本当に光じゃなくて馨を好きになれたんだな、なんて思えるようになった
だって、光とハルヒがデートしてるのを見て……全然平気な俺がここにいるんだから











NotxxxPersist-ence 第四十一話











「結構楽しそうにデートしてるな」


「うん ちょーっとつまらないよね」


不服そうに馨はの言葉に賛同した。
と言っても、ところどころで光がイライラしたりしているのは目に見えているのだけれど。

それでも、つまらなそうなデートには見えなかった。

何かしらの感情がそこに存在しているから。


「……こ、この……」


そんな光とハルヒの様子に、イライラしている人物が一人。



た……環先輩?



は環の様子に気づき、引きつった笑みを浮かべ視線を向けた。
他のメンバーも気づいているようで、微妙な表情を浮かべながら環の様子を窺っていた。


「なんつーウキドキ感のかけらもないデートなんだ!!」


「ちょ、おい!」


慌てて環を止めようとした
けれど、その言葉が聞こえていないのか環は止まらない。

だって、あんなにも気にかけてしまっているハルヒが光とデートをしているのだから。
気にならない方が無理だろう。


「かわれ光!!俺がかわりにハルヒをエスコートして──」


「それじゃ意味ないって、殿!!」


「つーか、バレる!!阿呆!少しは静かにしろ!!」


叫ぶ環を必死に抑えながら、これ以上光とハルヒに近づかせないようにも馨も必死だった。
これでバレてしまっては、二人をデートにこぎつけた意味も、尾行してきた意味もなくなってしまう。


「ああ!アイスなんぞ買って……」


「アイス?」


けれど、すぐに環は収まりポツリと呟く声がの耳に届いた。
あまり気にしていないのか、どうでもいいのか、はふーんとでもいうような口調で問い返した。

環は何かを感じているのか、そわそわしながらもその店へ近付いて行った。
が、は全く何も感じないわけで。
今度は何をする気なのだと、溜め息を吐きながら環を追いかけた。


「なあ、環先輩 何するつもりだ?鏡夜先輩にチンピラやらせようとしてみたりしてたし、さっき」


光邦が和ませようとアイス屋のおっちゃんに扮装したのは、環のせいじゃないからここは置いておくとして。
何か企んでいるんじゃないかと首を傾げて、は環の返事を待った。


「マズかったら罰ゲームな」


そんな発言が聞こえた瞬間、環の目の色がガラッと変わった。
慌てて店の中に入っていったのだ。



おい、そこは従業員用の……!!!



そんな行動に、は驚きつつも『またか……』と溜め息が零れる。



今度は一体何をするつもりだ、環先輩は……



誰の想像をも超える行動をとる環に、は付いていけない。
というか、頭の回転が追いつかない。


「おじょーちゃん、かわいいねえv」



……は?



いきなり店の中から顔を出したサングラスにヒゲを生やした、いかにも怪しい男の声にその場にいた全員がきょとんとした。
光とハルヒは気付いていないようだが、尾行をしてきたメンバーにはバレバレだった。


「半分ずつなんてケチらないで、もう一個サービスしちゃうよ〜v」


「は、はあ……ありがとう、ございます?」


そんな変装した環から手渡されたアイスを、ハルヒは不思議そうな視線を向けながら受け取った。


「せっかくいい感じだったのに、何ジャマしてんのさ!!!」


「だってだってだってだって!!あんなカップル食い、ヤなんだもん!」


慌てて環のいる店内に掛け込んだ馨が、環の胸倉を掴んで怒鳴った。
もちろん、聞こえないように声を押し殺したままで、だ。


「邪魔したくなんのも分かるけどな?とりあえず、今は落ち着け
 ハルヒはあんたのもんじゃねぇんだから」


泣き叫ぶ環の口を両手でしっかりと覆いながら、が言った。
パッと耳にするだけでは、脅し文句ともとれないが──そうじゃない。


「俺が思うに、馨が堪えていられるわけがないと思うんだ」


今はと付き合っているという仲だけれど、やはりその双子の仲の良さは異常とも思えるほどに──固執している。



環先輩が何かしなくても、ボロが出る気がすんだよな



それが、光と馨という常陸院ブラザーズだから。
ちらりと見れば、何か光が発言したのか涙目になっている馨がの目に留まる。



……げ



ハッとした時には遅かった。


「ひかるゥ〜〜〜!!!ぼくここぉぉぉっ!」


「バッ、馨!落ち着け!バレる!!バレるぞ!!」


「そうだぞ、馨!お前が理性を失ってどうする!!」


駆け出しそうな馨を必死に押しとどめながら、冷静になる様にと環が声を掛けた。
先ほどまで宥められていたのは環だったというのに……



ほんとに、馨って光の事になるとなぁ……



肩を竦め、苦笑を浮かべては馨をちらりと見た。

それが嫌、というわけじゃなかった。
けれど、やはりそれが"イイ"と思えるほど心は広くもなく、そして強くもなかった。
やはり、好きな人がほかの人の方が大切なのかもしれないと思えば──心が苦しくなる。



ははっ
光は馨の双子の兄なのにな……こんな事でジェラシー感じてどうすんだか、俺は



バカバカしい嫉妬心に、は突っ込みを入れずにはいられなかった。
そうこうしている間に、馨も冷静さを取り戻したようで。
アイスを食べながらの小休憩を挟んでいた──アイス屋さんの中で。


「なあ、馨」


「ん?」


「光に、人を思いやれる心ってのを学ばせるのはいいことだと思うよ
 でもな、馨……あんたはどうなんだ?光離れ、出来るのか?」


素朴な疑問をぶつけてみた。
光はどちらかといえば、自己中心的で周りが見えなくなることが多い。
けれど、馨はその逆で、自己中心的に見せて周りを見ているし、気にする事も出来る。

けれど、馨は光に──それはもちろん、光だって同じだけれど──依存している。


「どういう意味?」


の言いたい意味が分からず、馨は首を傾げた。
ペロリと一口、手に持つアイスを舐めてから。


「言葉のまんまだよ 人を思いやれる心を学ばせればきっと光は馨から離れて行く
 そりゃ、双子だし兄弟で家族だから、その繋がりは簡単には切れないけどな
 それでも……きっと、今よりは距離が空く 互いにより大切なものを見つければ、尚更だ」


今はまだ、馨だけだ。
光に馨以上の大切な者が現れなければ、この関係は崩れることはないだろう。
が心配しているのは、光に馨以上の大切な人が現れた時のことだ。

馨は気持ちがどうであれ、きっと光離れをしなければいけない時が来る。


「馨が今してる事は、光を前に一歩前進させるための行動だ
 それは、言っちゃえば馨も一歩前進しなきゃいけないって事だ 分かるだろ?それくらい」


「そりゃ、そこまで馬鹿じゃないしねー」


「んじゃ、話は早い」


そこまで言うと、はじっと馨の瞳を見詰めた。


「もし、光が馨から離れる一歩を踏み出したら……」



それは、馨が望んだ前進だ。



「……馨は、それを受け入れられるか?
 離れて行く光を、自分以外の誰かを大切にする光を……認めて、その現状を受け入れられるか?」


「……あは、あははは な、何言ってんの?
 光には、そんな感情まだ早いって」


の問い掛けに、馨は乾いた笑みを浮かべた。
そこまで考えていなかったのか、考えていたけれどそこまで深刻に捉えていなかったのか。


「早い早くないなんて関係ない 現に、馨は俺を好きになった
 ……馨は、俺よりもやっぱり光の方が大切か?」


「そんなわけないじゃん!?
 ──ぁ」


の問い掛けに勢いで答え──馨は気付いた。
それは、つまり馨だけに当てはまることじゃない──と。


「人を思いやれるようになる事と、離れて行く事は……イコールで結ばれる
 すぐじゃなくても、いつか、きっと……な もちろん、絆が切れるわけじゃない
 だけど、今みたいに居る事は出来ないと思う」


もちろん、その時が来れば馨を包み込んであげようとは考えていた。
他の人の元へ心が移ろった光に少なからず馨は何かしら、心の痛手を負うだろうから。


「でも、俺はずっとそばにいるから 辛くて辛くてどうしようもなかったら、愚痴ってくれていい
 八つ当たりだって、何だって……受け止めるから
 でも、一応……ちゃんと、頭の隅に置いておいてくれな?」


みなまで言わなかった。
言わなくても、きっと馨には伝わる。



光の一歩は、馨の一歩だ



少ししてから、はにっこりとほほ笑みを浮かべた。


「それより!!光とハルヒは!?」


ハッとするように、は立ったままコーヒーを飲む鏡夜に問いかけた。


「どうやら、他の店へ向かったようだな」


腕を組みながら、店の窓口から外を窺う鏡夜の言葉に馨とは顔を見合わせた。
ここで見失っては、つけて来た意味がない。

慌てて立ち上がると、一行は再度尾行を開始した。









to be continued.......................






デート編の裏側で……もう少し原作の巻数が進むと差しかかる話を此処でに話させてみました。
互いに大切な人が出来れば、兄弟離れをしなきゃいけなくなるけれど……はたしてその覚悟が馨には出来ているのか、と。
実際、光と馨……いろいろと大変な感じに一時なりましたしね(苦笑)
で、やっぱり話はすぐに原作に戻りましたが……とりあえず、馨の浅はかさ(?)との愛の深さを現わしてみようかとw






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