町の掟。
それは、町に住まう住民しか知りえるはずのないこと。
何も知らない旅人達は宿のない町を訪れ、恰好の獲物として住民に狙われる事となる運命にある。

住民一人に一旅人。
獲物の命を食べ、若さと美しさを保つこの町の住民を、近隣の国は恐れていた。












RECOLLECT 第十話












ちゃ〜ん 夕飯の用意出来たよ」


そう言い扉を開けたギルの手にあったのは、お盆だった。


「ごめんねー 今したに親の客が来ててね……悪いんだけど、ここで食べてもらえる?」


「うん、分かった 部屋からも……出ない方がいいよね?客が帰るまでは」


ギルに首を傾げて問い掛けた。
家に案内された時に、ギルの親なんていたかな?と疑問視するが、部屋に案内されてからしばらく時間は経っていた。
その間に帰ってきたんだろうと結論づき、疑問はかき消えた。


「ありがとね〜、ちゃん それじゃ、食事終わったころに取りに来るよ」


そう言うと、ギルはパタンと扉を閉め廊下を静かに去っていった。
ギッギッギ、と床の鳴る音が聞こえた。


「……親、なんて居たんだ
 にしては、小さい家だよね……ま、いっか いっただっきまーす」


パン、と軽く両手を合わせた。
フォークとナイフを手にすると、用意された食事には手を伸ばした。
豪華とは言えないけれども、質素ともいえない、一般的な家庭料理。


「……ギルが作ったのかな?」


勝手な想像に、笑みが零れた。
明るく、あっけらかんとしたギルがエプロン姿で料理している様子を想像してしまったから。


「まぁ……美味しいからいいかな」


そう言いながら、一緒に持ってこられた飲み物にも手をつけた。
リナ達が警戒し食事をとっていない頃、は優雅に食事を楽しんでいた。


「んはー ごちそうさまー」


食事が終わり、テーブルの上にお盆と食器を乗せた。


「あー、お腹一杯」


どさっ

はそのままベッドに倒れこんだ。
小さな窓から見える星空を眺め、ベッドの上で悠々と身体を休めていた。


「んー……お腹一杯食べたから、かなぁ 眠いな……ふわああーああ」


大きなアクビがの口を割って出てくる。
生理的に瞳に涙が浮かび上がる。


「少し寝ようかな……明日は朝早くリナ達と合流したいし……」


もう一度大きくアクビをすると、の意識は一気に暗闇の中へと引き込まれていった。












「効き始めた頃かなー」


ニヤリと口元に笑みを浮かべ、ギルはの眠る部屋の扉をゆっくりと開いた。
部屋の中を確認すると、テーブルの上に食器とお盆。
そして、ベッドの上では予想通り眠ってしまっているが居た。


「警戒してたのに、こんな風に食事に手をつけちゃうなんてねぇ
 賢いんだか、賢くないんだか」


肩を竦めて苦笑しながら、まずはテーブルに近寄った。
お盆の上に食器を乗せ、バランスを取りながらそれを部屋の外へ持ち出した。
綺麗に平らげられた食器を見て、ギルは嬉しそうに微笑んだ。


「さて……これから、今度は俺の食事に付き合ってもらうよ」


くすくすと笑った。
パタンと部屋の扉を閉め、カギを閉める。


「今度の獲物は、どれくらい効力あるかな……」


そう言いながら、ゆっくりとベッドで眠るに近づいた。
が今までの獲物のように、すぐに人形にならないことを願いながらベッドに腰かけた。


「クィエ エル ハルト フィル ハザーバ ディバス オル ミィルダ オン バルーダ フィリピス」


異世界のような呪文を唱え、ギルはの顔の上に手を翳した。

ドクンッ

心臓が、強く脈打つようにの身体が跳ねた。


「人間にしては、膨大そうだよね〜これなら、効力持続しそうだねぇ」


くすくすと笑い、再度息を吸い込んだ。
意識を集中させるように瞳を閉じ、今度は両手を翳す。


「ディルタ ヴァルド アル フォルト ハル オヌ リャテャ ディア ボル ハザード オン ハル ウンハッタ」


「う……あ……何、を……」


そこでようやく目覚めた
かすんだ視線を、目の前で何かを唱える者──ギル──の方へと向けた。


「君の命を貰うんだよ?ちゃん?」


「冗談……は、やめて……よ、ね」


動かしたい身体。
けれど、どんなに力を込めてもの身体は指先さえもピクリと動かなかった。


「今頃、ちゃんの仲間も食べられちゃってるよ……い・の・ち」


ギルの口元が、不自然なほどに歪んだ。
何を言っているのか分かるけれど、その言葉の意味をきちんと頭が理解したがらなかった。


「リ、ナ……ガウリ、イ……ゼルガディ、ス……アメリ、ア…………ゼロスッ!!」


悲痛な、助けを求める声がの口から吐き出された。


「動けはしないけど、喋れるなんて凄いねぇ〜ちゃんは
 ますます君の命……欲しくなったよ」


「はっ……う、ああっ がっ……ふっあ……ひ、き……うあああああっ」


何かが全面に押し出し、吸い出され始めるような変な感覚。
苦しく、まるで自分が自分ではなくなってしまうような不安。

の瞳から、大粒の涙が零れ落ちた。



身体が動けば……戦えるの、にっ
どうして……どうしてっ……!!!



悔しくて悔しくて、零れる涙が止まらなかった。


さん!!」


突如聞こえた声の主は、いきなり鍵のかかった部屋の中へと現れた。


「ゼロ、ス……」


掠れた声で現れたゼロスの名前を口にした。
ようやく現れた救世主に、ホッと安堵の息を吐き────の意識は暗闇へと落ちそうになった。


さん、気を失ってはダメです!しっかりして下さい!今何とかしますから!」


その声に、の意識はグンッと表に引っ張られた。
ゼロスの言葉に、声に、は無意識に起きようと頑張った。


「大丈夫……だよ、ゼロス 私は……倒れない」


意思の強い瞳がゼロスを捕らえた瞬間、ゼロスは満足そうに微笑み。


「さて……どうやら、ようやく尻尾を出してくれたようですね」


いつも閉じられていたゼロスの瞳が開け放たれていた。
のそばに佇むギルを、ゼロスはギッと睨みつけた。


「先ほどのやり取りで、主犯格は……いえ、この町を仕切るのはザラさんかと思ったんですがね
 あなたがこの町を仕切る者でしたか……ギルさん」


「いったい何の話をしているのかな?」


ゼロスの言葉に一切動揺することなく、首を傾げた。
その表情は完全にしらばっくれる気、満々だった。


「あなたは、初対面ですぐに気付いたんですよね?さんの底知れない"何か"に
 もちろん、僕らを含め……あなた方もその正体は分からないが……膨大そうな命を持つさんを獲物に絞り込んだ」


そんなところじゃないですか?とゼロスは首を傾げた。
呪文の止まったは、徐々に呼吸を整え始めていた。
身体さえ動けば、は完全に復活できる。


「あーあ 君の話に付き合ってたから、ちゃんへの呪文……最初からになっちゃったねぇ
 ま、君の話も図星で聞いてて面白かったってのもあるけどねぇ」


肩を竦めながら、ギルは再度に視線を向けた。


「そうだよ 俺は最初からちゃんの膨大な"何か"に気付いてたよ
 食べるなら……彼女が一番最適かと思ってね ま……正体の分からない"何か"を食べるのは、勇気がいるけどね」


食べようとしたギルが、その"何か"に食べられてしまっては意味がないから。
そんな話をしていた最中、聞こえてきたのは数人の足音。


「奴ら……しくじったみたいだね」


チッと、あからさまにギルは舌打ちをした。
視線はソッとから扉の方へと向けられていた。


!!居るんでしょう!開けなさい!!」


「動けないの!リナ、壊してでも入ってきて!」


リナの叫ぶ声。
は動けない代わりに出せる声を盛大に使った。
必死に叫んだ。


「ウィンド・ブリッド!」


の言葉にリナは一呼吸置くと、即座に呪文の詠唱をし魔法を発動させた。
風の衝撃波がの居る部屋のドアを破壊した。

ドガガガガガガガガ


!大丈夫!?」


「大丈夫ですよ、危機一髪で僕が駆け付けましたから」


入ってきたリナの慌てぶりに、ゼロスは笑顔を浮かべた。
そして、に視線を向けて言いきった。


「そうだね 君が駆け付けてくれたおかげで、呪文が最初からになっちゃったね
 まぁ……ちゃんが一向に動けないのには変わりはないんだけどね?」


くすっ

笑みを浮かべ、ギルはの頬に触れた。
ゾワリと悪寒がの背筋を走る。


「気色悪い手で触らないで!」


「へぇ 言うねぇ、ちゃん
 そういう気の強い……俺、好きだよ?」


一応はの頬から手を離したギル。
けれど、気色の悪い笑みがを見下ろした。


「下手に手だしは出来ないよね?君達は 大事な大事な仲間が俺の集中にあるわけだし?」


「くっ……」


ギルの図星をつく言葉に、リナは喉の奥を鳴らした。
悔しさの滲みだした、掠れた声で。


「痛いっ!」


「大人しくしてれば痛くはないよ 少しばかり、俺に付き合ってよね?」


身体の動かないを無理やり立たせ、ギルは自らの方へと引っ張った。
胸の中に抱きとめるようにを抱きしめる。


「さて、リナ=インバース……そこをどいてくれるかな?」


その言葉の奥に隠された意味をリナは感じ取っていた。



どかなければ……を傷つけるって言いたいのね……こいつっ



ギリ……

奥歯を噛みしめ、ジリジリとリナは扉の前から退いた。
その様子に満足そうにギルは笑みを浮かべ、背中を見せずに部屋の外へと向かっていく。


「ディム・ウィン!」


一つ呪文を詠唱し、発動させたギル。
直後、すぐに早口で呪文の詠唱を開始した。


「ライティング!」


そして、またすぐに魔法を発動させた。
強風と明るい光が行方を阻み、視界を遮る。


「ゼロス!」


「わかってます!」


リナの声に、ゼロスは一返事をしすぐに姿を消した。


「……ここは、ゼロスに任せるしかないな」


「ああ、そうだな」


「はい」


ゼルガディスの言葉に、ガウリイとアメリアの同意の声が上がった。
すでにリナ達はギルの姿を見失ってしまったから。


……お願い、無事でいて……」










to be continued...................




ゼロスの出番だあああ────!!
今のうちに株上げをしておくって感じで、ヒロイン助けてますね。(笑)






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