ゼロス、ゼロスゼロスゼロスゼロスゼロスッ!!!



心の中で、必死に名前を呼んだ。
掴もうとしても、つかめない姿。
伸ばそうとしても、伸ばせない手。



嫌だ嫌だ嫌だ嫌だッ!!!



何が嫌なのかも分からずに、必死にもがく
手を伸ばして、宙を掴んで、必死に名前を呼ぶ。



──何が、嫌?



その問いの回答を、は持っていなかった。









RECOLLECT 第二十五話









「ゼロス」


「はい?」


精神世界面(アストラル・サイド)から戻ってきたゼロスを呼んだのは、聞きなれた声だった。
振り返ると、そこには真面目な、そしてどこか心配そうな表情を浮かべたリナが居た。


は……どうなったの?」


「今は、精神世界面(アストラル・サイド)で休息しています」


その言葉を聞きくと、リナの表情が一気に変わった。
分かったのだろう、今のの状況が。


「危うい……って事?」


「まぁ、人間風に言ってしまえばそういう感じですねぇ」


それでも、魔族は人ほどか弱くはない。
下手をしなければ、きちんと回復させれば元に戻る。
ゼロスだって、あのガーヴとの戦いの時に受けた傷も今は癒えているのだから。


さんは、元に戻るんですか?」


アメリアの問い掛けは、たぶん誰もがしたかったものだろう。
今、リナ達の前に姿をあらわしたゼロスでさえも、きっと"元に戻る"と誰かに言ってもらいたいだろう。


「……大丈夫ですよ、アメリアさん」


だから、そう笑顔で微笑んで答えをはぐらかすしか出来ない。
すべては、今休息をしている次第なのだから。











「……つぅ」


声が漏れ、は瞳を開いた。
ぷかぷかと精神世界面(アストラル・サイド)で浮かぶ身体。
その身体は傷だらけで疲れきっていて、今無理にでも行動すればすべてが消滅するんじゃないかと思えてしまった。



私は……このまま生きていていいのかな?



ここで自身が消滅してしまえば、きっと変ないざこざを起こさなくてすむと思ったのだろう。
争う理由だって、生きている理由だって、何もなくなる。



ここは精神世界面(アストラル・サイド)……
自分の力の源



ここでなら、きっと思う存分に消滅することが出来るのだろう。
は延々と続く、先の見えない精神世界面(アストラル・サイド)を見つめていた。


さん?」


「っ!?ゼッ、ゼロス!?」


そんな、『やましい』と思える内容を考えていたからか。
ゼロスの声に、突然の訪れに、驚きの声を上げてしまった。


「何をそんなに驚いているんですか」


くすくすと笑いながら、傷を負い宙に浮き漂っているにゼロスは近づいた。


「近づかないで」



お願いだから……
私の決意をドンドン鈍らせないで



近づくゼロスに待ったを掛けた。
滅ぶつもりで、自分自身にカマイタチを放った
けれど、その決意はいまやドンドン鈍らせられていた。
滅んでいいのかと。
決意はドンドン闇の中へと消えていっていた。


「……さん、僕はあなたを気に入っています」


ゼロスの言葉を聞いても、は何も言葉を発さなかった。
否、発せなかった。
言葉を発せば、きっと『好きだ』と叫んでしまうだろう。



私は、この感情を口に出せないよ……
確実に、決意が消えてしまう



滅ぶためには否定しなければいけない思い。
それが出来なくても、言葉にせずゼロスに伝えないようにしなければならない思いだった。


「あなたも、同じですよね?」


同意を求めるゼロスの言葉に『うん』と頷きたくなる
けれど、必死に言葉を飲み込んで首を横に振った。
それは違うという言葉を意味する行動。


「なぜですか?」


その問いにさえも、は頑なに唇を閉じていた。
イライラするゼロスの気がには伝わってくる。



それでも……私は、言えない
ゼロスのことが『好き』だって、言えない



頑なな思い。
好きなのに言えない思い。
もどかしく、辛く、苛立たせる、決意。


「『好き』だと言ってくれた言葉は、嘘だったんですか?」


ゼロスの真剣で、そして怖いくらいに低い声。
ビクリと肩が揺れてしまった。


好きだよ?もちろん、好きに決まってるじゃないか


思い出す、言葉。
確かに言った、の言葉。



嘘じゃない、嘘なわけ、ないっ!!!



そう叫びたいのに、言えないもどかしさに、の拳は握り締められた。
ふるふると振るえ、唇を強く噛み締める。



どうして、そんなに責めるの?
どうして……信じてくれないの?
どうして……分からない?この……この苦しい気持ちが



言わなきゃ分からないのに、分かってほしいと思ってしまう矛盾。
苦しくて苦しくて、今にも闇に沈んでしまいそう。


「僕を、こんなに惑わせて、何が楽しいですか?
 魔族の僕から、負の感情を食べることが……」


開かれたゼロスの瞳は、鋭く光を放っていた。
獲物を逃がすまいと、を射抜く瞳。
その瞳を見つめていたら、は動けなくなっていた。
近づいてくるゼロスから、距離を取ることは叶わない。
だって、ここは精神世界面(アストラル・サイド)だから。


「そんなに至福ですか?」


低く、囁く声。
ゼロスの腕がの腕を掴んだ。
ダメージを受けているは、強く拒むことが出来ないとわかっていての行動だった。



私の目の前に居るのは誰?
こんな怖いゼロスを……私は見たことがない……



こうしてしまったのは、自分だと分かっている
それなのに、目の前にいる怖いゼロスを偽者だと思いたい自分も居た。
魔族の本性に、キリリと胸が痛む。


「んぅっ……」


突如ふさがれた唇。
声を漏らし、身体が震えた。



嫌、嫌だっ!!!



そう思った瞬間。

ガリ……

ゼロスの唇をかじっていた。
離れた唇。
ゼロスを見つめると、そこには。


「そんなに……僕が嫌いですか」


怖いほどに魔族らしい表情を浮かべるゼロス。
目はいつものように笑っていてくれなくて。
に口付けていた唇から、精神体が多少漏れていた。
人ではないからこそ出ない血の代わり、その身体のうちにある精神体が出てくるのだ。
その漏れを拭うように、ペロリと舌で舐めとり、怖い笑みを浮かべる。


「ゼロ、ス……」


ゾクリと、背筋に何かが走る。
逃げ出したくても、逃げ出せない。
助けてほしくても、誰も居ない。

ここには、ゼロスとの二人だけ。


「僕は、こんなにもあなたを──……」


その言葉と同時に、ゼロスはの腕を強く掴み引き寄せた。
強く強く、唇同士が触れ合った。










to be continued...................







強引ゼロス、降臨w
ちょっと、こういうゼロスも好きかもしんないw






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