「泣き叫ぶがいい!!そうして悲しめば、私には十分な食事だ!」


楽しげに笑う声に、栗色の髪の少女はキッと睨みを利かす。
長い髪を鬱陶しげにかき上げながら、女魔族は栗色の髪の少女を見つめる。


「リナ=インバース 私はあなたの命が欲しい」


「なら、その子は関係ないじゃない!!」


リナの悲痛な叫びに、女魔族はペロリと舌で唇を舐めた。
瞳は楽しげな色を映し、手の中でもがくリナの女友達の首を強く締めた。


「ぐっ」


「やめて!!!」


「嫌だ やめたらあなたの負の感情が食べられないじゃないか」


くっくっく、と笑い声だけが響いて聞こえた。


「こいつを殺し、あんたの負の感情を十分に食べたら……リナ=インバースも、こいつと同じ場所にいかせてあげるよ」


「やめてえええええええええええええええええええええ!!!」










RECOLLECT 第六話










「「!!!」」


大汗を掻き、リナとは同時に布団から飛び起きた。
荒い息を肩でしながら、互いが互いを見つめた。


「……何、今の夢……」


「……思い出したくもない夢を今頃見るなんて……」


とリナはそれぞれの思った事を口にした。
は全く夢の内容に心当たりなどなく、一方リナは心当たりのある夢だったようだ。


「……少し、頭冷やしてくる」


「外へ行くの?」


「うん 雨も止んでるみたいだし……」


に首をかしげ問い掛けるリナ。
耳を済ませれば、の言うとおり雨は止んでいるようで雨音は聞こえなくなっていた。


「それなら……あたしも行くわ」


「……うん」


夢見が悪かったせいか、口数の少ないとリナ。
互いが互いを見つめ頷き、布団の外へと滑り出た。


「…………」


「……リナ、いったい何の夢を見たの?凄い……顔色悪いよ?」


部屋を出て長い廊下を歩く最中、は無言のリナに問い掛けた。
雲に隠れた月明かりだからか、それとも夜中という暗闇だからか、リナの顔色はハッキリとは見えなかった。
それでも、かすかに顔色が悪いんじゃないかと思えるくらいには見えた。


「……あなたに出会うちょっと前の話よ」


一年や半年そこらなどではなく、本当にちょっと前の話だった。
思い出すのも嫌な、真っ赤な血の惨劇のように思えてならない。


「……は関係ないんだから、聞かなくていい事よ」


一度口にしたが、すぐに首を左右に振った。
ちょっと前の話、という触りだけできっと十分だろう。

もし、が張本人だったならば覚えているはず、分かるはずだから。
分からなければ分からないに越したことのない、以外のリナ達一行の昔話。


「……そう」


こそ、何の夢をみたの?凄い飛び起きようだったけど……」


相槌を打ったに問い掛けるのは、今度はリナの番だった。
軽く首をかしげると、丁度外へ出れる場所へと到着した。
窓をあけ、そこから外へと姿を出す。

雲に覆われ微かに零れる月明かりが、微妙に眩しく見えた。


「……よく、分からない夢だったよ 私の全く知らない……変な夢」


「どんな夢だったか、聞いてもいい?」


雲から微かに覗く月を見上げ、は答えた。
その言葉に、リナは眉をひそめ問い掛けた。


「……どんな夢って言われても……非情な悲しい夢としか……言えないかな
 微かにしか、覚えてないんだ……夢の内容」


「そっか」


「それがどうかしたの?」


の話に相槌を打ったリナに、疑問そうな瞳を向ける。
すると、リナは「ふふっ」と笑みをこぼした。


「んーん 同じような夢を見てたら面白いなーと思っただけよ」


そう答えたけれど、それだけではなかった。
もし、同じ夢を見ていたとしたら────……があの魔族と無関係じゃない確率が高くなったのだ。
それすらも確認出来ず、リナは内心溜め息を吐いた。



あたしはいつまで……を疑えばいいのかしらね



自ら疑う事を選んだリナ。
しかし、一緒に居れば居るほど情は移るもの。
まして、は人と一歩置いて付き合うような人柄ではなく、まるで友達のように初対面の時から接してきた。

なおさら、情は強く移ったのだ。


「リナさん、さん こんな夜中に二人だけで出歩くのは危ないと思いますよ?」


「「ゼロスッ」」


突如現れたおかっぱ頭のゼロスに、リナもも驚きの声を上げた。
目を丸くし、虚空を渡ってきたゼロスの閉じられた瞳を見つめる。


「夜中にこうして姿を現すあんたも、十分危険因子だと思うけど?」


「はっはっは そりゃ、僕は魔族ですからねぇ」


ギロリとゼロスを睨むリナの言葉に、ゼロスは全く堪える様子もなく笑って返した。
何を考えているのかが分からないゼロスは、本当にリナの言うとおり十分な危険因子であった。


「それで、ゼロスは何か用があって来たんじゃないの?」


「はい、勿論そうですよ」


の問いかけにゼロスは濃い紫の髪を揺らし頷いた。
いつも細め閉じられていた瞳が、ゆっくりと開かれた。


さん────……あなたは一体、何者ですか?」


「………… ……は?」


「ゼロス、何を言って……?」


ゼロスの問い掛けに、リナは訝しげな視線を送った。
は目を見開き、言葉の意味を必死に探ろうとした。

けれど、ゼロスが聞きたかったのは言葉の通りの意味だった。


「……もう一度問います あなたは一体、何者なんですか?」


「何者って……私が一番、自分が何なのか知りたいよ!」


ゼロスの問い掛けに、は声を荒げた。
しかし、大きく溜め息を吐き首を左右に振るゼロス。


「そういう意味ではありません まぁ、確かに……あなたがいったい何なのか知りたいのは僕もリナさん方も同じですが……」


「……?」


全く、意味が分からない
ゼロスを見つめ、言葉を待った。
それはリナも同じだった。


さんは、見た感じ人間ですよね?」


は人間でしょう?」


「私も……私は人間だと思うんだけど?」


ゼロスの問い掛けに、またも訝しげな視線を送るリナと
二人の答えに満足気にゼロスは微笑むと。


「ですが……僕には、それ以外の何かを感じるんです」


ただし、それが何なのかゼロスにも分からなかった。
綺麗に隠されているというか、分からないほど微かにしかその存在を現していないというか。
ゼロス自身にも、それが何なのか把握出来ずに居た。


「人間以外の……何か?」


「はい それが……さんの本当の姿のような……そんな感じがしました」


「私が人間じゃないってゼロスは言うの!?」


ゼロスの言葉は遠まわしに、そう言っているようなものだった。
悲しげな色を瞳に携え、ゼロスを見つめた。


「……これは、あくまでも僕の推測ですから そうじゃないと思うのでしたら、気にしなくていいですよ」


そう言われても、やはり人間じゃないと疑われていると思うと悲しくなってしまう。
一度感じたそんな思いは、なかなか消えるものでもなかった。


「……ゼロスは、私を人間じゃないって疑ってるんだね いったい、何を疑ってるっていうの!?」


「…………」


の問いかけにゼロスは何も答えなかった。


「〜〜〜〜〜〜〜〜っ 私は人間だよ!……名前も出生も、すべて覚えてないけど……私は人間!」


悲痛な叫びが夜空に木魂した。
全身全霊で叫んだようで、はハァハァと肩で息をしていた。


さんがなんと言おうと、僕は感じた事を伝えたまでですよ
 今さら、変えるつもりはありません」


「ゼロス!!」


ゼロスの冷たいもの言いに、リナが声を荒げた。
しかし、ゼロスは飄々としたまま何も言わない。
言った言葉を変える事も、謝る事も、そしてもう一度念を押す様に言う事もしなかった。


「いくらなんでも、言いすぎよ 疑ってるからって……そんなあからさまに言わなくても」


「そうですねぇ ですが、僕は魔族なんでリナさん達みたいに上手く隠すつもりは毛頭ないんですよ」


「……え?」


その言葉は、リナ達もゼロス同様にを疑っているという意味に取れた。
否、その通りだった。

は、二人の発言についていけずキョトンとした視線を二人に向けた。


「……え?それって……どういう……」


「そのままの意味ですよ」


「────っ」


ゼロスのその言葉で、は息を呑んだ。
漸く頭の回転が始まったかのように、スラスラと状況が理解出来ていく。


「リナ達も……私を、疑ってたの?人間じゃないかもしれないって……
 何を……疑うっていうの?初めてあった人間を……なんで、そんなに疑うの……?」


ザ……

は一歩、また一歩と後ずさった。
ツン、と目頭が熱くなる。


「……私とリナ達は……初対面じゃなかった?なのに……リナ達は初対面って偽って……騙してきてたの?」


どんどん考えがよくない方へと向いていく。
全てが敵に見えた。
全てが自分を疑っているように見えた。


「私はっ……私はっ……」


そこまで声を上げると、息を呑み踵を返した。
床を踏みしめ駆けだしたの後姿を、リナとゼロスはハッと見つめた。


「待って下さい、さん 話はまだ、終わっていませんが?」


パシッ

駆け出したの腕を、ゼロスがしっかりと掴んでいた。
ぐっと後ろに引っ張られるような感覚に、の足は前に出なくなる。


「この際、すべてを話しましょう……リナさん」


「アメリア……」


聞こえた呟きに、リナは視線を向けた。
そこには寝巻きを身につけた、寝起きのアメリア達の姿。
ガウリイ、ゼルガディスも同様に居た。


「全てを話して、は無関係である証拠を探そう」


「そうですね さんが人間だと言い、話を聞いても無関係だと言うのなら……そういう方法もありますね」


ゼルガディスの言葉に、ゼロスが頷いた。
疑ってはいたが、そうだと決めつけている訳じゃない。


「そのためには、やっぱりの記憶を取り戻すのが先決ね」


を除いた状態で進む話に、はキョトンとしていた。
疑っていたはずの者達が、何故かの無実を晴らそうと行動してくれようとしていたのだ。


「────……みん、な?」


「確かに、あたし達は────……ゼロスも含め、あたし達はを疑ってたわ
 だけど、それと同時に……無関係だと信じたかった」


「だからリナさん方は、さんの記憶を取り戻す事に好意的に協力していたんですよ」


じんわりと、視界が滲みそうになった。
ごしごしと手の甲で目を擦り、涙をぬぐう。


「……これから、昔話をするわ が無関係だって言うなら、それでいい
 そうしたら無関係だって証拠を探すために、あたし達はの記憶を取り戻す事に協力する」


リナの言葉に、はコクンと頷いた。
ここにきて漸くの一歩前進かもしれない。










to be continued............




ゼロスの発言をキッカケに、リナ達もヒロインを疑ってた事を暴露。
実は、ここの話を書いてる時に"疑ったまま記憶を取り戻す事に協力する"か"ヒロインが無関係だという証拠を探すために記憶を取り戻す事に協力する"かのどっちにするか迷いましたw
結果、無関係だという証拠を探すために────にしたんですが。
この方が、のちのちの心のショックは大きくなりそうだなーと。はははw






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