夢の中のような浮遊感。
現にいるような存在感。
は、真っ暗な闇の中をただひたすら漂っていた。



私は……滅びるの?



問いの答えは──……出なかった。












RECOLLECT 第二十四話












上も下も、右も左も分からない空間に、は一人でいた。
ここから滅びへ向かうのだとすると、何とも虚しい空間だった。



本当に……何もない、真っ暗な場所



下を向いたと思ったら、上を向いているような感覚。
右を向いたと思ったら、左を向いているような感覚。
広がる闇が、まるでを飲み込んでいるかのようだ。



このまま、闇に溶け込むように……滅びるのかな?



滅びに、心は穏やかなままだった。
まるで他人事のように感じてしまう。


「最後くらい……素直になっておけばよかったのかな」


先ほどまで、リナやゼロス達と対峙していたと違って落ち着きを取り戻していた。
それは、記憶を失ってから共に旅をしてきたときののよう。


さん」


聞こえた声に、ゆらりと視線が揺らいでしまう。



違う……そんな事、あるはずがない
こんなところにゼロスがいるはずなんて……



必死に、首を振りながらは否定した。
この闇の中に、滅びへ向かうのだろうこの場所にゼロスがいるはずもないと。


さん」



ありえないって思ってるから、こんな幻聴を聞くんだ



"本物だ"と認識しようとしないは、静かに瞳を閉じた。
暗闇から暗闇へと視界が移ろう。
変わっていないようで、変わった景色。
同じ黒なのに、闇と光のない暗闇は違って感じていた。


さん、目を開けてください」


声だけが聞こえ、けれどはその声に答えなかった。
頑なに。
けれど、声に反応はしていた。



どうして……ゼロスの声が聞こえるんだろう……
そんなに……私はゼロスのことを?



惹かれていた。
それは確かなことだった。
嘘とも、本当とも言えない感情。
けれど確かに、心は向かっていた。


さん……」


「……んぅ?」


熱のこもった呼び方に、眉を潜めた。
けれど、次の瞬間唇に感じた暖かな温もりには目を見開いた。
先ほどの闇とは違う不思議な空間。
けれど、上も下も、右も左も分からないのは同じだった。


「……っ」


強く吸われる唇に、瞳を強く閉じた。
どくんどくんと脈打つ鼓動は、緊張の印。


「ようやく……目を開けてくれましたねぇ」


ホッと一息吐くゼロス。
唇を開放されたはようやくまた、瞳を開いた。


「どうして……ゼロスがここに?」


「どうしてとは?ここは精神世界面(アストラル・サイド)ですから」


の問い掛けに一瞬きょとんとした。
けれど、すぐにハハッと笑いを零すとゼロスは言い切った。
精神世界面(アストラル・サイド)ならば、ゼロスが居る理由は納得がいく。



じゃあ、さっきまで私が見ていたのは……夢?



暗闇の中、溶けていくんじゃないかと感じたのはただの夢だったのか。
それとも、起こされる直前まで本当にそこに居たのではないか。
身体に残る感覚が、そうだと言っているようだったから。


「私は……どうなったの?」


それが、の一番問いかけたい内容だった。
あのカマイタチの攻撃から、今のこの現状をはすぐには理解できない。



だって……私、死んだと思ってたから



だからこそ、把握しなくてはいけないという衝動に駆られたのだろう。


「相当、ダメージを受けていますよ だからこそ、精神世界面(アストラル・サイド)で休息が必要なんです」


その言葉に、目を見開いた。
つまりは、滅びるに至るようなダメージは受けていないという事だ。


「私は……滅びない?」


「ええ、そうですよ?」


「……なんで」


「え?」


ゼロスの答えに、はポツリと呟いた。



なんで、滅びない?
なんで、消えない?
なんで……私は……

存在、している?



争うのが嫌だから、ゼロスやリナ達の命を奪うのが嫌だったから。
だからこそ、は自らの生涯を閉じようとした。
と言っても、魔族のはただ無に帰るだけなのだが。


「……さんは、滅びたかったんですか?」


ゼロスの問い掛けに答えられない。
珍しく開かれた瞳をジッと見つめ、けれど閉じられた唇は動かなかった。



私は……滅びたかった?

──滅びたかった

本当に?

──……本当、に
本当に……私は、滅びたかった

滅びたかった?



自問自答なんて意味のないことだと分かってる。
ただ、自分の気持ちに向き合うだけ。
ただ、自分の気持ちを把握するだけ。
だけど、答えが、気持ちが、自分の中で出ていなかったら無意味な行為だ。


「……分からない」


だから、はそう答えるしかなかった。


「回復するには、もう少し時間がかかります 今はゆっくり休息してください」


ふわりと、髪を撫でるゼロスの手。
その手が心地よくて、は瞳を細めた。
そして、そのまま意識はまどろみの中へと落ちていった。













私は……どうしたかったのかな?
私は、本当にゼロスやリナ達を殺したかった?滅ぼしたかった?

ううん、そんな事はないと思う

魔族である私だけだったなら、話は別だとしても……
私の中には、"魔族ではない私"がゼロスやリナ達と付き合った記憶がある

その記憶がある限り、たぶん、あの人達を殺そうと、滅ぼそうと思えない

なら、私は……本当に滅びたかったのかな?
たぶん、その気持ちに偽りはないと思う

でも、滅びるには少し……みんなと仲良くし過ぎた
魔族なのに持ってしまった情は、苦しくて……

でも、心地よい

苦しみの中から抜け出したかった
でも、みんなと会えなくなるのは──……嫌だと、私の奥の方で悲鳴があがる

リナにとっても、ゼロスにとっても、みんなにとって……私は仇
でも、私にとっても……みんなは憎むべき敵(かたき)

だけど……だけ、ど……



考えの纏まらない思い。
まどろみの中に漂うの、無意識な自問自答が、ただ何度も何度も繰り返された。











to be continued......................









なるべく、心情を入れるように心がけてみた。
三人称でも、主人公は読み手になるわけだから……入り込めるように書きたいなって。
でも、難しいね……考えが纏まらない。
たぶん、それは主人公自身も同じだからだと思うけど。






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