「…………」


さん?」


ゼロスの手を握り締めたまま、はぴたりと足を止めた。
リナ達と早く合流しなくてはいけないのはわかっている。
けれど。


「怖い」


「え?」


俯いて、表情の見えないから発されたか細い声。
真っ赤に染まった手が震える。


「私、自分が……怖いよ」


「…………」


の言葉に、ゼロスは何も言えなかった。
いつもなら、すんなり交わすなり冷酷な言葉を投げるなり────何かしらは出来ていたのに。











RECOLLECT 第十三話











さっきからずっと、に掛ける声があった。
決してゼロスには聞こえることのない、にしか届かない声。


思い出せ 私を出せ


ずっとずっと、うるさく鳴り響くように届く声。
外から聞こえているようで、中から響いているようで、どこからともなく聞こえて反響する。


お前は私じゃない 早く私に返せ


攻め立てるように、聞こえ続ける。

がたがたがたがた……

怖くて怖くて、は血で塗れた両手で肩を抱いた。
飛び散ったときについた血に、手形の血が追加された。
ベチャリと、嫌なにおいが充満する。


「私は……誰?何者なの……?私は本当に────」



人間なの?



疑問は、口には出なかった。
ゼロスが、いきなりを抱きしめたから。


「ゼロ、ス……?」


さんは、さんではありませんか?」


魔族であるゼロスの唐突な行動に、は驚いていた。
目を丸くして、抱きしめるゼロスを見つめる。



本当は敵だとしても……僕は……



気づいてしまった。
に向けられた感情を知ってしまった。
いつからそう思っていたのかなんて、ゼロスには分からない。
気づけば気に掛け、ギルに連れ攫われた時は必死に追いかけ探した。

"いつ"なんてどうでもいい。
大切なのは、そうじゃない。
大切なのは、"好き"という気持ち。


「私は……記憶を取り戻したら、みんなに酷いことをするかもしれない」


か細い声で呟くに、ゼロスは抱きしめたまま耳元で『そんなことはない』と伝えた。
たとえ、記憶を取り戻してもともにいた時間、ともにいたは偽者じゃない。



そんな事……言い切れないよ
私はきっと……普通の人間なんかじゃない
あんなこと……あんな惨状、普通の人間が出来る仕業だとは思えないよ、ゼロス



やつらは敵だ 早く……私に身体を返せ すればやつらを────


聞こえた声にゾクリとする。



ねえ、ゼロス
もしも敵同士だったら……?
記憶を取り戻したら……私たちは、また争いあうんじゃないの?



なんともいえない不安がを襲った。
ずっと、普通の人間だという予想がの支えでもあった。

けれど、もしそれが崩れたら。
不安は、着々とを飲み込んでいく。


!ゼロス!!」


そのとき聞こえたのは、聞きなれたリナ達の声だった。
駆け寄ってくる姿は必死そのもの。
近づいてくれば近づくほどよく分かる、リナ達の心配そうな表情が。


「良かった……無事だったのね!」


「……っ」


そんなみんなの顔を見たら、はジワッと涙を浮かばせた。



この人たちは私の敵じゃない
私のことを心配してくれる……大事な人たちだから



タンッ

地面を踏みしめ、はリナに抱きついた。


「…… もう、大丈夫よ」


「〜〜〜〜〜〜〜〜ぅんっ」









たとえ、私が普通の人間じゃなかったとしても
私は私で、みんなのことを大切に思う私で……みんなは、私の敵じゃない
不安はあるけど、そんなのぬぐってくれる仲間がいる
記憶を取り戻して私が"あなた"になっても……きっとそれは"私"だから……
だからきっと、みんなはそんな私を受け入れてくれると思う
満面の笑顔で
快く 気持ちよく
"あなた"になった"私"を受け入れてくれる

きっと────








to be continued...............





不安はあるけれど、怖くはない
正体不明な自分が怖いけれど、怖くはない
そう思えるのは、きっと信じられる仲間がいるから……もし、その仲間に裏切られたり敵対してしまったらどんなに辛いことだろうか。






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