「な!?ちょっと一体────」


担がれたハルヒは慌てて手足をじたばたさせた。
何が何なのか意味がまるっきり分からない、といった表情だ。


「いーから、さっさと着替える!!」


崇の肩から降ろされ、地面に足のついたハルヒは今度は光に包みを押し付けられるように手渡された。


「は?何?」


「時間ないんだから、理由は聞かない!さっさと着替える!」


ずびし!

戸惑うハルヒには一括。
「う〜」と声を漏らしながらも、ハルヒはそれを承諾してくれた。


「「んじゃ、ちゃっちゃとメイクとかもやっちゃおう!」」


メイク道具を手に取り、光も馨も楽しそうに笑った。
そんな笑顔が、ハルヒには悪魔に見えてしまった。



いや……悪魔だったか……



とか、自己完結したけれど。














NotxxxPersist-ence 第六話














「光も馨も、ほんとこういうのは得意だよな」


とりあえずは着替えてもらおうと、ハルヒを着替え室に向かわせた。
そんな間、はメイク道具をそろえながら楽しそうに笑う二人に声を掛けた。


「そりゃーね 僕らの母さんはデザイナーだし」


「いろいろと鍛えられるんだよ」


カチャカチャ……

ものを扱うときのかすかな音がこぼれる中、光と馨が交互に答えた。
けれど、光と馨の母親がデザイナーをしていることは知っていた。
だからこそ、は「ふーん」と言うだけで納得出来たのだ。

庶民じゃなければ知っていること。
庶民の事は知らないけれど。


だって僕らの手にかかれば、別人だよ?」


の顎に手を添え、不敵に笑って馨は言った。


「気色悪いことをするな つーか、俺が化粧とか女の格好なんてしてみろ、キモイっつーの」


「「……」」


添えられた手をは掴んではずし、嫌そうな表情を浮かべた。
そんなに唖然とするような、呆気にとられるような、微苦笑を浮かべた光と馨。


「せっかく親の承諾を得て女の格好しなくてすんでんのに、好き好んで着るかよ」


あーあ、と大きく溜め息を吐いた。

どさっ

そのまま豪快には椅子へと腰掛けた。


「「ほんと、女じゃないよね」」


「そういう風に育ってないからな」


嫌味っぽく言う双子に、は何も気にせず言いきった。



そうだ……いつも姉貴ばっかりだった
俺は人前に出る必要がないから、必要最低限の事しか教育されていなかった



足を組み、瞳を閉じた。
思い出すのは昔の事ばかり。

人前で恥をかかない程度のテーブルマナー。
言葉使いも敬語を使えればいいという程度。
モデルじゃないから歩き方も教えられることもなかった。


「あの……着替え終わったんですけど」


そう言い現れたのは短髪にワンピースという出で立ちのハルヒ。


「…………」


「光?」


ボーっとハルヒを見つめる光。
は首をかしげながらも、訝しげに視線を向けた。



なんで……そんなにまじまじと見てるんだ?



心の中で己に問い掛ける。
けれど、そんな答えはとっくに出ていた。


「……気にしてるから、か」


「え?」


ぽつり

小さく零した言葉を馨が聞き取った。
と同じく小さく疑問の声を零した。


「ん、んじゃ!メイク始めるから座ってねー」


ハッと思い出したかのように、光がハルヒを椅子に座らせた。


「いいか?リミットはパーティークライマックスまでの二十分」


説明する鏡夜。
もくもくと言葉を耳にするハルヒ。
そんな二人をよそに、ハルヒの肌に色を付けていく光と馨。


「すでに、二のCの教室に珠洲島氏を呼び出してある」


「え!?」


「「こら、動くな!」」


鏡夜の思わぬ言葉に驚き、多少身体を動かしてしまったハルヒ。
慌てて声を上げる双子は、本当にひたすらメイクをしていた。

そして、そのメイクは徐々に徐々に仕上がっていく。


「うまく気持ちを聞きだしてねv」


光邦の楽しそうな笑み。
その言葉に唖然としていると、左右から「できた」と声があがった。


「全く困るよなー」


「殿ってば、企画を急に昨日言い出すんだもん」


「ああ、本当だな 準備とか大変だったんだぞ」


馨と光の言葉を繋げるように、が頷いた。
うんうん、と何度もコクコクと。


「「は何も用意してないだろー?」」


「心の準備だ」


双子の突っ込みには悪びれる様子もなく、ハッキリと言い返す。
誰もが心の中で思ったことだろう。
『別にしなくてもいいんじゃないか』と。


「こら!」


唐突に聞こえた環の声。
それと同時に軽くドアの開く音が聞こえた。


「全員でこっちに来てどうする!お客様の相手も────」


血相を変えた環の張り上げられた声。
けれど、その言葉もハルヒを見つけるとすぐにかき消えた。
すぐに、違う感情が支配してしまったから。


「上出来!どーよ、殿!」


「あ、うん」


光の言葉に唖然としたまま、そう答えるしか出来なかった環。


「ははは そりゃ、凄い変貌ぶりだもんな その反応は正しいと思うぜ」


くすくすと笑いながら、環の反応に頷く。
ちらりとハルヒを見れば、かぶるカツラが重いようだ。


「「よっしゃ!行ってこい!」」


「頑張ってこいよ〜」


送り出す双子にまぎれ、は同じようにハルヒを見送った。



やっぱりハルヒは女の子なんだな
男の子の格好してても、行動の至るところで女の子らしさが見え隠れするっつーか……可愛い反応をするっつーか……
俺とは全然違うな、やっぱり



歩きづらそうなハルヒを見つめ、はそんな事を思っていた。
同じ女なのに、こうも違うという事に苦笑がこぼれた。












to be continued..................




この辺から徐々にヒロインが双子と絡みはじめればいいかなと思います。
特に繋がり?というか、かかわりが深くなるのはれんげちゃんが登場する回だと思うけど……(笑)
とりあえず、馨が動き出さないとうまく回り始めないという。(笑)






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