さすが金持ち、考える事が理解できない。
しかし・・・なぜ、ハルヒがそのホスト部にいるのか。
しかも、女子であるはずなのに男として。
それだけは、気にかかる・・・。
女であることを隠しているなら、真実を言いふらす気など更々ないが。
一応・・・・知っておいた方がいいのだろうか?
男のふりをしている、その理由を。
イトシイヒト 第四話
が初めてホスト部に行ってから、数日が経った。
世間ではクリスマスを間近に控えているが、はそんなことは無関係とばかりにマイペースに勉強とアルバイトをこなして過ごしている。
あれから、ホスト部には一度も行っていない。
そもそも、興味がなければ理解も全く出来ないので、もう一度行きたいとも思わないが。
けれど・・・・
「藤岡、いる?」
ホスト部には興味がないし関わりたくもないが、1つだけ気にかかることがあり、は初めてA組の教室を訪れた。
男で通しているらしいので『藤岡さん』ではなく、あえて『藤岡』と呼ぶが・・・・思ったとおり、一斉に注目を浴びる。
まあ、自分に対する周りの評判が悪い事は自覚しているし、そもそも規定の制服すら着ていないので、仕方がないのだろうが。
「さん!どうしたの?自分を訪ねてくるなんて、初めてだね」
「あっれー?姫じゃん!」
「お久しぶりー♪なになに、ハルヒに用事?」
「・・・・いや、別にあんた達は呼んでないんだけど。つか、頼むからその呼び方だけはやめて」
すぐに教室の中からハルヒが出てきてくれるが、何故か呼んでもいない約2名が一緒にくっついてくる。
一応、その『姫』と言う心底勘弁して欲しい呼び名にだけは突っ込んでおき、改めてハルヒに向き直った。
「ちょっと、出来れば2人きりで聞きたい事があんだけどさ、いい?」
「うん、かまわないけど・・・・何?」
「あんたが今そうしてる理由。
・・・・ホラ、あたしは知ってるわけだし、一応聞いておこうと思って」
他の生徒の前なのであえて主語を省いて用件を言うが、それでもちゃんとわかってくれたようだ。
ハルヒは「ああ、そっか」と普通に言い、逆に後ろの2人は目を見開いた。
そして、じっとを・・・・まるで睨むような強い眼差しで見つめてくる。
・・・・何が言いたいのかは大体わかるが、いきなり敵視されるというのも不愉快なものだ。
別にこっちには、弱みを握ったつもりも他者に言いふらすつもりもない。
ただ、今後の都合も考えて理由だけは知っておこうと思っただけだと言うのに。
「・・・・とりあえず、場所変えていい?ここじゃ話せないからさ」
快く承諾してくれたハルヒと一緒にやって来たのは、無人の第3音楽室。
普段使われていないここは放課後にホスト部が使用するのみなので、内緒話にはうってつけだ。
呼んでもいない双子が揃って、おそらくを見張るために強引について来たが・・・・この際、仕方がない。
彼らもホスト部の一員である以上、無関係ではないのだし。
言いふらすつもりなど更々ないが、これからの事について彼らの意見を聞くのもいいかもしれない。
そして・・・・・
「・・・・・・・マジ?」
「「マジでーす」」
「まあ、そういう事で」
いざ、ハルヒが"男子"としてホスト部にいる経歴を一通り聞いたはいいが・・・・・
正直、その一言しか返答を返せなかった。
一方、ハルヒと、どうやらに対する警戒がとけたらしい双子はいたって冷静だ。
「壷割って800万の借金に、その返済のために顧客ノルマ1000人って・・・・・」
「まあ最初は100人だったんだけど、色々あって1000人追加になったってわけ」
「いや、なったってわけ、って・・・・あんたがそんな明るく言う事なの?
えっと・・・・あんた、光と馨どっちだったっけ?」
よくよく見れば双子と言えど微妙な違いはあるが、一度しか名前を聞いてないのでどっちがどっちかは覚えていない。
申し訳ないと思いつつ聞いてみると「馨だよ」とすんなり答えが返ってきた。
「なるほど、こっちが馨だね。ありがと。
・・・・でもノルマ1000人って、明らかに高等部の女子全員より多いじゃん。
卒業までに終わんないんじゃ・・・・?」
いくらまだ1年生とは言え、1000人なんて全校女子生徒総数の数倍はある。
そして、校内の全ての女子がホスト部に興味があるわけでもないだろう。
実際、自分はこの間までその存在すら知らなかった。
なのにそんな人数を顧客として集めるなど、いくらハルヒが美形でも不可能に近いのではないだろうか・・・・?
「うーん・・・・まあ、その時はその時かな?」
だがしかし、こっちの心配を他所に、当の本人のハルヒはいたって冷静と言うか、むしろのん気だ。
その様子は、この子本当に状況がわかってんだろうか?と問いたくなるほどで。
双子も揃って、呆れたような何か諦めたような顔になっている。
・・・・いつもの事、と言うことか・・・。
可愛い顔をして随分と大雑把と言うか、ザックリした性格だ。
「けど、大丈夫なの?
出席番号はこの学校、男女混合だけど・・・体育とか身体検査とか、バレそうなポイントはいっぱいあるんじゃ」
「あ、体育は選択してないから、大丈夫だよ」
「他の時は、僕らが何とかカバーするしね」
「まあそれ以前に、『ホスト部』にいる奴が実は女子だなんて、よっぽどの事がない限り誰も疑わないだろーし」
まあ、確かにそれはそうだ。
しかもハルヒの場合、美形ではあるがあまり『女』を感じさせる容姿ではないので、髪型や喋り方さえ気をつければ女顔の美少年で通るだろう。
「そっか・・・・うん、とりあえずわかったよ。教えてくれてありがと。
誰にも言わないから、安心していいよ」
これでも一応口は堅い方だから・・・・と続け、はハルヒに向かって微笑んだ。
全く飾り気はないが、土台は結構な美少女であるだ。
いつもは無表情で他人を寄せ付けない雰囲気さえあるが、一度笑うとその顔はとても可愛らしく、どこかあどけなくさえある。
ハルヒも、光も馨も、初めて見るの笑顔に、何となく見入ってしまう。
「そっか、サンキュ!・・・・でも、なんか噂とは大分イメージ違うね、っち」
「そう?・・・・てか、『っち』って」
「だって姫って呼んだら怒るじゃん」
たしかに、姫なんて呼び方は心底お断りだが・・・・・なぜ『っち』か。
なぜ『っち』をつける必要がある。普通に呼び捨てればいいものを。
「まあ、姫とか呼ばれるよりはマシだからいいけど。
噂って、性格悪いとか態度がでかいとか、そーゆーの?」
自分がクラスでどういう存在なのか、そしてどういう噂が流れているかは知っている。
無愛想。
性格も口も態度も悪い。
ケンカっ早い。
攻撃的。
態度がでかい・・・・などなど、どう聞いても悪口な内容が他にも多数だ。
とはいえ全く外れているわけではないと自分でも思うし、別にどんな噂が立とうが、それで誰に嫌われようがどうでもいいので、本人は気にしていないが。
「そーそー。無愛想とか口が悪いとか、すぐケンカ吹っかけるとかね。
けど、話してみるとそういう風に感じないからさ」
「普段は確かに愛想ないけど、今笑ったら可愛かったしねー」
「あたしだって好きで無愛想でいるわけでも、ケンカしてるわけじゃないよ。
むしろ、どっちかっつーと吹っかけられてる側だし」
「あー、B組の連中とウマ合わないんだ」
「そーゆー事。特待生なんだし、あたしもA組なら良かったのにさ」
今更言っても仕方のない事だが、は溜息交じりにそう呟いた。
気にしないとは言え腹が立つものは立つし、いちいち嫌味を言われ続けるのも気分が悪い。
A組は本当に生粋の名家ぞろいだから、生徒達にも品があるし人格も優れた人が多いが・・・・。
しかし・・・それよりランクが落ちるB組には、全員がそうとは言わないが俗に言う『嫌味な金持ち』が多いのだ。
だからいつも庶民であるを見下し、自分たちはお前とは格が違う・・・・と言わんばかりの目をする。
もちろんにとって気分のいい話のはずもないし、元より売られたケンカは買う性分なので、クラスメイトとは常にそりが合わない状態だ。
だから、態度がでかいだの性格が悪いだのと言う噂ばかりが流れ、の評判は悪くなる―――。
入学以来、そんな悪循環をずっと繰り返して来た。
「そうだよね・・・・それにもし同じクラスなら、もっと仲良くなれたかもしれないのに」
の顔をじっと見ながら、ぽつりとハルヒはそう呟いた。
そういえば試験の時も、一緒に合格したいね・・・・と言って別れたのをなんとなく思い出す。
「かもね。同じ庶民特待生なのに、クラスが違うと接する機会もろくになかったから」
「うん。それに、さんと勉強の相談とかも色々出来たかもしれないよね」
「いいよ、で」
「本当?じゃあ、自分の事もハルヒでいいよ」
おどけるように笑いながら言葉を交わしあう。
正直クラスに『仲のいい友達』と呼べる人間など存在しないので、こうやって普通に笑って話が出来た人は入学以来始めてだ。
比較的気が合いそうな感じだし、これまでクラスが違う事と忙しい事を理由に一切関わって来なかったのは、ちょっと勿体無かったのかもしれない。
「「じゃあさ、呼び方も変わったことだし、今からもっと仲良くなっちゃおーよ」」
「「は?」」
唐突に見事なシンクロでそう提案する双子に、とハルヒもまた、見事なタイミングで同時にそう聞き返した。
20cmほど高い位置から女子2人を見つめるその顔は、実に楽しげである。
「ちょ、いきなり何を・・・・」
「校内にたった2人しかいない庶民特待生同士、もっと親交を深めなきゃね」
「ほとんどの噂がデマだってわかったし、ハルヒの秘密も厳守してくれるみたいだし?
・・・・・ってわけで、っちにはこれを贈呈しまーす!」
光が笑顔と共に、一枚の白い封筒を差し出す。
飾りに金箔が貼られた手触りのいいそれは、かなり上質な紙を使っているものだとわかった。
「・・・・・何これ?」
「「ホスト部主催、クリスマスパーティーの招待状でーす!」」
そう言われて、やたらとテンションの高い双子をちらりと見てから、何気なく中身を取り出してみる。
確かに中に入っていた紙には、『招待状』と書かれていた。
「へー、クリスマスパーティーまでやるんだ」
「中央棟のサロンを貸しきって盛大にね!っちも来なよ」
「楽しいゲームに、豪勢な料理、ダンスパーティーと目白押し!楽しそうでしょ?」
双子の話を聞きながら、封筒を意味もなくひっくり返したりして何となく眺めてみる。
なるほど。
ダンスやゲームには興味はないが、料理が振舞われると言うなら食費が浮く。
そこは確かに魅力的だ。
しかし・・・・
「ん〜・・・・けどなぁ。ホスト部主催って・・・・」
主催がホスト部なら、当然客である女子生徒たちも大勢来ると言う事。
ただでさえ周囲から敬遠されている自分が行けば、間違いなく浮くだろう。
豪勢な料理には惹かれるものがあるが・・・・そんな状況になるとわかっていて、あえて参加しようという気にもなれなかった。
そもそも、ハルヒとはこれから仲良くしたいと思うし、この間会ったもいい人だったが・・・・ホスト部(特にこの間の変人)と仲良くなりたいとは全く思っていないのだから。
・・・・しかし、はこの時まだ知らないが、この常陸院ブラザーズはが思っているほど話の通じる相手ではない。
明らかに断ろうとしているの表情をすかさず見抜き、光と馨は即座に次の行動に移った。
その瞳には、ホスト部の面々に言わせれば『また何かしでかしそう』な色が浮かんでいる。
「何、っちクリスマスはもう先約アリ?」
「彼氏とデートでもあるとか?」
「いや、そんなのいる訳ないし、その日はバイト入ってないから一応ヒマだけど・・・・」
断るつもりとは言え嘘をつくのもどうかと思ったので、一応正直にそこは答えておく。
光と馨が一瞬ニヤリとした笑みを浮かべ、なおかつ目が光った事に、残念ながらは気がつかなかった。
「ならオッケーじゃん!親友・ハルヒのためにも、絶対来てよ!」
「へ!?」
「ちょ、光、馨!?そんな強引に・・・」
「じゃあ、そろそろ予鈴鳴るから僕達帰るから!クリスマスに待ってるからねー!」
約束だからねー!と一方的にそう告げて、笑顔で揃ってVサインを浮かべながら帰っていく。
ハルヒも一緒に引きずられていったので、後には招待状をまだ持ったままのだけが残った。
・・・・・嘘。え、あたしこれ行かなきゃダメなの?
内心はそんな思いで埋め尽くされるが、それを問うべき双子はすでにそこにいない。
なんて自由奔放な連中だろうか。
一応ハルヒは反論してくれたようだったが聞く耳も持たなかった。
というか最初から聞いていなかった。
もうあの2人の中ではこっちの意見などお構いなしで、が参加することは決定稿になっているのだろうか。
あと、いつの間に自分とハルヒは親友になったのだろうか・・・・。
なんて一方的に交わされた『約束』。
ハッキリ言って、納得がいかない。
正直どちらかと言えば行きたくないし、何より面倒くさい。
せっかくの休みだし、日頃の疲れをとるためにゆっくりしようと思っていたのに。
だが・・・・おそらく自分とハルヒの事を思って好意から誘ってくれた訳だし、2人とも楽しそうに笑っていた。
こっちの意見丸無視とは言え、これは行かなければならないだろうか・・・?
「うわぁ・・・・ちょ、マジ・・・・?」
溜息交じりにそう呟きながら、招待状に書かれた『様』の文字に目を落とす。
その呟きも、何かを諦めたように吐き出された溜息も、残念ながら誰にも届くことはなかった。
そして、来る12月24日。
結局は招待状を携え、中央棟サロンに赴いた。
またあの変人たちと顔を合わせる事になるのか・・・・と、溜息をつきながら。
to be continued...................
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こうして少しずつホスト部に巻き込まれていくでした♪ とりあえず、最初に1年生ズとの交流は深めておかなければ!と思いまして^^ 双子が強引にを誘ったのは、一応とハルヒの友情を思ってもありますが、大半の理由は『その方が色々面白そうだから』です(笑) 先日の環とのやりとりもあるし、を呼べば色々面白いことが起こりそう・・・みたいな。 |
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