本当に……俺は好きになってもいいんだろうか?



幾度となく繰り返した問い掛け。
答えはいまだ出ていない。
出ていないけれど、イエスと答えてもらえたら嬉しいとは思っていた。



光じゃなくて、馨を……



意固地な思いが気持ちをせき止め続けていた。
加速しそうで加速しない。
加速させたくても加速させられない。

もどかしい、気持ち。









NotxxxPersist-ence 第三十七話









「まぁvカワイイ坊や達だことv
 みんな、ハルヒちゃんのお知り合い!?」


ごつい顔に、ぶりっぶりの洋服を着たオーナー……


「初めましてvここのオーナーの園田美鈴(本名功四十二歳)でーすv
 美鈴っちって呼んでねんv」


んふっ、と声が聞こえるくらいぶりっぶりの、いわゆるオカマである美鈴。
そんな美鈴を見つめ、全員が少しだけ引いていた。

……無理もない。



すげ……本物見ることがあるなんて思わなかったぜ



なんて関心してしまった。


「蘭花さんとはお店のお仲間でいらっしゃるとか?」


「そーヨ 二年前から夏の間だけ、こっちで働いてるのよウv
 夢だったのよねぇ〜 こういうカワイイペンションv」


話の弾む鏡夜と蘭花を見つめ、環がボソリと震える声で「だから、なんでお前が知ってるんだ……」と呟いていた。
が、それを鏡夜はあっさりスルー。



……あ、いじけた



少しだけふてくされた様な、面白くないと物語るような表情を環が浮かべたのをは見逃さなかった。
まぁ、環がどんな反応を示そうと部員は誰も気にとめないのだが。


「従業員を雇うほどの余裕はまだそんなになくてネ」


肩をすくめ、苦笑を浮かべた。
美鈴はゆっくりと店内を見渡すように視線を巡らせはじめた。



あ、凄く……愛し物を見つめる目だ



そんな美鈴の視線には気づいた。
本当に、美鈴はこのペンションが大好きなのだと──よく分かる瞬間だった。


「でも蘭花が旅行で留守中、ハルヒちゃんが心配だって言うし、ハルヒちゃんも安くていいって言ってくれるし
 じゃあウチで預かろうってなったんだけど、ハルヒちゃんてばホント働き者でねぇ〜v」


「確かに、ハルヒって結構そつなくこなすよな」


美鈴の言葉には頷いた。
もちろん、無理なものは無理なのだが、一般的なことはさらりと成し遂げてしまうんじゃないかと思った。
何より、溶け込むのが早いというか何というか。



……だから、ホスト部から抜けられなくなってるんだろうけどな



そんな苦笑も零れおちる。


「娘置いていったんか」


「ハルヒも何もこんなトコで……」


美鈴の話を聞いていた光と馨が交互に呆れる口調で呟いた。
あんなにハルヒ命だった父親が、まさか娘を置いて旅行に行くとは思わないだろう。
むしろ、無理やりにでも連れ出しそうだとか思ってしまう。


「あ、このエプロンも可愛いでショv私のお手製v」


「「「それについては、グッジョブ美鈴っち!」」」


ハルヒを抱きよせ、ニコッと笑う美鈴に双子と環の三音が重なり合った。
環に至っては顔を染め上げるほどにストライクだったようだ。


「ま、確かに似合ってるな」


うんうんと頷きながら、はハルヒとエプロンを交互に見つめた。



可愛いものが似合うとか、羨ましすぎだぜ



特別、見たくないほど嫌いというわけでもない
ただ自分が着るとなると嫌というだけで、似あう人が着る分には全然構わなかった。


「あらぁ あなただって似合うわよぉ〜v」


「……冗談言わないでくれよ んなの似合うなんて反吐が出るっ」


すこぶる嫌そうな表情を浮かべ、首を左右に激しく振った。



絶対、似あわねぇし、俺!



思い込みは嫌悪さえ生む。


「つーか、ナルホド バイトとはね
 だから僕らが誘ったバリ行きも断った訳か」


「僕らも一緒にスイス行こーって言ったのにねぇ」


「うちの国内リゾートを安く使えばと言ったんだがな」


「……お前らは、なぜそうやって個人的にハルヒを誘ってるんだ……?」



なるほど、引く手数多状態か



ぷっと、吹きだすように笑ってしまった。
いや、実際に吹き出しはしなかったのだけれど内心笑ってしまったのだ。



ほんとにみんな、ハルヒが好きなんだな……



ちくん

そう思った瞬間、少しだけ胸が痛かった。



まあ、凡人なハルヒは俺達が誘わないとリゾート地とかなんて無縁だもんな……



ちくん

それ以上考えちゃいけないと、は率直に思った。
この痛みは、たぶん嫉妬から来るものだと──すぐに分かったから。


「なんだよ、みんなも誘ってたなら俺も誘えばよかったな」


まで、そんな事言ってー」


肩をすくめて笑うにハルヒも苦笑を浮かべた。
実際、たぶん誘われまくって困っていたのだろう。


「じじじじじじじじ……」


「じじ?」


とある一文字を連呼する環に、は首をかしげた。
には"じ"ではなく"爺"と聞こえてしまっていた。
何をそんな単語を連発するのかと、訝しげに見つめると。


「自分さえよければいいのか!連帯感は皆無か!
 俺などは部長として部で楽しめるプランを一生懸命──」


「「ハルヒ、携帯切ってたろ 駄目じゃん」」


「だって、めんどくさいんだよ」


「携帯……持って……?」


怒り奮闘。
叫ぶ環をよそに、光と馨は完全無視をしながらハルヒに話しかけた。


「あ、環先輩?言っとくけどな、ハルヒは携帯なんて持ってなかったからな?」


「そうそう 僕らがハルヒに『貸して』るんだからね」


の説明に付け加えるように光が言った。


「ちなみに、『お友達』専用だから 殿は『先輩』だもんねーだ」


「あ、ちなみに俺もメアドとケー番交換してっから」


部員のメンバーとはもちろんのこと、ハルヒとだって交換済みだ。
まあ、交換してなきゃ今回の急な軽井沢行きだって連絡は来なかっただろうから。


「で、では俺も『お父さん』というお友達カテゴリーで……」


「そんなお友達ジャンル聞いたことありません
 それより、いいからもう、帰って下さいっ」


スパッと環の言葉を切り捨てて、今度は仕事の邪魔だと言わんばかりに部員全員を店から追い出そうと押し始めた。
ぐいぐいと、徐々に出入り口の方へと追いやられていく。


「どうせ、新学期になれば毎日会うんだから、休みくらい自由に……」


「別に俺はいいだろー?手伝うしさ、タダで♪」


「……うん、はいいかな」


「「「んな!?」」」


あっさりはオッケーしたハルヒに、双子と環の声が上がる。
ズルイと言わんばかりの視線を向けてくるが。



日頃の行い、だな



なんて、ふふんと思った。
ふふん。


「『校則第十九条 アルバイトを禁ず』」


鏡夜がすかさず手帳を取り出し、ポツリと呟いた。
その言葉に、ハルヒも聞き覚えがあるのか動きがぴたりと止まった。



……禁じられてるの分かっててしてたな、ハルヒのやつ



その様子に、内心苦笑が漏れた。
これが、ただのお手伝いに過ぎなければ問題はなかったのだろうが。



多少でも、お金は絡んでくるからな……
これはれっきとしたアルバイト、だな



フォロー点など見つからず、「え……あの……そう、でしたっけ?」とオロオロするハルヒを苦笑の瞳で見つめるしかなかった。



──ご愁傷様



なんて、合掌。


「確かに、休みをどう過ごそうと個人の自由!
 ならば、お前に止める権利などないはず!!」


「ヒッ」


決めポーズをする環に、嫌な予感がするハルヒ。



……あーあ、ハルヒ、可愛そうにな



完全に部活のペースというか、環のペースになってしまっている現状。
またハルヒは優雅な休日を過ごせず、巻き込まれることとなる。


「我々も、この夏はVIP客としてこのペンションに滞在させて頂こぉぉおおおぉぉう!!」



やっぱり、そーなったか



「ドンマイ、ハルヒ」


「うぅ……」


ガックリとするハルヒの肩を一つ叩きながら、は苦笑した。
その言葉に、さらにガックリとし溜め息を吐きだしていた。












「で、俺は何をすればいい?」


美鈴に借りたエプロンを身につけながら、問い掛けた。


「そぉねぇ ちゃんには……掃除をしてもらってもいいかしらん?」


「オッケー って、どこの?」


「まずは、外をお願いねんv
 外観は、一番はじめに客様に見られる場所だからv」


「あいあいさー」


ヒラリと手を振り、箒やチリトリを手に持ち外へと向かった。


「さてと……掃除なんて初めてだけど、うまくできっかな?」


ちょっとだけ不安の残るだった。











to be continued...................





夏休み入ったぁぁぁぁ!!突入だぁぁぁぁ!!(ノ≧▽≦)ノ
ちなみに、美鈴っちがが女だって知ってるのはハルヒから伝わってると思ってて下さい。
それか……女?の勘で分かった、みたいな(笑)
まだまだ序章に過ぎませんが……馨と絡ませていければなぁ……いければっ(願望)
てか、さわやかバトルどうしよう……!






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