広がる苦しみは目の前を暗くさせていく。
まるで暗転していくかのように。










RECOLLECT 第八話










「必死に抗うねぇ ま、そういう方が私にとっては美味しいんだけどねぇ」


くくく……

喉の奥を鳴らすように、魔族は笑った。
目の前で何かしようと必死に試行錯誤を繰り返すリナ達を見つめて。


「リナさん!!!」


「倒、し……て────……リナ……」


アメリアの促す叫び声。
そして、魔族の手のうちから零れるサオの必死な声。


「ブラム・ブレイザー!!」


即座に詠唱を開始し、リナは魔族の一瞬の隙を突いた。
青い光の衝撃波が、伸ばしたリナの手のひらから魔族に向って一直線に放たれた。


「ぐぎゃあああっ!!」


いきなりの攻撃に、魔族は声を上げた。
と言っても、その攻撃で消滅させる事は出来ず苦痛を与えるだけだったが。



緩んだ!



魔族のサオの首を掴む手が緩んだ事を、リナは見逃さなかった。


「サオ!!!」


必死に駆け寄り、リナはサオに手を伸ばした。


「小癪な真似を……人間風情がッ!!!」


魔族はカッと怒りに目を見開いた。
その瞬間、不思議な地響きがした。

ゴゴゴゴゴゴゴゴ


「────しまっ」


そう声を上げた時には既に遅かった。
衝撃波がリナ達を遅い、悲鳴すら上げる事も出来ずその場に倒れた。


「もういい……足手まといな人間など、いらん」


ギロリ

鋭い視線がサオを射抜いた。
十分に、サオ本人とリナ達から負の感情を食した魔族。


「苦痛を味あわせながら、最後の食事としようか」


グッ

その呟きと同時に、魔族の手に力が籠った。
サオの首に掛かる手の圧力が、徐々に徐々にサオの首を潰していった。


「くっ……はっ、あ…………苦し、い……助、け────……」


足をバタつかせ、必死に魔族の手を振り払おうと自らの手で腕を解こうとする。
しかし、しっかりと掴み離さない魔族。


「ボム・ディ・ウィン!!」


素早く詠唱を済ませたリナが魔法を発動させた。
魔族とサオ目掛けて炸裂した高まった風の力は、一気に解放され二人に向かって吹き荒れた。
しかし、魔族が思った以上にサオの首をしっかりと掴んでいた。


「うあああああああああ……あああ、ああ……ああぁああ、ぁぁぁあああ、ああ……」


叫ぶサオの声が、徐々に途切れ途切れになった。
途切れた声も、徐々に小さくか細くなっていく。


「サオ!!!」


「馬鹿めっ 人間風情が、魔族であるこの私に敵うはずがないだろうに」


ニヤリと楽しげな笑みを浮かべる。
悔しさと悲しさが、沸々とリナの胸に込みあがる。


「ああ、美味しいよ、その感情 もっと私に食わせて頂戴?」


その感情さえも、魔族を喜ばすものにしかなり得ない。
なのに悔しく思わずには、悲しく思わずには居られなかった。


「さて……これが本当の最後の最後 言い残す事はある?」


「────……ッ!!!」


「ああ、喋れないよね、もう じゃ────……」


魔族の言葉に、抗議するようにサオが口を開閉させた。
しかし何も言葉は出てこなくて。

ニヤリ

魔族が一つ笑みを浮かべた瞬間だった。


「さようなら、私のご飯」


ぐしゃっ

断末魔さえ上げられず、サオは首を潰され事切れた。
バタつかせていた手足は力なくダラりと下がる。


「うああああぁぁぁ────!!!」


リナの悲痛な悲鳴が上がった。
両手で頭を抱え、悲しみに上がる悲鳴は延々と続く。


「あんたのその負の感情も美味しいけどさ……
 ドラマタで有名なリナ・インバースを倒せば────……私も名前を馳せられるわけだね」


ペロリと舌で唇を舐め上げ、親指で下唇を触る。
そして、異様な雰囲気を醸し出す笑みを浮かべた。


「一目置かれるようになると……やっぱり、いろいろと行動しやすくなるんだろうね」


「なに、を……」


魔族の言葉に、リナは睨みを利かし視線を向けた。
その視線に、魔族はゾクゾクと気持ちの良いものを感じていた。


「あんた、私の為に死んで?」


フッと笑みを浮かべ、魔族は長い髪を腕に絡み付け靡かせながら言った。
ゆっくりと腕を伸ばし、長い爪先でリナを指し示す。


「────っ!リナさん!!!」


爪先に光何かに気づいたアメリアが慌てて叫んだ。


「エア・ヴァルム!!」


慌てて呪文の詠唱をしたアメリアはリナの前に立ちはだかり、魔法を発動させた。
瞬間、風の結界がアメリアとリナを包み込み魔族の攻撃を防御した。

ゴオオオ────────!!!


「ふふふ、そうじゃなくちゃね 簡単に殺せたんじゃ……つまらない」


異様な程に歪む笑顔。
魔族は本当に殺戮を楽しんでいた。


「早く私を倒そうとしないと────……ねぇ、リナ・インバース
 私、あんたの仲間を殺しちゃうよ?」


「ラザ・クロウヴァ!!」


ニヤリと笑った魔族に向けて、リナは即座に詠唱をして発動した。
小さな無数の光の粒がブリザードのように魔族に向って吹き付けられた。


「無駄無駄無駄っ!」


一瞬にして空間を渡り、魔族はリナの攻撃を避けた。
そして、鋭く尖った爪でリナを引き裂こうと手を伸ばす。


「「エア・ヴァルム!」」


「ガルク・ルハード!!」


ゼルガディスとアメリアは同時に、二重になるようにガウリイの近くで風の結界を張った。
それと同時に、リナが魔法を発動させた。
リナを中心に爆風が起き、魔族に襲いかかった。


「ぐああああああああ!!!」


精神にも効果のある魔法だった所為か、魔族は苦痛の悲鳴を上げのた打ち回った。


「どうやら、このあたしを甘く見ていたようね
 サオを殺した事、後悔させてあげるわ」


そう紡ぐと、リナは意識を集中しドラグ・スレイブの呪文の詠唱を始めた。
徐々に紡がれていく詠唱に、魔族はサァァっと青白い顔になり。


「くそっ!!」


悔しげな声を吐き、魔族は虚空に姿を消した。
そこで、リナの呪文の詠唱はストップした。


「────……逃げられたわね」


チッと一つ舌打ちすると、リナはゆっくりとサオに近づいた。
見るも無残な死に顔が、そこにはあった。


「ごめんね……サオ あたしと関わったばっかりに、こんな目に……」


たとえ、リナが悪いんじゃなかったとしても罪悪感に苛まれずには居られなかった。
悔しかったのだ。













「これが、あたしの知る出来事よ あなたと出会うちょっと前のね」


すべてを話し終え、リナは苦笑を含む笑みを浮かべた。
話されても、あまりピンと来ない


「……リナ」


「そんな顔しなくていいわよ!で、何か思い出せそう?」


明るく言うリナは、笑みを浮かべていた。
その笑みが強がりで浮かべているものだと、分かるような辛いものだったけれど。


「ごめん 折角……こんな辛い話をしてくれたのに────……
 確かに人物像は……多少の違いがあるにしろ、私に似ているかもしれないけど……全然、何も……」


ふるふると、は首を振った。
まるで、第三者の話を聞くようで何も感じない、何も思い出せない。


「そっか……まぁ、それならそれではあたし達の知る魔族とは無関係だって思えるし、記憶を取り戻す事に協力もし易くなるわ」


「僕もリナさん達と同じように無関係だという方向で、記憶を取り戻す事に協力しましょう
 ただし、さんから感じるもう一つの気配に関しては……少し警戒した方がいいかもしれませんがね」


いつものニコ目で、ゼロスはいけしゃあしゃあと話した。
それでも、疑いはほぼ晴れたことには変わりない。


さん、今まであなたを疑うような事ばかり言って申し訳ありません」


ゆっくりと閉じていた瞳を開き、ゼロスがそう告げた。
そのゼロスの言葉に同意するように、リナもまた「あたしも……ごめんね」と言ってくれた。


「あ、ううん 私自身でさえも……自分の事が分からないんだもん────……仕方ないよ」


は静かに首を左右に振った。
分からないのだから疑われて当然だ。
しかも、今のリナの話からすると瓜二つではないとはいえ本当にに似ていたらしかったから。


「それで、リナさん これからさんの記憶を取り戻すって事ですが……クレスケレスに着かないと何も思い出さないのではないですか?」


ゼロスの言葉は正解だった。
自身、記憶が全くないのだから他の場所によって何か思い出すという事は難しい。


「ゼロスの言うとおりだな 俺もそう思う」


ゼルガディスは静かに頷き同意した。


「とりあえず、魔族(アイツ)を警戒しながら進むとするわ
 ……多少遠回りしたりするけど……構わない?」


本当ならば、最短距離でクレスケレスに行きたいところだった。
距離も距離でまだまだあるからこそ。
けれど、魔族とが無関係だと結論づいたなら、これくらいの警戒はしないと駄目だろう。


「うん、構わないよ 私はリナ達に連れて行ってもらう身だし……事情は今話してもらって想像付くから……」


遠回りする理由はちゃんと理解しているよ、とは告げた。
そういう理由ならば、「嫌だ」とは言えないのだ。


「じゃ、ゼロス……別行動解除してもらえないかしら?」


リナの言葉にゼロスは一瞬驚いた表情を浮かべた。
えええっ!?と驚きの声を上げ、数歩後ずさっていたのはオーバーリアクションかもしれないけれど。


「クレスケレスに向かうって決まったわけだし、クレスケレスに着くまで思い出さない可能性だって高いわけだし……
 だったら、一緒に行動した方が有意義じゃないかしら?」


リナの言い分はもっともだった。
前みたいに、探ったりあちこちで証拠を見つけたりするんだったなら別行動でもかまわなかった。
けれど、ここからは違うのだから当然そういう考えに行きつくのだ。


「……分かりました 一緒に行動させて頂きます」


最終的に折れたのはゼロスだった。












to be continued.............




とりあえず疑いは微妙に晴れました(おい)が、皆様は気付かれましたでしょうか?
実は、まだヒロインは無関係だと思ってもらってるだけで信じてもらっていないという事実に……
これから、旅をして事件に巻き込まれながらも記憶を取り戻す事に必死になり、みんなに信じてもらうようになるでしょう。(多分)






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