「そんな攻撃で、僕を倒せるとお思いですか?」


「そんなわけないでしょう?今のは、ただの挨拶程度なもんさ」


肩をすくめ、苦笑を浮かべた。
腹心の次に強いと言われる程の実力を持つゼロスを相手に、生半可な攻撃ですむとは到底思えるはずもない。


「それに、私は魔法なんざ使うよりも……」


そう呟くと、はにやりと笑みを浮かべた。
口元を歪め、胸を張り、不敵に笑う。


「私達本来の姿で戦ったほうが、決着は早いかと思うんだよね」


くつくつと、喉の奥を鳴らすように笑った。
魔法なんて、所詮魔道士が使うもの。
魔族はその存在自体が武器ともなるのだから。











RECOLLECT 第二十三話











「ほら、どんどん避けないと怪我するよ」


楽しげに笑いながらも、精神世界面(アストラル・サイド)からカマイタチを出現させる。
の本体ともいえるものは、ゼロスやリナ達に襲い掛かっていた。


「くっ」


苦しげな声を上げながら、リナは必死に避けたり防御結界を張ったり魔法で相殺させたりしていた。
それでも、身体のあちこちにカマイタチは掠り、小さな傷をつけていた。


「つまらないもんだね」


ハァと大きく溜め息をつくと、肩をすくめ攻撃の手をやめた。


?」


さん?」


突如止まった攻撃に、リナもゼロスも不思議そうな表情を浮かべた。


「ははっ 駄目だよ、ゼロス?私が攻撃の手を休めても、倒すと決めたなら今の隙を突かなくちゃ
 リナも 私はあの魔族だよ?いいの?倒さなくて」


くすくすと余裕の笑みを見せる
初めて対峙した時の余裕のなさが、まるで嘘のようだ。


「確かに、はあの時の魔族かもしれないわ だけど、あなたはあたし達の仲間でもあって……」


「どうやら、リナはとんだ甘ちゃんだったみたいだね」


リナの言葉に、は肩をすくめた。
倒さなきゃいけないと思っていた魔族を目の前にしても、今まで培ってきた絆を壊すことが出来ずにいる。
はあっさりと、リナ達に攻撃を仕掛けられたというのに。


「そんな甘い考えだと、死ぬよ?」


「…………」


の言葉にリナは何も返せず無言になった。
動くことも、呪文の詠唱をするわけでもない。


「……ふん なら、お望みどおり……殺してあげる」


ス、とはその指先をリナに向けた。
けれど、精神世界面(アストラル・サイド)からカマイタチは現れない。


?」


なぜ、攻撃を仕掛けてこないのかとリナは首をかしげた。


「……迷っているんですね?」


「……っ」


そのリナの疑問に答えるべく、ゼロスがへと尋ねた。
その言葉は図星だったようで、は言葉を詰まらせた。
違うと言いたいのに、唇は上下ともに張り付いて開いてくれない。


「ま、迷うわけがない!!私はっ……私、はっ!!」


必死に否定する。
けれど、その叫ぶような否定は『迷っている』と肯定してしまっているようでもあった。


「僕相手なら、そう簡単に倒せるはずも滅ぼせるはずもないと分かっているから攻撃を仕掛けられる」


「──っ」


「ですが、リナさん達相手には本気の攻撃をしていませんでしたね?
 それは人間であるリナさん達に本気の攻撃を仕掛ければ、簡単に殺してしまうからではないですか?」



……図星だ



ゼロスの指摘に、心の中でそう言った。
憎いと思う反面、大切だと思う感情が確かに芽生えていた。
『殺さない程度』の攻撃ならば、仕掛けることが出来るのは魔族だから。
けれど、『殺してしまう程』の攻撃を仕掛けられないのは、そばに居すぎたからか。


「…………」


「図星、のようですね」


無言のに、ゼロスはそう言いきった。
閉じられていた瞳は、いまや開かれていてを真っ直ぐ見つめていた。


「はっ まるで『を視ることゼロスに如かず』みたいだね」


ことわざの一つをとゼロスに置き換えて呟いた


「『子を視ること親に如かず』ではなくですか?」


「私はゼロスの子供じゃないし、ゼロスだって私の親じゃあないでしょう?」


突っ込みを入れたゼロスに、は当然といわんばかりに答えた。


「でも……まだまだ甘いね、ゼロスは」


ふんっ、と鼻を鳴らし笑った。



そう……ゼロスは私の事なんて分かっちゃいない



腕を組み、苦笑を浮かべた。


「どういう意味ですか?」


「確かに、私はゼロスやリナ達を『本気で殺そう』と攻撃を仕掛けられずにいた事は認めるよ」


ゼロスの問い掛けには頷いた。
それを認めざるを得なかった。
だって、ゼロスに完全にバレていたから。
それはたぶん、一度本気でぶつかり合ったことがあるからだろう。



……だから、分かる
ゼロスだって、私に本気で攻撃を仕掛けていないことくらい



「ゼロスだって、私に『本気で殺そう』と攻撃を仕掛けてはいないね?」


の問い掛けにゼロスは無言だった。
けれど、その沈黙は肯定を意味しているものだとは認識した。


「私達は、言葉では『倒す』『滅ぼす』と言ってきた でも、心の底では……」



本当に倒すことも滅ぼすことも出来ずにいる



愛しいという感情を知ってしまったが故に、抜け出せなくなっていた。
ならば、決着をつけられる方法は一つしかない。


「……まさか!ゼロス、を止めろ!」


ハッと気付いたゼルガディスが、リナよりもいち早くゼロスに向かって叫んでいた。


「……遅いよ」


呟き、は微かに笑った。
その笑みを、ゼロスは一瞬『笑ったように』見え、けれどすぐにその笑みが何を意味するか理解した。


「さあ……急転直下だよ」


そんなの言葉は、精神世界面(アストラル・サイド)から突如現れたカマイタチによってかき消された。
の立っていた空間に、数多のカマイタチが嵐の雨のように降り注ぐ。


──!!!」


さん!!」


その場所に手を伸ばし、必死に名前を呼ぶリナとアメリア。
駆け出しそうな二人を、ガウリイとゼルガディスが羽交い絞めにして制止させた。
その場に、の姿も見えなければゼロスの姿もありはしなかった。












to be continued.................




戦うといっても、きっと心のどこかで手を緩めさせてしまうんじゃないかと思ったので。
好きという気持ちは、きっとそう簡単には変わらないでしょうね。






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