とりあえず……火の粉が降りかからないように、なるべく部員には近づかないようにした方がいいな



あれやこれやと、バトルを繰り広げるメンバーにゲンナリ気味の
溜め息を吐きながらも、箒を持ちながら外へと繰り出した。


まずは、外をお願いねんv
 外観は、一番はじめに客様に見られる場所だからv



そんな美鈴の言葉を思い出した。
掃除なんて初めての試み。
分からないことが多いが、だからと言ってハルヒに迷惑をかけるような事があってはならない。



面倒だな……



肩を竦めながらも、は箒の先を地面につけた。









NotxxxPersist-ence 第三十八話









「あれ?鏡夜先輩にハルヒじゃん どうかしたのか?」


箒を片手に、見かけた二人の姿に歩みを寄せた。


「ああ 今、誰が勝つのかという予想をしていたところだ」


「……は?」


問い掛けに答えたのは鏡夜だった。
しかし、その意外な一言に素っ頓狂な声が漏れる。



予想?
ああ……この、さわやかバトルとかいうやつか



それすらにゲンナリ。
なんだかもう、勝手にやっててくれとさえ思ってしまう。


「ハルヒは予想ついたのか?」


「それが全然」


の問い掛けにハルヒは肩を竦め首を左右に振った。



……あまり考えてねぇな?



なんて思ったことは、あえて口にはしなかった。


「そうか?パッと見なら簡単だぞ?」


「ハニー先輩は"さわやか"とはかけ離れてるだろ?」


「ほお」


「で、環先輩はウザすぎて暑すぎるわけで、アウト」


サクリと解説を始めるに、鏡夜は面白そうだと言わんばかりに声を漏らす。
その言葉の続きを待つように、じっとを見つめていた。


「光と馨も……まあ、敵度に手を抜くだろうから一番さわやかだろうが……」


「大穴があるな」


「ああ」


の言葉を繋ぐように呟いた鏡夜の言葉に、は静かに相槌を打った。


「大穴?」


「ハルヒ、気付かないか?」


「あ」


の指摘で、今だ名前が出ず──そして、考えれば確かに一番さわやかそうな人物がハルヒの脳裏を過った。


「モリ先輩!」


「大当たり」


ニッと笑って、は親指をグッと立てた。
簡単な消去法だ。


「じゃあ、モリ先輩が……なんだか一番あり得なさそうなんですけど」


部屋を取る、なんてイメージがつかない。
なんだか、一番付き合いでやっているようなイメージがあったから。


「ハニー先輩が脱落すれば、モリ先輩も辞退するだろう
 となると、双子で決まりだが──それではつまらない」


知らないものが見ればさわやかな笑みを浮かべる鏡夜。
けれど、知っている者から見れば実に腹黒そうに見える笑みだった。


「勝負を面白くする方法はいくらでもあるんだからね……?」


「……面白くする必要があるとも思えねぇけど?」


黒く笑う鏡夜に、溜め息混じりに突っ込みを入れた。
けれど、突っ込みを入れたって無意味なのはだって分かり切っていた。



鏡夜先輩ほど、腹黒な奴は絶対にいないと思うな……



先輩に向って失礼だとは思う。
思うが、はそう思わずにはいられなかった。










「ったく、さわやかバトルなんて何が面白いんだか」


意味が全く分からないと言わんばかりに溜め息を吐き、は外の掃き掃除のラストスパートを掛けていた。
そんな中、遠くから聞こえてくる音色にぴたりと動きが止まる。



……ピアノ、か?



こんな処にピアノなんてあっただろうかと首をかしげ、必死に記憶の糸を辿る
けれどまったく記憶にピアノの影なんてなくて。


「さては、鏡夜先輩だな 目ざといからなぁ……よく気付いたよな、ピアノなんて」


まったく気付いていなかった。
たぶん、弾いているのは環だろうと予想はつくが。



環先輩がピアノの存在に気付くか?



答えは簡単に出てきた。



気付くわけねぇよな
となると……教えたのは、鏡夜先輩だな



綺麗な音色だから嫌な気分にはならないけれど、本当に環に手を貸したんだと苦笑した。
掻きまわすだけ掻きまわして、鏡夜は高見の見物といったところだろう。

ガッシャァァァァァンッ!!


「なんだ!?」


そんなとき、突然聞こえた耳障りな音には声を上げた。
持っていた箒をその場に置き、音のした方へ無意識に駆け出していた。


「馨!!ハルヒ!!」



……え?



上がった光の声に、目を見開き──
の足はより早く回りはじめた。


「馨!!」


「うっわー ギリギリセーフ!ハルヒ平気?」


駆け寄る光の声と同時くらいに、馨のホッとした声が聞こえてきた。
丁度その時、は三人の元へ辿り着いた。


「うん 馨は?怪我とか……」


「あー……」


ハルヒの問い掛けに、馨は右頬へ手を伸ばした。
そこには赤い線が入っていた。


「ちょっと切っただけ 他は別に……」


チクン

怪我をした馨を見て、胸が痛くなった。
は拳をグッと握りしめ、そのわけのわからない痛みに奥歯を噛みしめた。


「光?」


けれど、そんなの様子に気付く訳もなく。
馨は光の様子にだけ首をかしげた。

馨の片口に額を押し当てるように、すり寄っていたのだ。


「……驚かせんな」


「うん、ごめん…… 大丈夫、だから」


そこまでしか、の耳には言葉が届いていなかった。
あとは、頭の中が真っ白になるような──


「……っ」


──とてつもない、恐怖。


?」


ずっと立ち尽くしたままのに気付いたハルヒが、声を掛けた。


「へ?」


「みんな、もう行っちゃったけど……」


間の抜けた返事をした。
そして、ハルヒの言葉があってようやく、そこに居るのは自分とハルヒだけだとは気付いた。


「どうかした?


「……いや、ちょっと、心臓に悪いな、と……」


「?」


意味が分からないと言いたげに、ハルヒは首をかしげた。
けれど、に説明なんて出来る余裕なんてなかった。


「ヤベ……俺、もう引き返せねぇトコまで来てるかも……」


口元に手を持ってきて、片手で覆う。
覆いながら呟く声はくぐもり、けれどハルヒの耳には確実に届いていた。


「え?」


「──俺、もしかしたら……」


そこでの言葉は途切れた。
その先は、ハルヒに言うべき言葉じゃない。



こういう事は本人に……だよな



自覚してしまった。
ずっとずっと、違うと言い張っていた心の中が見えてしまった。
出てきてしまった。


、もしかして……」


「ああ……うん」


全ては語らなかった。
けれど、のその言葉だけでハルヒも勘付いてくれたようで。


「……俺、最低だな」


くしゃ、と髪を掻きあげるように掴んだ。



好きにならないなんて、嘘だ
好きになるはずだったんだ……あんなに優しくて、あんなに分かってくれて……

あんなに、そばに居てくれた



それなのに、は自分の気持ちに蓋をして"光を好きな自分"を演じていた。


「どうして?」


「だって、俺……光の変わりに馨を」


「馨は変わりなの?」


ハルヒの問い掛けに、は言葉を失った。


「……違う」


「なら、"最低"なんてことはないんじゃないかと自分は思うけど」


まるで、心の中にたまったドロドロしたものをハルヒが流してくれるようだった。



光が駄目だから馨がいいんじゃない
光も好きだったけど……馨の方が好きになってたんだ、いつの間にか



それを認めたくない自分が居て。
それを知られたくない自分が居た。


「まだ……間に合うかな?」


「自分にはよく分からないけど……こういうのって、期限なんてないものなんじゃないの?」


好きに始まりも終わりもない。
キッカケはあっても、気付けば好きになっている。

好きになる瞬間なんて、分からないものだ。
それは、好きじゃなくなる瞬間も同じ事で。


「……ああ、そうだよな」



それなら、俺は馨を好きでいていいんだ……



自分の気持ちに正直になろうと、ようやくは思えた。


「なら、馨のトコに行ってきたら?」


「え?」


「心配なんでしょ?」


まるで背中を押してくれるようだった。
ハルヒの言葉には頷き、踵を返すと同時に駆け出していた。

今回の勝者は双子だった。
ならば、きっと部屋に居ることだろう。


「サンキュ、ハルヒ!」


背中の方に居るハルヒに向って、はそう声を上げた。










to be continued......................





この窓が落下事件をキッカケに、の恋心を加速させたかったんです(笑)
ということで、目標達成w
ここからは、スピードアップ、加速加速です☆
いつもから嫉妬されてるハルヒに、今回はの背中を押してもらいました。
たぶん、の中でハルヒの格付け?が変わった事でしょう(笑)←ぉぃ






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