「ワガママ言うな!悪魔兄弟が!」


そんな環の大きな声で、は薄い眠りから目を覚ました。



……うるせぇな



眠たい目を擦り、だるい身体を無理矢理に起こした。











NotxxxPersist-ence 第四十話











「低温殺菌のジャージー種に、信州産のフレッシュジュース!
 高原野菜と当地自慢の桜の木チップでじっくり作った燻製は絶品だぞ?
 焼きたてのカンパーニュには素材本来の味を生かした手作りジャムをどうぞv」


「でけェ声で起こされたと思ったら、今度はマニア情報のお披露目か?」


大きなアクビを噛みしめながら、は光と馨に説明する環の元へとやってきた。
とてもゆったりとした足取りで。


「しかも、何これ……しおり?」


そうして、環の近くに積まれたしおりをは手にした。
パラパラとページをめくり、溜め息を吐く。


「ほんと、暇人だな……」


元あった場所にしおりを戻し、近くの椅子に座った。
そして、テーブルにうつ伏せになる。


「大丈夫?」


「んー……眠い、だるい、辛い、腹減った」


ハルヒの問い掛けに、ぬぼーっとした口調で答えたはハルヒの置いたコップを手にした。
中に入った水を一気に胃の中に流し込む。


「具合悪いなら、部屋で休んでた方がいいんじゃない?」


「んー……そういうわけにもいかねぇだろ 大丈夫大丈夫」


心配するハルヒをよそに、はいたって軽く言う。
そもそもの原因が何なのか分かっているのだから、当然と言えば当然なのかもしれないけれど。



理由なんて言えるわけねぇし、だからと言ってあんな事で休むわけにもいかねぇし



もんもんといろいろ考えてしまう。
知らない相手に昨日の事なんて言えるはずもない。
だからと言って、休んで余計な心配も掛けたくはないのだ。


、無理しないで休んでくればいーじゃん」


「馨っ だけど……」


「倒れてもアレだし、別にいなくてもヘーキだろうし」


「でもよー……」


「さわやかバトルも終わってるしさー」


「……それ、俺参加してなかったし」


「美鈴っちも、オッケーしてくれるって」


「……ハルヒに迷惑かけないか?」


「……まあ、努力はシマスヨ?」


そんなやり取りを繰り返すと馨に、ハルヒはじーっと視線を向けた。
その会話はまるで……


「二人、凄い仲良くなってない?」


「「え?」」


「確かに、僕が出てった後に何かあったみたいだしねー?」


ニヤニヤと笑う光と、きょとんとするハルヒが馨とを見つめた。
その視線に馨は戸惑う表情を浮かべ、は引きつった笑みを浮かべた。


「お、俺……部屋で休んでるな!?」


逃げるように駆け出そうとして、ズキンとした重い痛みが腰に響いた。


「いっでぇ……」


そのまま、近くにいた馨にもたれかかる様に支えられたは表情を歪めていた。


「だ、大丈夫!?」


「あー……そーいうことね」


驚くハルヒとは裏腹に、光は納得しまくりの表情。


「何がそーいう事だ、光!大丈夫か?」


鏡夜と光邦の寝起きの悪さを思い出し、意識があらぬ方向へ引っ張られていた環がようやく浮上。
納得する光にツッコミを入れ、痛がるに心配して近寄った。


「だ、大丈夫だ 本当に何でもねぇから」


「何でもないはずがないだろう!こんなに痛がって……」


腰を抑えあまり動こうとしないに向かって、環はズビシッと指差して言い放つ。
けれど、事実そこまで心配されるような事じゃないのだ。
ただ事実を恥ずかしくて言えないだけであって。



頼むから、察しろ!
察してくれ!
これ以上は恥ずかしいんだよっ!!



これ以上追及したり、下手に心配したりしないでほしいとは環を睨んだ。
多分、ハルヒと環こそ理解できずとも他の人達はなんとなくピンと来てしまうだろう。

だからこそ。


「殿、ほんとにはヘーキだからさー」


「馨も!なんで平気だと分かるんだ!」


「いや、だから……」


環の熱意に困る馨。


「……寝違えただけだ 本当にそこまで心配するような事じゃねーんだよ、阿呆!」


言って、よろよろと腰を気遣いながら歩き出す。


「俺、部屋で寝てっからあとよろしくなー」


ヒラヒラと手を振りながら階段を上っていった。
下からは未だ心配する環の声と、それを止める馨と光の声が響いていた。



頼むから……追及せんでくれ……
俺が困る
めちゃくちゃ困る



大きく溜め息を吐き、部屋の扉を開き中へ入った。

パタン。



あー……ほんと、きっつ……



ふかふかなベッドへダイブして、痛む身体をゆっくりと休めた。
ズキズキとする痛みは、身体の芯から響いているようで。



……寝たいのに寝れねぇし



眠りそうになると、すぐに意識が引っ張られてしまう。
ギュッとシーツを掴み、痛む腰を摩る。


「……馨の馬鹿やろー」


ぼふっと枕に顔を埋めた。
これも全ては、昨日激しくした馨のせいだとは思った。



そりゃ、俺もいけなかったのかもしれねぇけどよ……
だからって、あんな……っ



思い出すと、顔から火が出てしまいそうだ。
恥ずかしいけれど、でも、なんだか嬉しくて。
そんな思いが余計恥ずかしくさせる。


「……」


そんな事を繰り返し考えていたら、はいつの間にか夢の中へと意識を落としていた。













「で……これはいったい、どういうことだ?」


次の日、目が覚めて下へ降りて行ったところを馨達にはとっ捕まった。
わけもわからぬまま、軽く変装させられてペンションから連れ出された。

変装と言っても、普段着に帽子や眼鏡を着用するという──いわゆる芸能人が行うような変装だ。



なんでハルヒが可愛い格好して光と待ち合わせしてるんだ?
そもそも、なんで俺達は変装してコソコソ隠れなきゃならねぇんだ?



分からない事がズラズラと頭の中をよぎっていく。
分からなさ過ぎて溜め息が零れる。


「まあ、と殿の言いたい事はなんとなく分かってるよ」


イライラするというか、今にも叫びだしそうな環の口を押さえつつ馨は呟いた。
伏目がちに、一つ息を吐くと。


「……馨?」


「僕はさ、光に大事なものが増えるのはいい事だと思うんだ
 僕らはずっと僕らしか大事じゃなかったから……他のなんてどうでもよかったから……
 だから、お互いの依存度もちょっと並外れてるし、他人に対して結構閉鎖的だったりしちゃうんだよ」



ちゃんと、理解してたのか……



ポツリポツリと呟く馨の言葉は、きちんと自分たちの事を理解しているからこそ出るものだった。
きちんと理解している事に、は感心し……そして、分かっていながらも周りを受け入れられずにいた二人が少しだけ悲しかった。


「他人にはどう思われてもいいって感じだったから、好き勝手な性格になったわけだし?
 光なんてさ、僕以上にお子様だから感情だけで突っ走っちゃうわけ」


昨日、は先に部屋へ戻ってしまっていたから知らなかった。
けれど、それ以外のメンバーは昨日の光の様子を知っていたからこそ納得していた。

分からない。
けれど、ここで口を挟める感じではなかった。


「それでも、殿とかには通じてたからほっといたわけなんだけど
 光は自覚ないみたいだけど、ハルヒの事かなり気にいってんだよ」


片思いをずっとしていたにはよく分かることだった。
いつもちょっかいを出すのはハルヒにばかり。
何かあれば、ハルヒに構う。

馨の話を聞きながら、は苦笑した。


「でも、自分の感情押しつけるやり方しか知らないから子供じみた独占欲になっちゃう」


「……何かあったのか?」


何かを思い出すような馨の言葉に、は首を傾げた。
ちょうど、が部屋へ戻ってしまったあとの話だったから、は知らないのだ。


「うん、ちょっとね〜」


苦笑を浮かべながらも、どこかいつもとテンションの違う光邦が頷いた。
しょうがないとでも思っているような、肩をすくめるような──そんな感じに。


「相手に認めてほしいって思ってても、どうやったらいいか分からないんだ」



ああ……そっか
光も馨も……ずっと二人の世界で生きてきたんだもんな



相手なんてどうだっていいと思って生きてきたなら、認めてほしいと思う事もなかっただろう。
だからこそ、方法が分からない。
分からないからこそ、押しつけてしまう。

全て、悪循環。


「……オモチャじゃなくて、ホントに友達になりたいなら相手も尊重しなきゃ駄目じゃん?
 そーゆーちゃんとした『他人との付き合い方』ってのを、光はちゃんと学ばなきゃいけないと思うんだ」


馨はちゃんと考えているんだと、分かる瞬間だった。
自分の事も、周りの事も、光の事も。

環境が変われば周りも変わる。
そうすれば、必然と自分も変わる可能性だって出てくるのだ。
それを馨はきちんと理解している。


「……ちゃんと、相手を思いやれるようになるといいな、光」


「うん だから、絶っっ対に邪魔はしないでよね!?みんな」


軽く笑うに頷いた馨は、すぐに環達をびしっと指差した。
一番注意すべきは、ハルヒをかなり気に入っている環だ。


「邪魔したら、ブッ殺すよ?」


「兄思いだな、馨は」


真剣そのものな馨に、引きつった苦笑を浮かべる環。
繋がりの強い双子だからか、それともずっと二人で生きてきたからか。

馨の言っていた通り、確かに依存心は強いようだった。


「……ていうか、なら尾行などしなければいいのでは……」


「そりゃ、だってこの方が面白いし
 とデートもできるし?」


「ああ……そゆトコはちゃんとワガママな……の!?」


呆れる環に平然と返す馨の言葉に、最初気付くことなく相槌を打った環。
けれど、語尾になるにつれておかしな単語が出ていた事に気付いた。


「お前ら付き合ってたのかっ!?」


今日も至って普通の格好の
態度だっていつもと変わらない。

昨日、少し可笑しな対応があったけれど。


「……気付いていなかったのか?おまえは」


「きょ、鏡夜は気付いていたのか!?」


「昨日の二人を見れば一目瞭然だろう」


「うん 僕も崇も気づいてたよー?」


呆れる鏡夜。
そして、驚く環にとどめをさすように光邦も鏡夜の言葉に頷いた。


「まあ、昨日のアレで気づいていないのって環先輩とハルヒくらいじゃねーか?」


「……ああ」


昨日の様子を思い出しながら呟くに、崇が静かに頷き返した。
本当に、気付かずに心配しまくりだったのが環とハルヒだけだったから。


「……言ってくれてもいいじゃないか」


「いじけるな、環先輩」


地面にのの字を書き始めた環に、は肩を竦めるしかなかった。
軽く近づき、しゃがみ込んでいる環の頭に手を乗せる。

どっちが年上か分かったもんじゃない。


「それより、早くしないと見失うんじゃないか?」


鏡夜の言葉に、他の全員がハッとなった。









to be continued......................






初めての後ってこんなに痛くなるのかな〜と思いつつも、書いちゃいましたw
とりあえず、痛い人は痛いって言うし……何よりも、馨が激しかったって事にしとけばオッケーでしょう(笑)←ぉぃ
けど、本当にこの二人はくっ付くのに結構時間がかかりましたよね。






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