ずっとずっと胸に残されていたしこり──

それが、すぅっとなくなったような……そんな感じだった。
どこにでもあるような、そんな家族、兄弟。
はそれをずっと望んできた。


俺は……愛されていなかったわけじゃ……ないのか?


嫌われてきたと思っていた。


そうよ……わたくし達は──


──ずっとお前を愛してきた 何もお前の未来に残してやれない事を悔いて──


でも、それは全て勘違いで。
辛く当たる両親の裏側に、優しい隠れた愛情があった。


「俺を……強くさせる為に……身を鬼に、してきた……か」


なぜ、もっと親を見なかったのだろうか。
なぜ、もっと早く話を聞こうとしなかったのだろうか。

なぜ、もっと他の方法に気付かなかったのか……

今更ながらに、思ってしまう。


「俺も、父さんも母さんも姉さんも……ただの、人だったんだな」


どんだけ裕福で、立場が偉くても。
親になれば、姉になれば……他の家庭と変わりない。



なんで、もっと早く、それに気付かなかったんだろうな……俺は



肩を竦め、見えてきた第三音楽室の扉を見つめた。

気付けないほどに、心がさびれていた。
気付けないほどに、心を痛めつけられていた。
違ったのに、そうだと思いこみ、嫌い、憎み、反発をした。

悪い所ばかりを見て、他を見ようとしなかったのは──


「ほかならぬ俺、か……」


自業自得、なのかもしれないとは笑った。
それでも。


「それでも……俺はちゃんと前に進めた」


きちんと、和解し合えた。
その事を胸に刻み、はいつものように第三音楽室の扉を開けた。
今日の接客の準備のために──











NotxxxPersist-ence 第四十四話











「……は?」


扉を開けてすぐに間の抜けた声を、は上げてしまった。
忙しなく準備をする部員メンバーの姿が見えると思っていたからこそ、今目の前に広がる光景が異常に見えて。


「いったい何があったんだ?」


だから、そんな風に問いかけてしまう。

部員メンバーは、誰も準備をしている様子もなく。
そして、時間が刻一刻と迫っているのに焦る様子もない。


「時間になっちまうけど、いいのか?」


「今日はお客様は来ないよ、


「馨?」


来ない、なんて言葉には丸くした。


「昨日、お前の様子がおかしかったからな
 だから、本日は申し訳ないがお客様にはホスト部はお休みだと伝えた」


「……あー」


鏡夜の言葉で、昨日の自分の態度を思いだした。
言われてみれば、上の空だったり、接客に身が入っていなかった。
なにより、ずっとずっと沈んだ態度を取っていたかもしれないとさえ思えた。
それだけ、昨日のは気分が重かったのだ。

それも、全て結局は杞憂に終わったのだが。


「いったい何があったの?


「せめて、僕には話してほしかったんだけどね」


心配するハルヒと、あっけらかんと笑いながらも心配の色を見え隠れさせる馨の言葉には苦笑を浮かべた。
それだけ、周りに分かるほどに態度に出ていたのだ。

周りに気付かれないように──なんて、気が回らなかった証拠だろう。


「両親と姉に……昨日、会ってきた」


「「「「「なっ!?」」」」」


の言葉に、静かに話を聞いている鏡夜と崇以外が驚きの声を上げた。
無理もない、あの“の親”だと聞いたのだから。

姉は会った事がない為、あまり思う事はないのだろうが、両親となれば話は別だ。


「なんでそんな事……!!」


「光」


声を上げる光を静止したのは、一番声を上げたいはずの馨だった。
そして、じっとを見つめると。


「……どうだった?」


そう問いかけた。
その言葉に、光が驚きの声を上げた。


「なんでそんな事聞くんだよ、馨!!あの母親が相手なのに……」


「僕は、を信じてるから
 何かあったなら、きっとは黙って隠さない 僕にだけは……きっと言ってくれる」


言われなかったからこそ、大丈夫だったのだと判断したのだ。
ここまで人を愛した事のない光だからこそ、馨がなぜそう言うのか理解できなかった。
それでも、そこまで信頼できる人間が自分以外に居るということが、光は羨ましかった。


「……意味わっかんないし」


「いつか光も分かる時がくるよ」


つまらなさそうに呟く光に、馨は笑い。
そして、もう一度に視線を戻すと、言葉を促すように頷いた。


「俺さ、ずっと自分のいいように解釈してきてたんだ
 きっと嫌われてる 嫌われてるから『いらない子』だって言われるんだって」


それは、部員メンバー全員が知っている事だった。
どういう親か、前にの家に全員が行ったときに嫌というほどに思い知らされていた。


家を継ぐ姉さんがいた だから、俺は必要なくて……
 だから、家族のストレスのはけ口になるのが……きっと俺の務めなんだって
 でも、それが凄く嫌だった……俺は俺で、ちゃんと“俺”を見てほしかった」


だからこそ、は初め反発をした。
親の思いに気付くことなく、気付こうとせずに。

初めは、きっと、ただ厳しかっただけだっただろう。
なんでも一人で出来るように、一人立ちできるように──姉とは違う教育のされ方。
それが“いらない子”だと言われているように、は感じてしまった。


「そんな俺の態度が、余計に母さんを苛立たせたんだ
 そうだよな……思いが通じなくて、分かってほしいのに分かってもらえなくて……」


?」


何を言いたいのか、何を言っているのか、環には分からなかった。
だからこそ、首を傾げてをじっと見つめた。


「その時にさ、背中に……大怪我を負ったんだ
 『ああ、やっぱり俺はこの家族の為にしか存在しないんだ』と思った
 身を呈して守らせられて……俺は、家族の誰よりも命の価値がないんだって」


言っていて、は嫌な違和感を感じた。



違う……
何かが、違う……



呆然と、両手を見つめた。
反発していても、あの時は家族が大好きだった。
大好きだったからこそ、自分を見てほしくては反発していたのだ。

守れと強要されて守った?

それは違う──それは──


「……ああ、そうだったんだ」


?」


ようやく出た答え。
矛盾した記憶。
けれど、ここで全てのピースが繋がった気がした。

そんなに、馨は近づき首を傾げた。


「大丈夫だ、馨 思いだしたんだ……記憶違いの、俺のいいように書き換えてしまった記憶を──」


は苦笑して、ぐしゃりと髪を握った。


「俺、自分で守ったんだ、家族を 金持ちだと踏んで入ってきた強盗から……俺は、自ら
 大好きだったから……俺は家族に必要な人間だと認めてほしくて
 だから……俺は必死に守ったんだ そんな俺を、姉さんが守ろうとしてくれた
 俺より浅かったけれど……それでも、姉さんも怪我をして……」


なぜ、忘れていたのか。
なぜ、そんな大切な事を“嫌なこと”に記憶を書き換えてしまったのか。


「母さん達……俺の事よりも、姉さんを心配したんだ
 あわてて駆け寄って、大丈夫かって……俺の方が大怪我だったのに、母さん達は……」


「だから、ちゃんは“ご両親は自分を嫌っていて、お姉さんの方が大切だから自分はいらないんだ”って解釈しちゃったんだねぇ?」


「……ああ 俺の怪我は何とも思わないんだって
 俺は居てもいなくても変わりないんだって……必要な時にだけ在ればいいんだって」


だからこそ、都合のいいように“守らせられた”と記憶を書き換えてしまった。
ちょうどその時期は、イライラしていた母親から辛く当られたりしていたから。
だからこそ、は違和感を今まで感じなかった。


「だから、抵抗するのを止めたのか?反抗を止めて、全てを受け入れて……」


環の問い掛けに、は静かに頷き返すだけだった。
その頷きは、ただただ『そうだ』と肯定するもので。

それからのは、部員メンバーの知るだった。
自分の存在意義を自分の身を呈して誰かを守るものだと思いこんで。
全ての流れを受け入れて、受け止めて、文句も言わずに従って。

その時に、暗い暗い倉庫のような部屋を使わせられた。

それさえも、は文句も言わずに受け入れてしまった。
どんなに辛い仕打ちをされても、酷い事を言われても……は“いらない自分がいけないんだ”と諦めてきた。
だからこそ、存在意義に執着した。
それすらも取り上げられてしまったら、自分には何も残らないと思ったから。


「でもさ……昨日会いに言ってきて、いろいろ話したんだ
 そしたら、全部俺の勘違いだった」


「……嫌われていなかった」


の言葉を継ぐように、崇がポツリと呟いた。
その言葉に、は「ああ」と小さく頷き笑った。


「父さんも、母さんも、姉さんも……俺の事を嫌っちゃいなかったんだ
 ただ、どう接したらいいのか……俺に何も残せないからこそ、辛く当ったんだって」


「ああ……そうだな 家はのお姉さんが継ぐんだもんな
 そうなれば、には何も残らない……」


それがどういう事か、環は分かっているようだった。
小さく呟き、に悲しげな表情を向けた。


「間違った方向に向かっちゃったけど、みんな、俺の事を考えてくれてたんだ
 俺は、いちゃいけない人間じゃなかった 必要じゃない人間じゃなかった」


言葉にすればするほど、嬉しさが込みあがってきた。
涙が込み上げ、けれどそれを拭う余裕もなかった。


「俺は確かに──────」











愛されていたんだ……













to be continued




いろいろとこじつけの為に(笑)
でも、ちゃんとみんなに話して──っていうのは入れなきゃなって思ったんです。
どんな形であれ乗り越えたわけですからね(^o^)丿

親を愛さない子供はいない。
子供を愛さない親はいない。

全てが全て、そうじゃないのはテレビのニュースなどの悲しいニュースを見れいれば分かりますが。
それでも……そうであってほしいなと思って。
手を上げてしまう親、反発してしまう子供。
……でも、どこかで後悔して、いろいろと悩んで、それでも好いている気持ちが少しでもあれば。

なんて、そんな事を書きながら思っちゃいました(苦笑)






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