「……へぇ」


追いついた先で達が目にしたのは、思いがけない光景だった。
それは、なんだか想像が付かなかった光景で。

でも、あり得ない光景ではないものだった。


「なーんか……」


「ちょっと目を離したスキにいー感じになってんじゃねぇか」


呆気にとられる馨の言葉を繋ぐように、が苦笑しながら呟いた。
それは馨も同じ意見だったらしく、コクコクと頷きながら様子を見つめていた。










NotxxxPersist-ence 第四十二話










「光がエスコートしているのかは怪しいがな」


カチャリと眼鏡を掛け直しながら、鏡夜は淡々と呟いた。
どちらかと言ったら、"光が"というよりも"ハルヒが"という方が当たっているかもしれない。


「……帰ろっか」


「そうだな バレたら元も子もないしな それに……」


馨の言葉にも賛同した。
頷きながら、ちらりと視線を環の方へと向ける。


「これ以上、ここに居てはいけない人もいるし」


「ハルヒ楽しそう……楽しそう…… いいなぁ……」


両目から大粒の涙を流しながら、光と楽しげにデートをするハルヒを見つめる環がいた。
本当に、これ以上ここに居てしまったら、環はどんな行動を起こすか分からない。

さっきのソフトクリームの時でさえ、あの慌てっぷりだったのだから。


「はいはい、環先輩 さっさと帰ろうなー」


グイッと首根っこを掴み、はずるずると環を自分達の方へと連れてきた。
これ以上見せていちゃいけないし、こうでもしないと帰らなそうだったからだ。



本当にハルヒの事となると、我を忘れるよな、この人は



凄いような、迷惑なような。
そんな事を思いながら、は苦笑した。


「どーしたん?


「ん?いや、ホント環先輩はハルヒがお気に入りだなぁ〜と思ってただけ」


肩を竦めると、は馨の手をギュッと握りしめ。


「んじゃ、さっさとサクッと帰ろうぜ」


な?と微笑みながら、は馨をグッと引っ張って歩き出した。
その後ろを環を連れた他のメンバーが付いてくる。

なんだかほのぼのカップルがいつの間にか出来あがったなぁ〜なんて、一部の人間が思いながら。










ペンションに戻った達は、店の中で思い思いに過ごしていた。
は、椅子に座り美鈴に出されたオレンジジュースを満喫していた。


は店とか回らなくてよかったの?」


「いつでも来れるだろ?それに、俺達まで歩きまわったら鉢合わせしそうじゃん」


掛った問い掛けに、はようやく視線を馨に向けると苦笑した。
普通に考えれば、鉢合わせする事も出来る事なら避けたい事なわけだ。
だからこそ、仕方のない行動だった。


「それとも、"馨が"俺とデートしたかったのか?」


ニヤリと笑い、は問いかけた。
すると、フイッと視線を反らしドカッと近くの椅子に腰かける馨。


「悪い?普通、デートしたいって思うじゃん」


素直な返事に、は一瞬きょとんとした。
それから、プッと吹いて笑うと。


「馨可愛いなぁ!そりゃ、俺だって馨とデートはしたかったぜ?
 でも、いつでも出来るならまた今度でもいいじゃん な?」


照れながらも素直に言ってくれた馨に、は率直な感想を述べ。
それから不敵に笑うと、言いきった。
光とハルヒのように付き合ってないわけじゃないのだ、と馨は。
だから、デートしようと思えばいつでも出来るのだ。


「はいはい 分かったよー」


ちょっとだけ不満だったのか、馨はブー垂れながらも頷いた。
その様子がまたなんだか可愛くて、は笑ってしまう。


「なんで笑うんだよ?」


「え、だってめったに見れないから可愛いなって──」


問いかける馨に率直に答えを述べた瞬間、の唇は馨の唇によって塞がれた。
一瞬の出来事で、は目を丸くさせて目の前の──近くにある馨の顔を見つめる事しか出来なかった。


「おまっ 人がいるってのにっ」


「見てない見てない」


両手で口元を覆いながら、真っ赤になりつつ反論する
そんな様子が可愛く思えたのか、してやったり顔で馨は言い切った。

実際、その様子を見てしまった光邦はニマニマと微笑み。
そして、環にいたっては顔を真っ赤にさせて視線を泳がせていた。
動じていなかったのは鏡夜と崇くらいだろうか。


「見てない人間の反応じゃねぇだろうがっ!!!」


「見てない見てない 見えてない見えてない」


なおもシラを切る馨に、はワナワナと震えた。


ちゃんちゃん」


つんつん。
光邦の声と同時に、軽くつつかれる感触。
はゆっくりと視線を向けると。


「僕達気にしないから、ちゃんも気にしなくていいんだよぉ?」


にっこりとほほ笑む光邦が、そんな風に呟いた。



そ、それが出来れば悩んでないっつーの……



そう思っても、さすがに相手は大の先輩だ。
引きつった表情を浮かべるだけで、は何も言えなかった。


「あ、光だ」


「あ?」


鳴った携帯の着信音。
それに気付いた馨が携帯をポケットから取り出すと、相手の名前を見て声を上げた。
あのデートの様子を見た後だ、誰もが気になる話の内容。


「もしもーし 光?」


『馨?悪いけどさ、車回してくんない?あと、タオルも積んどいて』


「えっ?歩いて帰ってきてんの?ハルヒは?」


電話の先から聞こえる雨の音と、水を踏んだ時にする水飛沫の音。
馨は眉を潜め、電話先の光に問いかけた。


『うっ そ、それが……』


「ハァッ!?ハルヒと喧嘩して別れたァ!?」


慌てるような、驚くような、そんな声を馨が上げた。
あんなに順調そうに見えたデート。
いったい何があったというのか。

その答えは、すぐに出た。


『ハルヒならほっといても戻るってば
 荒井って奴の車に乗るんだろーし』


「……荒井?」


光のとある言葉を反復するように馨は呟き、ハッとした。
けれど、次の瞬間受話器を奪ったのは環だった。

真に迫る、必死な形相で。


「光」


『殿?』


「車に乗るところは確認してないんだろう?なら戻れ」


『はあ!?なんで──』


「戻ってちゃんとハルヒ連れて帰ってこい」


光の言葉を遮り、呟いた環の言葉に光はまた「はぁ!?」と声を上げた。


『やだよ、殿 こんな雷雨ん中……』


「馬鹿野郎!いいから戻れ!!!」


「……環先輩?」


怒鳴る様子を見れば、何か切羽詰まったものをは感じた。
先ほどから部屋の中をぐるぐると歩き続けていた環も不思議な行動そのものだったけれど。


「こんな雨の中、女の子一人置いてくる奴があるか!!
 一人前にやきもち焼く前に相手の事をもっと考えろよ!!
 ハルヒは雷が怖いんだよ!!!」


それと同時に乱暴に電話を切った環。
イライラとしつつも、どこか二人を案じ心配する雰囲気が醸し出されている事には気付いていた。
もちろん、他のメンバーだってそうだろう。


「……馨」


「うん、大丈夫 光、そこまで馬鹿じゃないと思うから」


あそこまで言われれば、心にくすぶっていたものが揺すられるだろう。
ともなれば、きっと黙って帰ってくる事なんて出来るはずがない。

まして"雷が怖い"というハルヒが畏怖する対象を知ってしまったのだから。


「……だよな」


「うん」


安堵して、ホッと胸を撫でおろしながら呟くに馨はもう一度頷き返した。

パカッ。
ピピッ。

その時、携帯を取り出した馨には視線を向けて首を傾げた。


「どこに電話、掛けるんだ?ハルヒに掛けても、多分出れねぇんじゃねぇの?」


「違う違う、ハルヒじゃないって」


的外れな事を言うに、馨は苦笑を浮かべた。
そして、携帯のディスプレイを見せ──


「光?でも、さっき環先輩と……」


「ま、僕は僕 殿は殿って事だよ」


そう言うと、馨は通話ボタンを押した。
携帯に耳を当てると聞こえてくる音。

そして。


「光?」


『馨?』


なぜ、掛けてくるのか分からないと言わんばかりに光は馨の名前を口にした。


「さっき、鏡夜先輩が荒井青果に連絡してくれたんだけど……ハルヒ、光の後追って歩いてったって
 だから、来た道戻れば途中で会うかも」


『ほとんど戻りきってんだよ!!
 途中ですれ違うとこなんてどこに……』


「光?」


馨の言葉に反論する光の声が、途中でピタリと止まった。
それが何を意味するのか……
馨は眉を潜め、訝しげな声で問いかけた。


『教会……?そういやさっき通ったかも……
 悪い、馨!あとで電話する!』


それだけ伝えると、光は馨の返事も聞かずに電話を切った。


「光、何だって?」


「うん、教会とか言ってた 多分、見つけたんじゃない?」


その言葉を聞き、はニッと笑った。


?」


「うん?いやぁ〜、光も目敏くなってきたと思ってな」


前だったら、きっと気付かなかったポイントだろう。
言わなきゃ相手に伝わらない事があるように、相手の事を考えなきゃ感じ取れないことだってある。

それは、気が利く利かないの問題じゃなくて。
些細なヒントも見逃さないほどに、相手の事を考えているという証拠。










to be continued......................








軽井沢の光とハルヒのデート話は、これにて終了☆
長かったような短かったような……(笑)
さて、そろそろも問題をいろいろと解決しなきゃですよね……出来るのかなあ?(^_^;)






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