時刻は午後五時を回ったころ──桜蘭学院の中央棟大広間で、楽しげ音が鳴り響いた。
「今宵集まりし子羊達よ この日を友に過ごす幸運と至上の美に感謝を」
ゆらりと揺らめくロウソクの炎。
「主の祝福と共にその扉を開きたまえ」
静かに扉は開き、ざわめきが立ちあがる。
「桜蘭ホスト部クリスマスパーティーへようこそ……!」
楽しいパーティーの幕開けだった。
イトシイヒト 第五話
「「はーいvお嬢様方、カード勝負はいかが?」」
楽しげな双子の声が木霊した。
「「一ゲーム勝利で一ポイント&豪華景品!
得点上位獲得者には、ラストダンスを部員と踊る権利が!!」」
「うちの方は写真勝負だよ うちの写真より綺麗な写真を撮ってきてくれたお嬢様には一ポイント贈呈!」
あとは、結果は同じだ。
双子達でいう豪華景品が、のゲームでは好きな場所好きな相手と記念撮影が出来るというものだ。
「「そして、なんと!トップ賞にはキングより祝福のキッスが!」」
そんなアナウンスに、黄色い声があちらこちらから上がった。
それはそうだろう。
「さてと……」
ポツリと呟くと、は踵を返した。
そう、ゲームが始まるのだ。
得点をかけたゲームが。
「お嬢様 よかったら、うちとゲームしない?」
ニコリと微笑み、カメラを構えた。
レンズ越しに女生徒を見つめ、そしてカメラのレンズから目を離した。
直に今度はじっと見つめる。
「写真を撮ってくるのでしたわよね?」
「うん うちの写真より素敵な写真だったら一ポイント贈呈だよ」
「やってみようかしら」
「あまり重く考えないで、あんたが綺麗だと思った場所を好きなように撮ってきてくれればいいからさ」
ゲームを受けると言ってくれた女生徒に、カメラを手渡しながらは微笑んだ。
その微笑みに、黄色い声をあげる女生徒が居る。
うっとりと見つめる者もいる。
「ああ、一つ忠告しておくけど」
「え?」
「"綺麗なものを撮ろう"とか"綺麗に撮ろう"とか考えてると、いいものは撮れないよ」
フッと笑って、それから一つウインクを投げた。
そんな事を思わずとも、本心から綺麗だと思ったものはフィルタを通しても綺麗に移るものだ。
もちろん、カメラマンの腕も必要になってくるが……今は、そういうものを見るわけじゃない。
彼女達の、心が見える瞬間だからね
どんなに綺麗に見せていても、どんなに優等生ぶっていても、どんなに猫を被っていても。
心はすべて映し出される。
「そんじゃ、頑張ってきてね」
ヒラヒラと手を振り、カメラを持って歩み始めた女生徒を見送った。
今と同じ要領では何人もの女生徒にカメラを渡していた。
さすが金持ちという事だろうか、そんなにカメラを用意出来たのは。
「「なになに 先輩は簡単なゲームじゃん?」」
「難しくしても、ポイント贈呈出来ないからね」
ひょこっと姿を現した光と馨の双子ペアに、は肩をすくめた。
ゲームはある程度難しくて、けれど簡単に勝てるわけでもないくらいが丁度いいのだ。
簡単に勝てても、全然勝てなくてもゲームは面白くも何ともない。
「手、抜いてんじゃん?」
「適度に手を抜くのは必要だと思うけどね」
「「適度に……?」」
「『どこが?』って聞きたげな目で見るなって」
肩を竦めるを見つめる双子の瞳は、不服そうだった。
だからこそ、ジトっと見つめながら溜め息を吐いた。
「そんなに、うちはサボってるつもりはないんだけどね」
肩を竦め、辺りを見渡した。
女子と話すときに比べれば、少ない口数。
けれど、部活を通して共に居る時間が長いからか、他の男子と比べるとよく喋ってはいた。
「「ついこの間まで休んでたじゃんー」」
「それはそれ、これはこれ」
すっぱり切りはねる。
「言い訳だね」
「結局、何だったのか教えてくれなかったし?」
ズズイと近づいてくる双子に、はザザッと数歩下がった。
よく喋っていても、部員には慣れてきてはいても──やはり恐怖は拭えない。
「男に近づかれるのは、ちょっと趣味じゃないんだけど」
ひきつった表情を浮かべ、不機嫌な色を滲ませた。
「「あー ごめんごめん」」
そんなの表情を見て、ヤバイと思ったのか双子は数歩下がった。
「ほんと、先輩って男嫌いっつーか、女好きだよな」
「同じ男の僕らでも、ここまで男を拒否しないのにね」
「あんたらはあんたら うちはうちだからね」
それも、やっぱりすっぱり撥ねる。
何より、同じ男──という所で間違っているのだけれど隠しているのだから仕方がない。
こいつら、面白いから話すのは好きなんだけどなぁ……
男がダメ、というところが原因で一定時間しか話せないのが、少しだけは悔しかった。
そして、そんな感情が少しだけ自分の性格と裏腹な気がして苦笑がこぼれる。
男嫌いなのに、こいつらとは話すのは好きで……
男の前だと大人しくなるのに、部員の前だとある程度は喋る……
なんというか……紙一重ってこういう事を言うのかな
肩をすくめて苦笑した。
「「一人笑いしてると、助平って思われるよ?先輩」」
「なっ!」
苦笑するに向って、双子は声を合わせてクスクス笑いながら言いきった。
その言葉──というより"助平"という単語には顔を真っ赤に染め上げた。
すすす、助平って!!!
いくらなんでも、それは言われたくない言葉だった。
そんなの内心なんて知るよしもなく、双子は爆笑しながら走り去っていった。
「くんが男子と仲良く話しているなんて、ほんと珍しいですわ」
「あ……」
「部員の方だけなんですね」
「まあ……そうなる、かな」
写真を撮り終えたらしい女生徒達がくすくす笑いながら姿を現した。
まるで一部始終を見られていたような、恥ずかしい感覚。
そうじゃないと分かっているのに、最後の少しのやり取りだけだろうと分かるのに──恥ずかしい。
「で、撮れたの?」
右手で腕を掴み、首をかしげて問い掛けた。
長い髪がサラリと肩から流れ落ちた。
「ええ 見て下さる?」
「オッケー」
言って、はカメラを受け取った。
「ずいぶんといい写真を撮るんだなぁ」
ありがとう、と立ち去って行った女生徒達の背中を見つめて苦笑した。
全員が全員ポイントを上げたわけじゃないが、それでも結構綺麗な写真を撮ってくる人が居た。
「あ」
そんなとき見かけた姿。
「〜♪楽しんでる?」
トントンと肩を叩いて声を掛けた。
ニコリと微笑み、ヒラヒラと手を振った。
「先輩 はい、食事も美味しいですし……」
の問い掛けに頷き答えるものの、どこか歯切れが悪くは感じた。
そこで、思い出したのだ。
チラッとしか見ていなかったのだけれど、何だか大変そうだったのだ。
「まあ……いろいろ大変かもしれないけど、楽しんでってね」
唯一、自分が女だと知っている──というか、見事勘付かれた──という事が、少しだけの肩の荷を降ろさせていた。
気を張らなくてもバレないという安心感。
そして、誰にも言わないと約束してくれたことへの──不思議な信頼感。
年来の友人、というわけでもないのに信じられたのだ。
「……あれ?」
「どうかしたんですか?」
「あ、うん なんか……ちょっと不思議なものを見たような……」
目をこすり、人ごみを見つめた。
今、確かにハルヒっぽい人をは見かけたのだ。
「ハル、ヒ?だけど……髪が長かったような……」
人違い?と内心思うも、そうだと言い切れない。
なんたって、ハルヒが女だと先日発覚したばかりなのだ。
あの部員達なら、カツラとか女性ものの服を用意したりとか──用意周到そうだ。
「ごめん、ちょっと行ってくる!」
いきなり声を掛けて、いきなり立ち去るなんていい迷惑かもしれない。
けれど、気になってしまったのだから仕方がない。
駆け出し、ハルヒの後を追おうと人ごみの中を突っ切ろうとした。
「──っ!?」
「どこへ行くつもりだ?」
「なんだ、鏡夜か」
腕を掴んだ、男の手の感触にビクリと肩を揺らした。
けれどその姿を確認すると、安堵の息を吐きながらパシッとその手を振り払った。
「さっき、ロン毛のハルヒを見た気がして、気になって追っかけてた所なんだけど」
鏡夜のせいで見失ったみたいだね、と大きく溜め息をついた。
「それなら問題はない ちょっとしたサプライズをするために、ハルヒに協力してもらっているだけだ」
「……強制的な?」
そう問い掛けるも、強制的でほんとに嫌であれば拒否を示すだろう、さすがにハルヒだって。
それが、きちんと着替え、その姿で人ごみを歩いていたのだから──
「ってわけでもないかな」
そういう結論に至るわけで。
「さて、クライマックスまであと少しだ」
「何か企んでるでしょ」
「俺ではないがな 考えたのは環だ」
その言葉に、は大きく長い溜め息を吐いた。
なんか、想像着いたし……
「どうせ、春日崎さんと珠洲島を仲直りさせようとかしてるんだね」
言うが早いか、それとも鏡夜の方が早かったか。
時計……?
視線は腕時計に落とされていた。
to be continued......................
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ゲーム……あんまり内容ない感じになっちゃいました(笑) とりあえず、前回の終りの内容に少しふれようと思いちゃんに絡ませたんだけど……すっげー薄っぺらw←内容 双子とのやり取りが楽しく、そして鏡夜とのやり取りは一人ニマニマしながら書いてたんですが…… あまり、内容に影響を及ぼしていないというね!!(笑) |
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