「違和感を感じていたのは結構最初からだったんですけど、確信に近づいたのはついこの間でしたね」


「この間って、あのが苦しそうになった時?」


「はい」


あの時、とゼロスは二人きりになり結界を張った。
それを知らないリナ達はただ、二人きりで何かをしたということしか知っていなかったけれど。


「強い力を感じました 以前に会ったことのある──普通の人間には出しえない力」


ゼロスの言葉に、全員の動きはピタリと止まった。
腕を組んだり、首を傾げたり、何か言葉を発したり、そういったことを全く出来なかった。
なぜなら、リナ達には分かるから。
普通の人間には出しえない力、その言葉が何を意味するのか。










RECOLLECT 第二十一話










さんの中には、魔族がいます」


「「「「「────っ!!」」」」」


何の反応も示さずにいろという方が無理な、ゼロスの重大発表。
ごくりと息を呑み、リナ達はを見つめては自分の身体を見つめた。


「私の中に……魔族が?」


「そうです そして、その魔族から感じるのは──リナさん達に手を出そうとしたあの魔族です」


ふわりと風が吹き、リナの栗色の髪がその表情を隠した。
けれど、すぐにあらわになった顔からは驚きの色が強くにじみ出ていた。


「どうしての身体の中にいるのよ!?」


「そうですよ!!さんはあの魔族とは無関係だったんでしょう!?」


リナとアメリアの悲痛の叫び。
それは、叫びというよりも悲鳴に近い声だったかもしれない。


「わ、私は無関係だよ!?魔族なんて知らない!!私はだよ!」


そんなリナとアメリアの言葉を聞いて、必死には否定した。
中にいるなんて、知らなかったと。
それでも無関係なんだと。


「ええ、さんは無関係でしょうね 
 僕に痛手を負わされた魔族が、丁度通りかかったさんの身体の中に入り込んだんじゃないかと思います」


「……融合?」


「とは少し違うようですね」


の叫びにゼロスは頷いた。
の意識と同時に感じ取った魔族の意識。
二つの意識が一つの身体にあるはずがないと、ゼロスは言いたかったのだ。
つまり、それから答えを出すとすれば今しがたリナが問いかけた『融合』しか答えが見出せなかった。


「違うってどういうことですか?」


ゼロスの否定の言葉に、アメリアは首をかしげた。
融合しかありえないように思うのに、そうでないならどういうことか。


「僕にもうまくいえないんですが……さんと魔族が融合したような感じがしないんですよ
 さんの中の片隅にいるって感じで……少し説明し辛いですねぇ」


何とも言いづらい状況下に置かれている
融合はしていないけれど、二つの存在が一つの身体にいるという事は全員に伝わっていた。


「それじゃあ、いつの中から魔族が出てくるか分からないってことか?」


「ああ、そのことなら安心してください さんの身体にちょっとした結界を張っておきましたんで、大丈夫だと思いますよ」


ゼルガディスの問い掛けにゼロスは笑顔でさらりと答えた。


「結界?」


「はい 覚えてませんか?さんと二人きりにさせてもらった時にちょいとやっちゃったんですが」


「あ、あの時だったんですか!」


首を傾げるリナに、ゼロスはキョトンとした表情で答えた。
思い出すリナに、アメリアはそれを言葉にして表した。


「なるほどな 二人きりになったということは、それなりに見られちゃ困る方法だったんだろ?」


気になる結界を張った方法。
魔道士ならば気になるのは当然だろう。


「まぁ、そうですねぇ 『僕が』というよりかは『さんが』と言った方がいいでしょうね」


しゃあしゃあと述べるゼロスの言葉に、は顔を真っ赤に染め上げた。
それはあの時のことを思い出し、赤面しているようなもの。


?」


「へ?なななな何!?」


「……顔真っ赤よ」


「っ!」


リナの指摘にまたまたの顔は真っ赤に染まる。
茹でだこ状態になったの頭から、いつ湯気が立ってもおかしくないくらいだった。


「なんですか!?さん、ゼロスさんにいかがわしい事でもされたんですかっ!?」


「ちょっ、それはどぉいう意味ですかぁぁぁ!!」


アメリアの慌てる言葉にゼロスは即座に反応した。
いくらなんでも、今の言われようはない。
実際、確かに人様にそう易々と言えないようなことをしていたのだけれど。


「話が脱線しているが、いいのか?」


「ああ、そうだったわね」


ゼルガディスの言葉に、リナは笑みはすぐに真顔に移し変えた。
そして、ゼロスへと眼差しを向ける。


「なら、の中から魔族が現れにくくなってる──……と考えていいの?」


「そうですね 出てこようとすれば制御がかかるように結界を張ったので大丈夫だとは思いますが……」


「強く出てこようとすれば、そうもいかない──……って事ね?」


リナの問い掛けにゼロスはその通りだと頷いた。
完全に封じる術なんて、今はなかった。
あの赤眼の魔王(ルビーアイ)でさえも完全に──……ではなかったのだから。


「まぁ、そういうことになりますねぇ」


ゼロスの肯定の言葉に、リナは腕を組み考え始めた。
その様子にとゼロスは顔を合わせ、だけが首をかしげた。


「このまま、クレスケレスに入って大丈夫かしら?」


「そうですね さんの中にあの魔族がいるとなれば、少し不安は残りますね」


「だが、入らずにいる──というわけにもいかないだろ」


リナとアメリアとゼルガディスは、そんな風に相談を始めた。
その考えを読めていたからゼロスはのように首を傾げなかった。
もしかしたら、読めていなかったけれどそこまで気にしていなかっただけかもしれないけれど。


「私は……ここでみんなとお別れしても構わないよ」


「え?」


「な、何を言ってるんですか!?さん!!」


の申し出に、ガウリイとゼロスとゼルガディスは無言のまま──けれどその瞳を丸くしていた。
リナは間の抜けた、予期せぬ発言へ思考が追いつかなかったような声を漏らし、アメリアに至っては至極驚いた声を上げた。
がしっと、の両腕を掴むほどに。


「何って……これ以上みんなに迷惑を掛けるわけにはいかないでしょ?
 危ないって分かってるのに危険な橋を渡る必要はないって事」


「何を言っているのか、分かってるの?」


の言葉に、今度はリナが真剣な口調で問いかけた。
その声には、微かに怒りが込められていた。


「分かってるよ」


「分かってないわ!すべてを一人で背負うなんて……あたし達を信用していないの!?」


「していないわけじゃない!!信用してないわけないじゃない!」


リナの言葉には激しく首を振った。
その髪は乱れるように左右になびき、顔を隠す。


「なら、どうして!!」


「私は、魔族を私の中に留まらせておける自信がない!たとえ、ゼロスに結界を張ってもらっていたとしても……」


絶対なんて、この世界にない事を知らないほどは世間知らずじゃなかった。
たとえ記憶がなくても、絶対なんてないことくらいよく分かる。
『絶対に記憶を失わない』なんて事がないように、『絶対魔族を留まらせておける』なんて事もない。


「それに……もし、みんなの前で魔族を解放しちゃったら……みんなと仲間じゃいられなくなる様な気がして……」


それが一番、の心を悩ませた。
たとえ、どんなに絶対な絆を結んでいても壊れるときはいつかくる。
それを、自らの手で下したくなかったのだ。
回避できるのなら、それを回避したいと思うのが人の心というもの。


「なーに言ってんのよ、 あんたが中にどんなのを飼ってようと、あたしとの関係を崩す要素にはならないわ」


「そうですよ、さん!ずっと一緒に旅をしてきた仲間じゃないですか!」


「そうだな 寝起きを共にして、同じ飯食って……それであっさり裏切るようじゃ仲間とはいえないもんなー」


「ああ、それには同意だ たとえどんなに短くとも、な……仲間だ」


言い慣れない言葉にゼルガディスが少し口ごもってしまったけれど、全員が全員を大切な仲間だと考えていた。
そして、ゼロスは不敵な笑みを浮かべ、全くの余裕を見せ。


「もちろん僕だって、好意を寄せた相手には誠意を尽くしますよ?」


「魔族のあんたが言うと説得力ないわよ〜」


ゼロスの言葉にリナが軽く突っ込みを入れた。
確かに魔族は負の感情を糧としている。


「みんな……」


小さく感動の声を漏らすに、リナは微笑み肩に手を置いた。


「だからね、……そんな悲しいことを言わないで?」


「リナ……」


「あたし達は、もう覚悟を決めたわ ゼロスの話を聞いてるときにね」


「後は、あんたがどうしたいかだ」


リナに、ゼロスに、アメリアに、ゼルガディスに、そしてガウリイに意見を求められるように見つめられていた。
十の目がを射抜き、答えを促す。
『どうするの?』『答えは?』そんな風に、視線が語りかけているようだ。


「……ごめん、ありがとう」


潤んだ瞳で、は五人を見つめた。
にこりと微笑み、この後もよろしくと手を差し出す。









to be continued...................




ゼロスが凄い主人公に優しい……(笑)
本編とかの冷酷さを見た後だと、どうもモヤモヤする……('-';)






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