「ここをくぐればクレスケレスよ」


「……うん」


リナの言葉には小さく頷いた。
ずっと待ち望んでいた場所。
なのに、いざ入ろうとすると尻込みしてしまう。


「大丈夫ですよ、さん リナさん達をはじめ──……僕もいるんですから」


「ゼロス……」


不敵な笑みを浮かべ、言い切るゼロスには微笑んだ。
そうして、パッと視線を逸らしてしまう。



近いうち……ちゃんと答えないと……ゼロスの気持ちに……



意識していくうちに、ドンドン胸の鼓動が高まっていくのが分かっていた。
気に掛けて、優しくしてくれるゼロスに惹かれているのがは分かっていた。
ただ、それをいつも後回しにしていただけだった。


「ねぇ、ゼロス」


「なんですか?」


「……クレスケレスに到着して、ひと段落したら……聞いて欲しいことがあるんだ」


その言葉で、ゼロスはが何を言おうとしているのかが分かった。
答えがどちらかはしか分からない。
けれど、その言いたいことというのが、きっとゼロスの告白への答えだろうと。


「分かりました」


ただ、そう短く返すしか出来なかった。


「それじゃ、行きましょうか」


ゼロスの言葉を合図に、達はクレスケレスの門をくぐろうと一歩踏み出した。









RECOLLECT 第二十二話









「──っ!?」


ばちばちばち、と電気が全身に走るような感覚に襲われた。
鋭い衝撃には身体を屈め、その場にしゃがみ込んでしまう。


!?」


「どうした?」


リナの慌てた声、ゼルガディスの心配する声。
それぞれ違う声色が、まるで遠くから聞こえてくるような不思議な感覚をは経験していた。


さあ、思い出せ……自分の事を、この私のことを


鈍器で頭を殴られているような、吐き気を伴う鈍痛に身体は崩れ落ちる。
地面に倒れ、横になったまま身体を丸めてしまう。


さん!?」


にとってゼロスの慌てる声が心地いいのに、凄く──嫌になる。
気持ちが悪くて、気分が悪くて、すべてを破壊したい衝動に駆られる。


「私、は……」


お前は誰だ あやつ等は何者だ 私は──なんだ


「う……ああ……」


渦を巻くように、目の前が回る。
景色と人の姿が混ざり合うように、溶け込むように、視界が歪む。


──思い出せ、すべてを


強く、強くそう言われた瞬間──ッシュバックでもしたかのように、の脳裏にたくさんの映像が流れた。
それは、リナ達に聞いた話の断片的なもの。
けれど、それだけでも十分にすべてを思い出させるものだった。


「ああ……く、う…… ああっ……」


ぎゅ、と両手で自分の身体をは抱きしめた。
強く強く。


さん、しっかりしてください!!」


その声にうっすらと瞳を開いた。
映るのは倒れたを見下ろすゼロスの姿。
心配そうなその表情は見えず、ただッシュバックするのは──


僕の玩具に手を出すとは……なかなか隅に置けませんねぇ


を散々痛めつけるゼロスの姿だった。


「い……ああああぁぁぁぁぁ────!!!」


強い悲鳴と同時に、の身体の回りを歪んだ力が包み込む。
の身体に施されたゼロスの封印が、パリンとガラスが砕けるように散った。


「どういうこと!?」


「何が起きているんだ!?」


「私にも分かりません!!」


は大丈夫なのか!?」


リナ、ゼルガディス、アメリア、ガウリイの心配げな声が聞こえるなか。
は徐々に落ち着きを取り戻していった。
モヤモヤとしたものは掻き消え、まるで本来の自分に戻ったかのように。


「……っ!」


息を呑んだのは誰だったのか。
その声が聞こえた瞬間、は自分で気がついた。
短かったその髪が、すらりと伸びていくことに。


「……その、姿は……」


「まさ、か……でも、なん……で……」


驚き、掠れた声を上げたのはゼロスとリナだった。
地面に横になったまま、変わっていくの姿に唇は乾き、開口したまま何も言えずにいた。


「…………」


むくりと、は無言のまま身体を起こした。
起き上がったの瞳は鋭く、そして醸し出す空気は今までのとは違っていた。
魔族──という言葉の似合う、そんな冷たい空気だった。
その空気は、そしてその姿はリナ達には忘れがたい思い出を思い出させるものだった。


「あの時の……魔族?」


「……ああ、そうだよ ふふ……思い出したよ、すべて」


にまりと微笑みながら呟き、その長い髪をかき上げた。


「……あたし達のこと、忘れちゃったの?」


「……何を冗談を 覚えているよ、私の食事にならなかった者と……私を滅ぼそうとした者だ」


その笑みにリナは、ゾクリとしたものを感じた。
今まで積み上げてきたものはなんだったのかと、叫びたいほどに手が震えた。
拳を握り締めていないと、今にも崩れ落ちてしまいそうだった。


「そして……一時的にでも記憶を失った私を、敵だとも知らずに助けようとしてくれた馬鹿な人間と……
 同じく、敵だと知らずに思いを寄せた馬鹿な魔族」


カツンと靴を鳴らした。
ゼロスが気付いた瞬間、の姿はゼロスの目の前にいた。


「……っ」


ふと、何かに気付いたゼロスは慌てての前から姿を消した。
虚空に姿を消し、次の瞬間姿を現したのはリナ達のそばだった。
そして、間を空けずリナ達全員を連れて姿を再度消した。
瞬間、を中心にゼロスやリナ達がいた付近を精神世界面(アストラル・サイド)から現れただろうカマイタチが攻撃を仕掛けた。


「……勘がいいね」


面白そうに、は笑った。
そして、それを待っていたかのように結構な距離を開けて虚空から姿を現したゼロスはリナ達を地面に落とした。


!!あんた、ゼロスが好きだったんじゃないの!?」


「あはははは 好きだよ?もちろん、好きに決まってるじゃないか
 でも、それ以上に憎くもある……私を滅ぼそうとした……私の食事を邪魔しようとした……」


リナの問い掛けに、は大きく笑った。
がゼロスを好きだと思っている事実を、ゼロスはこんな無残な方法で知らされるのだった。
そして、その受け答えで全員は把握した。
今、目の前にいるのはあの時対峙した魔族と、ずっと共にいたのどちらでもあるのだと。
だからという名にも反応を示し、どちらの記憶も心も兼ね備えている。



こんな苦しい気持ち……魔族にはいらないものなんだよ
自分を滅ぼすキッカケになりかねない感情なんて……不必要
だから、私は殺す……滅ぼす、すべてを



瞳を鋭く細め、リナ達をにらみつけた。


さん……僕は、あなたと争いたくはありませんっ」


「何を馬鹿なことを 私はあんたを滅ぼそうとしているんだよ?
 それとも、私があんたを好いているから手を出せないと?」


「…………」


ゼロスの、魔族らしからぬ発言には顔を歪めた。
気分が悪そうに、気持ち悪そうに、嫌悪するように。


「ああ、反吐が出る 魔族に、こんな感情なんて必要ないんだよ」


そういうと同時に、ゼロスに向けて精神世界面(アストラル・サイド)からのカマイタチの攻撃を仕掛けた。
それをゼロスはすばやく避け、同じく精神世界面(アストラル・サイド)から錐で攻撃を打ち消した。


「……どうしても、僕を滅ぼすおつもりなんですね?」


「もちろん」


「……僕も、そうやすやすと滅ぼされるワケにいかないんですよ
 獣王(グレーター・ビースト)様の下でやらなければならない事もありますし」


肩をすくめ、大きくゼロスは溜め息を吐いた。
は何を言われても、考えを改めてくれる様子を見せなかったから。


「でしたら……僕も、手を抜くことは出来ません」


改心してくれないのなら、滅ぼすしかない。
共に歩んでもらえないのなら、倒すしかない。
ゼロスはそう思った。


「ゼロス、本当にそれでっ!?」


「いいんですよ、リナさん これが……僕ら魔族の本質です」


負の感情を糧として生きる魔族にとって、正となる感情は不必要。
呟くと同時に、ゼロスも冷たい色を瞳に宿した。


「ようやくその気になってくれて嬉しいよ あの時見たいに、そう簡単に倒されはしないからね」


そういうと、は指をゼロスに向けた。
次の瞬間、ゼロスに向けて魔力の氷が放たれた。











to be continued..........................




思い出したのと同時に、ゼロスの予想が外れていたことが判明w
って、分かってた人も居ますかねぇ……やっぱり。(笑)






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