愛しい人のぬくもりを間近に感じる
その手の温もりが、その手の感触が、私を奮い立たせる

大好き

愛してる

そんな言葉じゃ表しきれないほど、私はあなたに没頭してる

         ゼロス

魔族の私達がこんな感情を抱くことは、おかしいって分かってる
今まで、こんな事例なんてなかったから

何が

    起こるのか

            分かるはずも




       な       い










RECOLLECT 第二十七話










!!」


ようやく回復した身体。
精神世界面(アストラル・サイド)から脱出したは、すぐにリナに会いに行った。


「リナ!」


再会出来たことが嬉しかったは、そのまま駆け寄り勢い良く抱きついていた。
戦うはずだった相手。
倒すべきだった相手。
命を──奪う予定だった相手。


「ごめん、リナ 心配掛けて……騙してて……っ」


震える声で謝罪の言葉を紡いだ。
ずっと、戦わなければいけないと思っていた。
だからこそ、記憶を取り戻した後──冷たい態度を取ってしまった。
刃を、向けてしまった。


「正直、の正体には驚いたわよ でも、仕方ないでしょ、覚えていなかったんだから」


笑って頭を撫でて、しゃくり上げるを落ち着かせようとした。
温かい温もりが、大切な温もりが、失われずにそこにある。



この温もりを、消そうとしてたんだ……私は
ずっと……自分の事ばかり考えて、名声ばかりを考えて……命を狙ってしまった
リナの……大切な友人の命さえも──……躊躇なく



思い出したは、その記憶に心を揺らした。
忘れてはいけなかった。
覚えていなければならなかった。
けれど、忘れてしまった。

それは、きっと。



生粋の、魔族としての感情しかなかったあの頃の私には──……些細なことだったんだ……
人間の、命の短い生き物の一つが無くなっただけだと……



だからこそ、忘れてしまえた。
だからこそ、思い出そうともしなかった。



でも、今は違う……分かる、凄く
大切なものを失うことの辛さが、恐怖が、悲しみが……



記憶を失った事で、失ったものもある。
けれど、手に入れたものも、分かったこともある。
プラスマイナスゼロなんかじゃなかった。

これは、きっとにとってプラスとなっている。


「私……記憶を失ってよかった」


?」


「じゃなきゃ……リナの、こんな内面を知ることもなかった
 こんな、大切な感情を知ることもなかった 魔族としての顔しか持たず、つまらない人生を歩んでいたかもしれないっ」


魔族でも感情は持っている。
それでも、人間のような多方面の感情はないかもしれない。

負の、陰陽の陰に属する──そんな暗い感情しか。


「なんだか、リナさんに惚れこんじゃってるように見えますよ」


「確かにそう見えるな」


アメリアの笑い声、ゼルガディスの同意の言葉。
そして、リナの隣ではコクコクと頷くガウリイの姿。


「リナの人間性は好きだよ?もちろん」


ふわりと笑って、言葉を肯定した。
けれど、その好きは"ライク"であって"ラブ"ではない。


「でも、リナさんには渡しませんよ」


「ゼロスから奪えるとは思えないわね」


シュンッと姿を現したゼロス。
を抱き寄せ、頬に口付けて笑った。
その様子に、勝てるはずもないと手をパタパタとリナは振った。

もとから、奪うつもりもなかったのだけれど。


「ゼ、ゼロスッ」


「少し目を離すと、こうやってリナさんを惑わすんですから」


「惑わしてなんかないよっ」


人聞きの悪いことを言わないで。
そんな風には言葉を発した。
同じ同性として好けるけれど、それ以上ではない。


「私は一番大切に思っているのはゼロスだよ 滅ぼしたいくらいに、大好き」


「おや 滅ぼされては困りますねぇ」


ははは、となんだか魔族ならではの空気が流れる。
その様子に、リナも他のみんなも苦笑いを浮かべていた。

さすが、二人は魔族なんだなと再確認するかのように。


「で、は何でまた記憶を失っていた頃の姿をしているの?」


記憶を取り戻したあと、は元の姿へと変わっていた。
髪が伸び、リナもゼロスも見覚えのある姿へとなっていた。
なのに、今はリナ達と初めて会ったころの──あの短い髪型へと変わっていた。


「ん?なんかね……一番ゼロスと心を通わせたのはこの姿の時だったし」


瞳を細め呟く姿は、恋する乙女そのもの。
その中身の黒さを見なければ、きっと可愛らしいものだろう。


「ま、当人たちがそれでいいならいいんじゃないかー?」


「ガウリイ……考えて言ってる?」


さらりと言い切るガウリイに、リナは引きつった笑みを浮かべた。
けれど、その言葉にガウリイは頷いた。


「姿なんてどうせ関係ないんだろ?」


「まあ、そうですねぇ 結局言うと、僕らも意図的に人の姿を取ってるわけですからね」


ガウリイの問い掛けにゼロスはこくんと頷いた。
だから、の意識で髪の長さは自由自在。


「ま、いいならいいわ それじゃ、私達はそろそろ行くわ」


「ええ では、さん 僕達も行くとしましょうか」


リナの言葉に呼応するようにゼロスも呟き、に手を差し伸べた。
その手をはゆっくりと握り締める。


「……元気で、リナ」


「ええ、もね」


きっと、会うことはないだろう。
人間と魔族。
相容れない存在同士。


「……幸せにね」


「──っ!……うん」


消える直前聞こえたリナの呟きに、息を呑む。
けれど振り返らなかった。
背を向け、虚空に姿を消しながら──は頷く声だけを、そこへ置いていった。








大丈夫……もう、大丈夫
私は決めたから、そばにいるって

何が起きても離れない
どんなことでも乗り越えてみせる

私は、一生ゼロスのそばで──……










.........................end





長い間、ご愛読いただきありがとうございました。m(_ _)m
最後はハッピーエンドにしたく、こんな感じに締めくくらせていただきました。
話の中で、何度か挫折しそうにもなりましたし……話の流れに困ったこともありました。
けれど、こうして完結することができ、本当に嬉しく思います。
これも、応援してくださった方や読んでくださった方のおかげです。

そして、最後に……実は何度か裏を入れたいなぁ〜と思ったことがありました。(笑)
結局いれずじまいでしたが……(^ ^;)

それでは、本当に最後までお読みいただきありがとうございました。
少しでも、何か心に残るものがあればいいなと思います。






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