笑う。
そうしているうちに、話は闇に呑まれ、教師が来て、授業が始まる。
逃げだってのは分かってる
分かってるけど……俺は、一歩を踏み出せない
踏み出してしまえば、変わってしまう。
ハルヒを好きな光。
光を好きな。
光に向いていた矢印が、すでに馨に向き始めている今──これ以上は。
だって、おかしいだろ
ずっと光が好きだったのに、いつの間にか馨にも惹かれていたなんて
そういうの……光も馨も、嫌いだっての知ってたのに
許さなかった。
許せなかった。
二人の間で揺れる心が。
まるで、どちらでもいいかのように惹かれてしまったことが。
似ていても違うと知っているのに、惹かれてしまったことが。
片方が駄目ならもう片方、みたいな今の状態が……凄く。
『
ひどいのはそっちでしょ どっちでもいいなんて、何様なワケー?
』
過去に、そういう言葉を誰かに言っていたのを覚えていた。
『
どっちでもいいっていうのはさ、ホントはどっちもいらないって事じゃん?
』
そんな言葉が、チクリと胸に突き刺さっていた。
あの場面を見たのは、本当に偶然だった。
けれど、鮮明にあの場面を覚えていた。
だからこそ、許せなかった。
俺は、どっちでもいいわけじゃない
どっちもいらないわけじゃないっ
だから、"光を好きな自分"に固執してしまう。
それが自分だからと、は馨へ傾く心を箱に詰めて蓋をしてしまう。
「……?……?」
「んあ?」
考えに集中してしまった所為か、授業が終わったことに気付いていなかった。
ハルヒの声さえも、聞こえずに──何度も呼ばれてようやくは気付いた。
「考えごと?」
「ん……ああ、ちょっとな」
「もしかして、授業中ずっと?」
ハルヒの問い掛けに口ごもった。
今の授業の内容を、覚えているかと問われたらきっとは首を左右に振るしかないだろう。
全く覚えていないのだから。
「あとで自分のノート見ていいよ それとも、は勉強しなくても大丈夫?」
「いや!!見せてもらいます!!」
食いつくように、ハルヒの申し出に声を上げた。
教科書を見れば大丈夫なことは大丈夫だが、それでも授業のノートがあるのとないのとでは違いが大きい。
しかも、あの特待生であるハルヒのノートなのだからむしろ見せて欲しいものだ。
「じゃあ、渡しておくね」
「ああ、悪いな 写し終わったらすぐに返すから」
「うん でも、あまり慌てなくていいよ 写し間違いとかあったら大変だし」
そんな言葉に苦笑を浮かべ「ああ」と頷くしか出来なかった。
悪いな、と軽く手を掲げてお礼を言って……また一日の授業が始まっていく。
きっと大丈夫。
何かが変わることなんて、何もない。
がで居れば、いつものようにしていれば、何も気にしていなければ、きっと。
馨の告白も、光への告白も、口付けも。
何事もなかったかのように振舞えば──きっと。
to be continued.................
双子の過去話を読んだ時に、凄くやらせたくなった内容w
まだ少し両思いになるのは先延ばしになりますが……楽しんでいただけたら幸い♪
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