ザアアアアアアア……

煩い雨の音は、一向に止む気配を見せなかった。
部屋の窓から見える外の景色は暗く、灰色の雲に覆われた重々しいものだった。


「……止みませんね」


「そうだな」


アメリアの呟きに、ガウリイもポツリと返事を返した。
誰もが止む事を望み、窓の外の景色へとその瞳を向けた。














RECOLLECT 第五話














トントントン

ドアのノックする音が響いた。
その主は、この家の主以外には考えられず。


「はい」


アメリアがドアの方に視線を向け、声を上げた。
その声を待っていたかのように、ゆっくりと扉が開いた。


「お風呂……いかがしますか?雨に打たれたのでしたら、温まった方がよいかと思いますが……」


「いいのか?」


女性──レイと言うらしい──は首をかしげ問い掛けるが、その言葉にゼルガディスが再度確認するように問い返した。
一晩泊まらせてもらう身であるが故、やはり遠慮が出てくるのだ。


「ええ、構いませんわ お泊めすると決めたのはわたくしですから、お気にせずに……」


「じゃぁ……言葉に甘えさせて貰おうかしら」


「そうですね」


「うん 凄く有り難いよ」


レイの言葉にリナがまず乗り気に声を上げた。
まるでその言葉に呼応するかのように、アメリアとが同意の声を上げた。
その表情はとても満足そう。


「では、まずは女性陣をご案内致しますわね こちらです」


にこりと微笑み、レイは達に背を向けた。
風呂場へと案内するように。


「はーい」


嬉しそうにアメリアは立ち上がり、レイの後を追った。
広くもなく狭くもない家の廊下を只管歩き、辿りついた。


「ここですわ」


そこまで歩く事はなかった。
といっても、それでも多少ながらも距離はあった。


「ありがとう それじゃ、さっそく入らせてもらおっか」


「そうだね あー……早く暖まりたいよ!」


楽しげに和気あいあいと脱衣所へと足を向ける達に、レイは笑顔を向けた。


「ごゆっくり」


そう言葉を残すと、レイはゆっくりと風呂場を後にした。


「……うっわー」


「どうしたの?」


声を上げたに、タオル一枚を纏ったリナが近づいてきた。


「見てよ……凄いよ」


「何ですか?」


脱衣所から浴場へと指をさす
その指先を追うようにリナとアメリアの視線が移動する。


「「……ひ、広い」」


結構な広さを持つ浴場を目の前に、リナとアメリアは感嘆の声を上げた。
室内なのに岩など、露天風呂らしきものがいろいろとあった。


「入ろう入ろう!」


「そんなに慌てなくても、お風呂は逃げないわよ」


「ですが、やっぱり早く堪能したいじゃないですか!行きましょう、さん!」


「うん!」


慌てるに苦笑するリナだが、の言葉にアメリアは賛成だった。
の手を引っ張り、身を包むタオルが外れないように片手で押さえながら浴場へと駆けだした。

ザバッ

かけ湯をしてから、洗い場で身体や頭を洗った三人。
時折洗い合ったり、お湯をかけ合ったりと遊んだりしたが全てを終えるとそそくさと湯へと向かった。

チャポン……

静かにお湯が揺れ、その度に音が鳴った。


「結構いい湯ですね」


「うん 身体の芯まで暖まるっていうか……あー、気持ちいい」


アメリアの言葉に、湯にたっぷりと浸かりながらは頷いた。
伸ばした足が浮遊感を感じながら、浮く。


「ねぇ、


「うん?」


突如掛けられたリナの声に、は視線を向けた。
軽く首を傾げると、セミロングヘアの髪がユラリと流れる。


「何か……思い出したりはした?」


「何か……って?」


リナの問い掛けには首を傾げた。
問い掛ける雰囲気から、何か尋常じゃない物を感じたから。


「────……例えば、知り合いの事とか、自分の家族構成だとか……記憶を失う直前の事とか」


「────!リナさん……」


リナの言葉から何を問おうとしているのか、アメリアはすぐに気が付いた。
しかし、は何の事か分からず首を傾げる。


「……特には」


軽くふるふると首を振り、はそう答えた。
本当に、何も覚えていないのだ。
思い出したくても、何も分からない。


「……そっか それじゃ仕方ないわね」


肩を竦め、少し残念そうに見えるリナ。



残念なのは……私の方だよ……
私だって……私だって、誰よりも自分の事を知りたいんだからっ



悔しいのは、苦しいのはリナだけではなく忘れてしまってる当の本人もそうなのだ。
申し訳なさそうに俯きながら、どこか悔しげな表情を浮かべていた。











「……リナ、アメリア」


「何?」


「どうかしましたか?」


部屋へ向かう廊下を歩いていたが、いきなり二人を呼びとめた。
その事にリナとアメリアは顔を見合わせ、立ち止まり振り返ると首を傾げた。


「────……少し、外の空気吸ってきたいんだ だから、先に戻ってて?」


「分かったわ でも、早めに帰ってきてね?湯冷めしちゃうから」


「うん」


そう言葉を交わし合うと、はリナとアメリアとは逆の方向に歩きだした。
今だ涙を流し続ける雲で覆われた空を見上げ、夜も更け始める時刻に涼しげな雨音の耐えない外へ。


「アメリア」


「はい?」


「部屋に戻ったら、ガウリイとゼル達と話すわよ」


「え?」


ただ只管に、部屋に戻る足取りを速めるだけで疑問の声にリナは何も答えなかった。
そうすれば、部屋に辿り着くのは幾分か早くて。

ガラッ

リナは部屋のドアを開き、その先に広がる光景に瞳を細めた。


「そろそろ来るころだと思ってたわ」


「おやおや リナさんにはお見通しでしたか」


部屋には、椅子に座りニコニコと微笑むゼロスの姿があった。
肩を竦め、やっぱりとリナは表情に現す。


さんはどうしたんですか?ご一緒だったはずじゃ……?」


さんでしたら今、外の空気を吸いに行ってますよ」


その言葉に、ゼロスは少しだけ首を傾げた。
考えるような素振りを見せ、ニコ目を全員に向ける。


「他の方が全員ここに居るという事は、さん一人で────……という事ですよね?」


ゼロスの問い掛けに、代表してゼルガディスが頷いた。


「だろうな 一緒に風呂に言ったリナとアメリアが戻ってきているんだからな」


そう付け加えるように、理由を述べた。


が外に言ってる間に話そうと思って……」


その言葉に、ゼロスも他のみんなも口を閉じた。
ジッとリナを見つめ、言葉を待つ。


の事だけど……やっぱり、疑いは晴れないわ
 家族構成だとか、知り合いだとか、記憶を失う直前までの事とか……思い出したり、覚えたりしてたら……」


「疑いはだいぶ薄れますね」


リナの言葉にゼロスがそう思考を巡らせた。
そして、それはリナが言いたかった言葉でもあり静かに頷いた。


「だが、何も覚えていないんだろう?名前すらも……」


「そういう話だったな」


「そして、私達は戦ったあの魔族の名前すらも知りません」


が何かを少しでも覚えていれば前進するものもあったはずだ。
もしも、魔族の名前を知っていればの胸に書かれた名前を見て"疑問を抱いた"かもしれない。
けれど、魔族の名前を知らない今、の胸に書かれた名前を見て"疑問を抱く"事は出来ない。


「……さんは、私達がこうやって疑ってる事を知らないんですよね」


「アメリア これは私達の命にかかわる問題よ」


少しだけが可愛そうに思えたアメリア。
呟かれた言葉に、リナが疑う事を覚えよと口を挟んだ。


「そうだな 疑いが晴れない以上、疑ってしまうのは仕方あるまい」


「俺もそう思うぞ」


ゼルガディスの言葉にガウリイも頷き同意した。
疑いがなければ、こういう事にはならなかった。
けれど、疑いがあるのだから疑いが生まれるのは必至なのだ。


「もう暫く、様子を見る事になりそうですね」


「ええ、そうね」


ゼロスの言葉に、リナが頷き返した。













「止めてええええええええええええええ!」


そう叫ぶのは、誰だっただろうか。
涙を零し、必死に手を伸ばしている。
その先には、髪の長い女性と真っ赤な血を流す女が居た。


「そうだ、そうだ!負の感情をまき散らせ!!」


女の首を掴み持ち上げる女性は、ニヤリと楽しげな笑みを零す。
女性の手の中で、女は苦しみもがき手足をジタバタさせていた。

女性は魔族。
かなりの実力、力を持つ、高位魔族だった。









to be continued............




疑惑、疑問、そんな物にちょこっとスポットを当ててみた。
そして最後は、意味深(?)な感じの話で次回に続く!だ!






RECOLLECTに戻る