「それは……数か月前に起こった出来事だったわ」


それが、この昔話の冒頭だった。
リナの声が、を物語の中へと引き込んでいった。











RECOLLECT 第七話











「リナ!」


懐かしい声に、栗色の髪をなびかせてリナは振り返った。
そこには懐かしい面影の残る────……いわゆる幼馴染が居た。


「サオ 久しぶりね!元気だった?」


「勿論よ リナは元気に今も世界を飛び回ってるの?」


互いの今の話に花が咲く。
ガウリイもゼルガディスもアメリアも、ただ唖然とリナと楽しげに語り合う少女────サオを見つめていた。


「ああ 紹介するの忘れてたわ あたしの幼馴染のサオ=ティオ=キャンベーラよ」


「どうも、初めまして」


リナの紹介に、サオはペコリと頭を下げた。
それにつられるように、三人も頭を下げる。


「で、こっちがガウリイ=ガブリエフ アメリア=ウィル=テスラ=セイルーン ゼルガディス=グレイワーズよ」


「宜しく」


「「ああ」」


「ええ」


リナの紹介で、ニッコリと微笑むサオ。
ガウリイとゼルガディスは当時に頷きながら相槌を打ち、アメリアはサオの手を握り握手をしながら微笑んだ。


「それより、クレスケレスまでどうしたの?」


「それはあたしの言葉よ まさかこんな所であんたに会えるとは思ってなかったわ」


「それは私の台詞でもあるよ〜」


くすくすと楽しげに、すべての会話が進む。


「実は、ちょっと買い物でね……欲しいものが、ここにしか売ってなくて」


「だったら連絡くれれば、ちょちょいと買って持ってったのに」


サオの言葉にリナは肩をすくめた。
しかし、その言葉にサオはチッチッチと指を振り舌を鳴らした。


「リナに頼むと謝礼せがまれるから嫌なのよ」


「うわっちゃ〜バレてたかぁ〜」


「何度やられたかって いい加減身にしみてるよ」


やはり、昔話に花が咲くのは幼馴染だからだろうか。
それからリナとサオは二人の子供のころの話で盛り上がっていた。

迫りくる邪悪な気配に全く気付かずに。














「で────……リナ?」


話しを続けようとしたサオに、ストップの手を出したのはリナだった。
問い掛けに、人差し指を唇にあて『シー』と黙るようにと促した。


「……、…………」


ただならぬものを感じたのか、サオも静かにコクンと頷いていた。


「ごめん、サオ 巻き込むわけにもいかないから……あたし達はクレスケレス外に向かうわ」


「え、でもっ……」


「いいの あたし達はこれでも慣れてるのよ、こういう事に」


ウインクをして、リナはそう言った。



この気配は……魔族
それも、結構高位な……なんでこんな時にっ



けれど、内心焦っていた。
やはり人間と魔族は相容れぬもので、存在自体がまったく違う。

魔族は、人間からすれば脅威な程に強い。


「……気を付けて、ね」


「ええ」


そのままサオとリナは背を向け、関わりを持たない様に別れた。
これが、最悪の結末を導くとも知らずに。

さくさくさくさく……


「リナさん」


「ええ おかしいわね……気配がこっちに来ないわ」


どんどんクレスケレス外へと向かっているというのに、気配は全くリナ達の方には向かわなかった。
それは疑問を生み、不安を生んだ。


「……とりあえず、外まで出よう こんな場所で攻撃を仕掛けられては不利だ」


ゼルガディスの言葉に、リナもアメリアもガウリイも頷いた。
外へ向かう足取りは、先ほどよりもより一層早まっていた。











「私が来るのを待ってたなんて馬鹿だね」


「!?」


突如後ろから掛かった声に、リナは慌てて振り返った。
そこに広がる光景に、目を瞬いた。


「サ……サオ!!!」


現れたロングヘアの魔族の腕に抱えられていたのは、気を失ったサオの姿だった。


「あんたくらいの力を持ってるのに、私がこの子に近づいていたのに気付かなかった?」


「サオさんを離して下さい!!」


魔族の言葉にギリ、と奥歯を噛んだ。
悔しくて悔しくて何も言えないリナの代わりに、アメリアが叫んだ。
しかし、その言葉さえ魔族を喜ばせるものにしかならなかった。


「いやだね この子を人質に持っていれば……楽しそうじゃないか」


「……非道な奴」


「そりゃあ、私は魔族だからね 魔族の私に何を期待した?」


リナの苦しい呟きに、魔族は楽しげに高らかに笑い声を上げた。
その笑いに、リナはまたも奥歯を噛みしめるだけだった。


「人間は魔族に何も期待しちゃぁいけないよ?あっははははは
 魔族が人間に期待するのはありありだけどねー」


「う……」


「おや、目が覚めたかい?」


魔族の笑い声に、サオは漸く目を覚ましたようだ。
小さく呻くと魔族が気付き、視線を落とした。

向けられた視線に、声にサオはビクッと肩を揺らすと。


「いっ、いやっ!離して!!!」


慌てたように腕を足を動かし、魔族の腕から逃れようとした。


「無駄無駄 人間ごときが私の腕から逃れられるわけないだろう?」


「うっ……ぐ……」


楽しそうに言い切ると同時に、魔族はサオの首に手を掛けた。
強く握ればサオの口から零れる声に、魔族の表情は嬉々とした色に変った。


「サオ!!」


「うあ、ああ……くぅぅああああ……」


苦しそうな声が唇から零れおちる。
サオの身体を抱えていた腕をどかせば、支えていたものはなくなる。

つまり────


「くあああああああっ!!!うっ……はっ、かはっ……あぅ……」


「やめてっ…サオが、サオが死んじゃうっ!!!」


宙に浮いた足がぶらぶらと揺れる。
魔族の手を掴み、必死に助けを請うサオがとても辛そうで。

リナの悲痛な叫びが上がった。


「あははははははは!そうよ、その負の感情を私は食べたいんだよ!」


「ぅああああああああああ!!ああっ…あーあー!…うっ」


少しだけ首を掴む力を弱めると、サオの口からハッキリとした悲鳴が上がる。
そして、その分死へ向かう時間が伸びた。


「はああああああ!」


「無駄だよ、そんな技……効かない」


リナがまったく戦闘態勢に入らない事に気付き、ガウリイが魔族に光の剣で斬りかかった。
あのドラマタと呼ばれるリナが、なんとも腑抜けな状態。


「リ、ナ……助け、て……ぐ、う……」


助けを求める様に、潤んだサオの瞳がリナを捕らえた。
その瞳を真っすぐ受け止めるも、リナはたじろぐ。



今ここであたしが動いたら……サオは────……



「リナさん!奴に攻撃をしかけないと、サオさんが死んでしまいます!」


「分かってるわ!分かってるけど……下手に手を出せないのよ!」


アメリアの言葉に、リナは悲痛な叫びをあげた。


「よぉく分かってるねぇ 私にとってこいつは人質
 でも必要なくなっても邪魔になっても殺すからねぇ……私に攻撃を仕掛けるとなれば────……分かるかなぁ?」


ニヤニヤと魔族はリナとアメリア、そしてゼルガディスとガウリイを見つめた。
その口は嫌という程に歪んでいた。


「その反応が、一番正しいけど……でも、このまま続けば結局こいつが命を落とすってのも分かるよね?
 だからかな?その葛藤してる……感情はぁ」


「────っ」


魔族の指摘にリナは息をのんだ。
どっちの道を選んでも、結局サオを危険な目に合わせてしまう。
どう行動するのが一番いいのか、一番手っ取り早いのか、リナは必死に思考を回転させていた。


「リ、ナ……こいつ、を 倒し────……」










to be continued....................




過去話編。
どうやってストーリーを展開させていくか、書きながら首を傾げてしまいますな。(^〜^;)






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